【エピローグ: 穏やかな渦潮】
現実世界、東京・阿佐ヶ谷の墓地。春の陽射しが優しく桜の花びらを散らす中、悠真は妹・りえの墓前に花を供えていた。三十歳を目前にした彼は、黒いコートを羽織り、手には新刊の単行本を持っている。作家としてデビューして数年——処女作『渦潮の記憶』は大ヒットし、続編の話も進んでいる。だが、今日の墓参りは特別だった。あの戦いが終わってから、初めての春。
悠真は墓石に手を置き、静かに語りかけた。「りえ……全部、終わったよ。お前の記憶、守れた。リエルが……お前が、俺の中に生きてる。」
風が吹き、花びらが舞う。悠真の頭に、穏やかな渦潮の感覚が訪れる。転移ではない。ただの残響——心の奥底で繋がる、優しい波。
──残響界。穏やかな森の中。
リエルは木陰に座り、銀色の髪を風に揺らしていた。傍らにはセラがいて、地面に短剣で地図のようなものを描いている。二人はもう戦う必要はない。ただ、残響界の守護者として、時折訪れる転移者を迎えるだけだ。
リエルは空を見上げ、微笑んだ。「お兄ちゃん……墓参りかな。共有で、少し感じるよ。桜の匂い、花びらの柔らかさ……地球の春、綺麗だね。」
セラが笑った。「へへ、浩太の記憶も鮮明だぜ。阿佐ヶ谷の桜並木、昔歩いた気がする。お前の小説、残響界でみんな読んでるよ。『渦潮の記憶』——俺たちの話だろ? 続編、楽しみだな。」
リエルは膝を抱え、静かに言った。「俺……りえの記憶と、エコリアの記憶、両方持ってる。お兄ちゃんが作家になって、記憶を共有してくれるから、俺はここで生きていられる。忘却なんて、来ないよ。」
セラは短剣を地面に刺し、立ち上がった。「ああ。ヴォルドの影も、もうない。悠真が逆回転させた渦潮が、すべてを癒した。俺は放浪続けるけど……時々、地球に戻れるかもな。お前の小説が、架け橋だ。」
二人は森の奥を見た。遠くに、新しい転移者の気配——だが、それは脅威ではなく、癒しを求める誰か。
──現実世界、阿佐ヶ谷のアパート。
悠真はデスクに戻り、パソコンを開いた。新作の原稿——タイトルは『残響の覚醒』。物語は、終わったはずの異界が再び動き出すところから始まる。
悠真はキーボードを叩き始めた。「エコリアは消えなかった。ただ、穏やかな残響として、心に残った。記憶は失われても、共有すれば再生する……」
窓の外、桜が舞う。悠真は時折、穏やかな渦潮を感じる。リエルの声、セラの笑い——遠くから、優しく聞こえる。
「お兄ちゃん、ありがとう。」
「へへ、待ってるぜ。」
悠真は微笑み、原稿を続ける。現実と心の世界、両方を繋ぐ物語を。
記憶の渦潮は、決して枯れることはない。ただ、穏やかに、永遠に回り続ける。
──完──
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