【第5章: 裏切りの影1(セラの過去の謎)】
現実世界の朝、悠真は大学のカフェテリアでコーヒーを飲みながらノートを広げていた。文学部のレポート締め切りが近づき、昨夜のエコリアでの出来事を振り返っていた。共有民の村での恐怖——個性が溶けかかる感覚が、まだ頭に残っている。だが、そのおかげで現実の人間関係がより大切に感じられるようになった。隣の席に拓也が座り、朝食のパンをかじりながら話しかけてきた。「悠真、昨日剣道の練習欠席したけど、大丈夫か? なんか疲れてる顔してるぜ。最近、夜更かし?」
悠真は笑ってごまかした。「ああ、ちょっと夢見てさ。変な夢で、記憶が混じっちゃうみたいな……でも、面白いよ。剣道の新技、夢で閃いたんだ。次は絶対来るから、待ってて。」本当はエコリアの旅が体力を消耗している。でも、共有の影響で会話が自然になり、拓也との友情が深まっていた。「ところで、拓也。お前の幼少期の思い出って、全部覚えてる? 俺、最近記憶のこと考えてさ。」
拓也は肩をすくめた。「全部は覚えてないよ。子供の頃の旅行とか、ぼんやりしてる。でも、なんでそんなこと聞くの? なんか哲学的だな。」
悠真は曖昧に笑った。「いや、ただの思いつき。記憶って、大事だよな。」エコリアのセラのことが頭をよぎる。あの男の記憶喪失の謎——本当に何もないのか? 伏線のような地球の断片が、気になって仕方ない。
講義を終え、アパートに戻ってすぐに転移した。今日こそ、セラの謎を少し探ってみよう。
──エコリア、北の古城への道中。四日目の夕暮れ。
三人は森の縁でキャンプを張っていた。焚き火の炎がゆらゆらと顔を照らし、周囲は木々の影が濃くなる。リエルは地図を広げ、ヴォルドの古城までのルートを確認している。セラは木の幹に寄りかかり、いつものように笑顔で空を見上げていた。悠真は薪を集めながら、セラに視線を向ける。共有民の村以来、セラの言葉が頭に残っていた。「お前の記憶に、地球の断片がちらっと見えたよ」——あれはただの冗談か?
夕食のスープを分け合いながら、悠真が切り出した。「セラさ、ちょっと聞きたいんだけど……お前、本当に記憶全部失ってるの? 共有民の村で、俺の現実世界の記憶に反応してたよね。地球って言葉、知ってるみたいだった。」
セラはスープをすすり、へらへらと笑った。「へへ、悠真の勘がいいな。記憶ないって言ってるだろ? 何も覚えてねえよ。ただ、共有でちらっと見えるだけさ。お前の大学生活とか、面白そうだと思ってさ。」
リエルが地図から顔を上げ、目を細めた。「セラ、いつもごまかすけど……本当だよな? 俺たちと旅してるけど、時々変なこと言う。地球? それ、現実世界のことだろ? 悠真の記憶から知っただけじゃないのか?」
セラは肩をすくめ、焚き火に薪をくべた。「まあ、そうかもな。へへ、記憶ない男の戯言だよ。気にすんな。」
だが、悠真は諦めなかった。共有民の体験で、記憶の重要性を痛感した今、セラの謎を放置したくない。「セラ、共有してみない? 軽く触れて、俺がお前の記憶探ってみるよ。もしかしたら、残骸みたいなものが残ってるかも。現実世界の記憶がちらつくなら、俺みたいに転移者かも知れないぜ。」
セラの笑顔が少し固くなった。「おいおい、止めてくれよ。記憶ないんだから、何も出ねえよ。共有しても、空っぽだぜ。」
リエルが悠真を止めようとした。「悠真、無理に……セラはいつもそう言ってる。記憶失って放浪してるんだろ? 触ると、空白の器みたいに感じるだけだ。」
しかし、悠真はセラの肩にそっと手を置いた。軽い共有の意志を込めて。「セラ、嫌なら離すよ。でも、仲間だろ? 何か手伝えるかも。」
瞬間、共有が始まった。通常の流れ——だが、セラの記憶は本当に空白だった。灰色の霧のようなものしか感じない。だが、深く探ると……ちらりと断片が浮かぶ。現代の街並み、車、スマホの画面、地球の記憶。もっと深く——事故の光景、渦潮に飲み込まれる感覚、転移の痛み。
悠真は息を飲んだ。「セラ……これ、お前の記憶だろ? 地球の街、事故の瞬間……お前も転移者だ! 記憶失ってるんじゃなくて、封印されてるみたいだ!」
セラは手を振り払い、立ち上がった。笑顔が消え、珍しく真剣な表情。「……ばれたか。へへ、よく探ったな、悠真。お前の共有力、強いよ。」
リエルが驚いてナイフを構えた。「セラ、何だよそれ? 転移者? 記憶ないって嘘か?」
セラはため息をつき、焚き火の前に座り直した。「嘘じゃねえよ。ほとんど本当だ。記憶は本当に失ってる……ほとんどな。残ってるのは断片だけさ。地球の記憶、転移の瞬間、それだけ。俺は、お前より前の転移者だよ、悠真。十年前くらいかな……正確には覚えてねえけど。」
