山の天気

広之新

プロローグ

 その山に登ればそれがわかる。晴れた日の山の上から見るその風景は息をのむほど美しい。辺り一面に神秘的な銀世界が広がり、日の光を浴びてキラキラと輝いている。だが一旦、天気が崩れるとその光景は地獄へと変わる。空はどんよりした厚い雲が覆い、雪が吹き荒れ、体の自由を奪って視界を遮る。そこで自然の猛威を思い知ることになる。


 私は長野県警の協力を受けて強盗殺人犯を逮捕に奥沓村へ向かった。そこは高い山の峠を越えて行かねばならない。乗っているパトカーは4輪駆動車だがそれでも不安は付きまとう。そんな私に運転する毛利巡査長が声をかけた。


「ここは難所なんです。とにかく天気が変わりやすくて。でも今日は晴れてよかったです。これなら大丈夫でしょう」

「ええ、そうですね」


 私は相槌を打った。だが私はそれより容疑者の方に興味があった。20年前に強盗殺人を犯し、過疎の奥沓村に潜んでいるという。彼が長い間、どういう気持ちでこの雪深い村に隠れていたかと・・・。


「ところで山本三治という男はどんな男なのですか?」

「畑をして生活していたそうです。変わり者だそうで、なんでも村では『嘘つきオヤジ』と呼ばれているようですが」

「『嘘つきオヤジ』?」

「ええ。適当なことを言ってだましているらしいです。それでこう呼ばれているそうなんですよ」


 助手席に座る上野巡査がそう教えてくれた。


(口のうまいペテン師か・・・)


 私は山本にそんな先入観を持った。村の人を丸め込んでいたのかもしれない。


 とにかく村に行くまでの山道は険しい。雪でも降ったら走れなくなるかもしれない。そうなると車を捨てて徒歩で助けを呼ばねばならない・・・そんな最悪なことが頭をよぎっていた。


(考え過ぎだわ・・・)


 窓から見える山々に雲がかかり始めている。それが私には不気味に見えていた。 

  

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