第3話 怒りの日

「第一特殊攻略部隊、現在の状況を把握している者が少ないようだな。皆、モニターの前に集まれ!」

黒服と呼ばれる、ダブルトレード内でも上層部に近い社員がいる。

その黒服が二人、詰所に現れて全員を律するかのように声を上げた。

「特に、隊長……あんたはよく見たほうがいい」


映像が流れると「あっ」と誰かが漏らす。

昨晩の八竜……災害級ダンジョンの映像だった。

「この男に見覚えはないか」

佐川が口を開く。

「これって……あの子?」

いや、とまるで正しくないとしリーダーは「髪の毛の色が違う」と言った。

確かによく似ているが、とも付け加えた。

「今のところは正体不明、ということになっているが……昨晩、隊長の独断によって除隊された者がいたようだな」

「ええ、どうしようもない無能でしたから。それに坂井田様にもそう言った権限は預けられていますし」

ふん、と黒服は鼻を鳴らした。

「その坂井田様がお前をお呼びだ」


===


《こいつ、どう考えてもダブトレのクビになったやつだろ》

《髪の毛が白くなると強くなるってありがちな設定だな》

《第一に居た理由が今になってわかったな》

《なんでクビにしたの?》

《隊長が無能だった??www》



《……で、張本人はどこ行ったの?》


===


社長室のように整った空間。

まさにトップ、要人、そういった人間が居を構えるのにふさわしい場所。

普段から何気なく腰を掛けているであろうソファもきっと高級品で、この部屋の主が座っている椅子も、その前にある木製の大きな机も、常人では手の届かない金額のものだろう。

「第一攻略部隊、隊長、山中です」

大きなガラス窓からは東京の景色が一望できる。

その整った都市を眺めているのか、坂井田は山中が声を掛けても振り向こうとはせず、

「ああ……かけたまえ」

と言っただけであった。


「失礼します」

黒革のソファに腰を下ろし、まだ緊張が解けないものの毅然とした。

坂井田は右手を挙げて「しっ、しっ」というような身振りをする。

すると山中に同行してきた黒服二人は「はっ、失礼します」と声に緊張が滾った言い方をし退室した。

「さて……」

ようやく振り向いた坂井田は怒気もなく、どちらかといえば穏やかに見えた。

それだから山中はほっと胸を撫で下ろす。

「貴様……今回の件はどうするつもりだ?」

束の間であった。

坂井田は額にガーゼを貼り付けており、そこにはまさに今殴打されたかのように血が滲んでいた。

「あっ……? 坂井田様、それは……?」

「これは、いい。それよりも……なぜ私に黙って、勝手なことをした?」

クビにした隊員のことを言っているのだ、すぐと理解した。

「……ご存知かと思われますが、チームにいる意味のない人間でした。成績はもちろん、現場での動きも加味した上で……総合的! 総合的に……ですね、あいつは使い物にならないというのは坂井田様もご覧になっていましたよね!」

自然と早口になる。

たっぷりと間を開けて坂井田が口を開く。

「私が直々に連れてきた人間だぞ……。それも加味しているのか?」

「えっ……」

山中は本当に知らなかったのだ。

会社のナンバー2という立場の坂井田が用意した人間だとは汁程も知らなかった。

知っていれば違った。

打算的な山中は、間違っても無碍に扱うことはしなかっただろう。


「この……グズが……!」

突然の罵倒を受けて山中は背筋が伸びる。

「昨晩の八竜……災害級ダンジョンの制圧をした男は間違いなく貴様がクビにした奴の仕業だ……。今のところは正体不明の能力者ということになっている……それに、あのダンジョン自体も報道規制がかかっていて、八竜の巣というのは一部の人間しか知らぬのだ……」

「は、八竜……ですか? おとぎ話の?」

「八竜が存在した、しかもそれを第一をクビになった人間が討伐した……そうとわかればこの会社はどうなると思う……」

それは……と言ったきり、山中は言葉が出ない。

「今、ネットではクビになった隊員が討伐したとし、お前の評価は下がる一方だ」

そんなものは一向に構わない、そう言ったのち、

「それよりも我がダブルトレード、ひいては会長の顔に泥を塗ったとなると、どうなるのかわかっているだろうな……」

「ひっ……」

鬼を背負ったかのように見えた。

小物の、凡人の怒りとは違った。

数々の魔獣を討伐してきてもなお恐ろしいものがここにあった。


===


《で、あのダンジョンの詳細は?》

《今までにない大きさのダンジョンだったよな》

《もう閉じてるみたいだけど……都内だろ? 心配だな……》


===


視聴者には多くの謎が残るばかりであった。

あのダンジョンは一体になんであったか。

あの男は誰であったか。


――世の中の不穏な動きがある、そう受け取った者も少なくないようだった。

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