悠真は目を丸くした。「十年前? じゃあ、先輩みたいなもんか? どうやって転移したの? 俺みたいに夢の渦潮?」
セラは薪をいじりながら、ゆっくり語り始めた。「そうだよ。地球で、俺は……普通のサラリーマンだった気がする。名前すらぼんやりだけど、確か『浩太』とかそんな感じ。忙しい毎日、ストレスで眠れなくて、毎晩奇妙な夢を見てた。ある夜、渦潮に飲み込まれて……目覚めたらエコリア。最初はパニックさ。記憶共有の力に戸惑って、住民に触れる度に他人の過去が流れ込んでくる。戦闘で記憶を燃やしたり、共有しすぎて自分の記憶が薄れたり……それで、徐々に本当の記憶を失っていった。」
リエルは静かに聞いた。「それで、放浪者になったのか? 記憶を失って、俺たちみたいに旅してる?」
セラは苦笑した。「そうだよ。最初はヴォルドのことを探ってた。俺の転移の原因が、ヴォルドの儀式に関係してる気がしてさ。あいつの『究極の渦潮』は、異世界の記憶を燃料にするらしい。俺の地球の記憶が狙われたのかも……でも、深く探りすぎて、記憶を燃やしすぎた。残ったのは断片だけ。へへ、今じゃコミカルに振る舞ってるけど、昔は真面目だったぜ。地球で上司に怒られてる記憶とか、ちらつくよ。」
悠真は共有の余韻で、セラの断片記憶を感じていた。「浩太さん……って呼べばいい? 事故の記憶、見えたよ。車? 交通事故みたいなの?」
セラは首を振った。「呼ぶのはセラでいいよ。それがエコリアでの名前さ。事故……そうだな。地球で、過労で運転中に居眠りして、崖から落ちた気がする。死んだはずなのに、渦潮に救われて転移した。エコリアに来てから、記憶共有で生き延びたけど……代償が大きかった。家族の顔、友達の名前、全部薄れた。残ったのは『地球の断片』だけ。お前の記憶共有で、それに反応したんだよ。」
リエルがセラの肩を叩いた。「セラ……そんな過去があったのか。俺も母親の記憶売って生きてきたけど、お前の喪失はもっと深いな。なんで俺たちについてきた? ヴォルドの情報を知ってるなら、一人で倒せばいいだろ?」
セラは笑顔に戻ったが、目が少し寂しげだった。「へへ、一人じゃ無理だよ。記憶ないから、勘だけ。悠真みたいな新しい転移者が来るのを待ってたんだ。お前の現実世界の記憶が、新鮮で強い。ヴォルドを止める鍵さ。俺はガイド役だよ。先輩として、悠真を守る。」
悠真は感動し、セラの手を握った。再び軽い共有。「セラ、先輩か……ありがとう。俺の大学生活の記憶、見えるだろ? 地球の日常、思い出すきっかけになるかも。」
セラは頷いた。「ああ、見えるよ。お前の友達の笑顔、講義のノート、剣道の汗……懐かしいな。俺の地球の記憶、似てるよ。サラリーマンの頃、残業後にビール飲んでた断片が……へへ、共有で少し鮮明になったぜ。」
リエルは静かに言った。「セラ、お前の謎が解けてよかった。でも、ヴォルドの儀式が近づいてる。転移者の記憶を狙ってるなら、悠真が危ない。セラの過去、もっと詳しく聞かせて。儀式のヒントになるかも。」
セラは焚き火を見つめ、語り続けた。「儀式は満月の夜、古城の地下で。全記憶を統合する渦潮を起こす。俺は昔、ヴォルドの部下に捕まって、記憶を吸われかけたんだ。あの時、燃焼で逃げたけど、記憶の半分を失った。地球の詳細——東京の街並み、電車の音、コンビニの弁当の味——全部ぼんやりさ。お前みたいに、大学生活の記憶がクリアなら、ヴォルドは狙うはず。」
悠真は聞いた。「東京? セラも日本人? 俺と同じ?」
セラは苦笑した。「多分な。断片で、渋谷のスクランブル交差点みたいなのが見えるよ。お前の大学、似た雰囲気だ。へへ、共有で懐かしいぜ。」
夜が深まる中、三人はセラの過去を共有し続けた。セラの断片記憶が、少しずつ鮮明になる。転移の痛み、地球の喪失感、エコリアでの孤独な放浪。コミカルな性格は、喪失を隠す仮面だった。
リエルが言った。「セラ、俺たちでヴォルドを倒そう。お前の記憶、取り戻せるかも。」
セラは笑った。「へへ、期待してるぜ。悠真、現実に戻ったら、俺の分まで大学楽しめよ。」
悠真は頷いた。「もちろん。セラの過去、共有で俺の記憶にも残るよ。一緒に、取り戻そう。」
焚き火の炎が揺れる中、三人の絆はさらに深まった。セラの謎が解け、ヴォルドへの道が明確になる。
現実に戻った悠真は、セラの断片記憶が頭に残っていた。大学で拓也に会い、「お前、昔の記憶全部覚えてる?」と聞くと、拓也は笑った。「なんでそんなこと? まあ、ぼんやりだけどな。」
悠真は思う。セラの過去のように、記憶は脆い。でも、共有すれば、取り戻せる。
旅は続く。古城が、近づく。
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