【第1章: 記憶の代償】

大学での一日を終え、アパートに戻った悠真は夕食を簡単に済ませ、ベッドに横たわった。「昨夜のことが頭から離れない。あの共有の感覚……リエルにまた会えるかな。」目を閉じ、意識的に渦潮を思い浮かべる。すると、再び転移。今回は森ではなく、賑やかな街だった。エコリアの首都、メモリア。石畳の道に、露店がずらりと並び、商人たちの叫び声が響く。「記憶売ります! 戦士の剣術、恋人の甘い思い出、料理の秘伝、なんでも揃えてますよ! 安くしとくよ、兄ちゃん!」

悠真は周囲を見回し、混乱した。「ここ、街か……人多いな。リエルはどこ? 匂いがすごい、食べ物の香りと、なんか不思議なエネルギーの匂い。」人ごみの中を歩いていると、肩に手が置かれた。「よう、悠真。また来たか。待ってたぞ。」リエルだった。今日はローブの下に革のベストを着て、動きやすそう。「お前の記憶共有で、来るタイミングがわかったよ。エコリアは記憶の渦潮で繋がってる世界。お前の意識が転移してるんだ。現実世界に戻るのは、渦潮が弱まる時だ。昨日より顔色いいな。現実で何かあったか?」

悠真は安堵し、質問を連発した。「渦潮って何? 魔法みたいなの? 昨日のおかげで、俺の体が変わったよ。現実で剣の仕草が自然に出て、大学の友達に驚かれた。体育の授業で、剣道の真似事したら、上手いって言われてさ。共有の影響だよね? なんか自信がついたよ。」

リエルは露店の一つに悠真を連れ、座らせた。小さなテーブルに、パンとスープが置かれる。「食え。転移で体力が消耗するぞ。渦潮はエコリアのエネルギー源。すべての生き物が持ってる記憶の流れだ。共有は基本で、触れれば自然に起きる。魔法? 記憶を燃料にしたものだよ。共有だけじゃなく、燃焼できる。自分の記憶を犠牲に、力を生む。でも、失ったら二度と戻らない。俺みたいに、記憶を売って生きてる奴も多い。現実での変化? 共有した記憶は一時的に残るからな。お前の剣術が上手くなったなら、俺の記憶のおかげだ。面白いな、現実世界に影響が出るなんて。」

悠真はパンをかじりながら聞いた。「売る? どうやって? 記憶を売るって、具体的にどんな感じ? 金になるの?」

リエルは隣の露店を指した。老人が客に触れ、記憶を共有している。「あれだ。客が金を払い、老人の記憶を買う。移植みたいなもんだけど、完全に馴染むわけじゃない。俺の母親は病で、記憶を全部売って死んだ。俺はそれを引き継いだ。毎日、市場で記憶を売って食いつないでるよ。辛いけど、生きるためだ。」再び共有が起き、母親の最後の記憶——病床でリエルを抱き、「生きて、強く」と囁く姿——が悠真に流れる。悠真は胸が痛み、「リエル、ごめん。そんな過去を共有されて……でも、俺も家族失ってるから、わかるよ。大学で一人ぼっちの時、似た孤独感じる。」

リエルは目を伏せ、静かに言った。「わかるか。お前の大学生活の記憶、見えたよ。講義でぼんやりしてる姿、友達がいない寂しさ。でも、共有で変わるかもな。俺の剣術で、現実の体育が上手くなったみたいに。」

そこに、ぼさぼさの髪の男が近づいてきた。三十歳くらいの放浪者風。「おお、リエル。新しい客か? 俺はセラ。記憶を失った男さ。何も覚えてないけど、毎日楽しいぜ! へへへ。記憶ないから、共有しても何も出ないよ。」セラは笑顔が胡散臭く、服はボロボロだが、どこか親しみやすい。

リエルはため息をついた。「セラ、邪魔すんな。こいつは悠真。転移者だ。現実世界から来てる。」

セラは悠真に手を差し出し、共有を試みた。「おお、地球の記憶か? 面白い! 大学? 講義? 俺の記憶ないから、羨ましいぜ。お前の剣術の変化、共有でわかったよ。エコリアの力が、現実を変えてるんだな。」

突然、街の外から叫び声が上がった。「記憶獣の群れだ! 襲撃!」住民が逃げ惑う中、半透明の獣たちが街に侵入してくる。リエルが立ち上がり、ナイフを抜いた。「来い、悠真! 俺の店に隠れるぞ。セラ、お前も! 悠真、共有の剣術を活かせ!」

三人は路地を駆け、小さな小屋に逃げ込む。店内は記憶の瓶が並び、埃っぽい。獣が小屋に迫る。リエルが叫ぶ。「悠真、共有しろ。俺の戦闘記憶を借りろ! もっと深く触れろ、細かいテクニックまで!」悠真は触れ、剣術を吸収。獣の動きを予測する感覚が体に染みる。

しかし、獣は強く、ドアを破る。セラがコミカルに叫ぶ。「俺、記憶ないから役立たずだぜ! 誰か燃焼しろよ! リエル、教えてやれ!」

リエルが説明した。「燃焼だ! 記憶を燃やせ! 意志しろ、大事な記憶を犠牲に! 例えば……昨日食べた夕食の記憶、味と匂い全部。」彼女は自分の「昨日の夕食の記憶」を燃やす。頭の中で映像が炎に包まれ、小さな火の玉が獣を焼く。「これだ! 失ったけど、生き残るため。悠真、お前もやれ!」

悠真は迷った。「大事な記憶……わかった。俺の、小学校の遠足の記憶。友達と笑った日、おにぎりの味。」頭の中で映像が燃える。友達の笑顔、おにぎりの味が灰になる。土の壁が隆起し、獣を防ぐ。「うわ、なくなった……あの楽しい日が、頭から抜け落ちてる。でも、勝てた!」

戦いが終わった後、悠真は座り込んだ。「あの記憶……なくなった。楽しかったはずなのに、感情が薄いよ。代償って、こんなに重いんだ。」

リエルは肩を叩いた。「それが代償さ。でも、生き残った。お前、強い力持ってる。ヴォルドって記憶貴族が、他者の記憶を収集してる。俺たちみたいなのを狙ってるかも。旅に出ないか? 情報を集めよう。現実での変化も、もっと増えるぞ。」

セラが笑った。「おお、面白そうだ! 俺もついてくぜ。悠真、お前の記憶に、地球の断片がちらっと見えたよ。変な世界だな。大学で剣道上手くなって、友達増えるかもな。」

悠真は現実に戻り、家族の写真を見た。遠足の日のものが、ただの紙切れに見える。「失ったんだ……でも、リエルとセラがいる。明日の大学、体育の授業で試してみよう。」翌日、大学で体育。剣道の時間に、借りた記憶で上手に振る。「悠真、急に上手くなったな! サークル入らない?」友達の誘いに、悠真は頷く。「ああ、なんか自信ついたよ。」エコリアの共有が、現実を変え始めていた。

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