第6話 奴隷を選ぶ
「俺が欲しいのは、強さだけじゃない」
フォルンの笑みが薄くなる。商売人の聞く顔だ。
「なるほど。具体的には?」
「一緒にいても違和感がないこと。護衛だと周りに悟られにくいこと。……それと、一番重要なことは何よりも裏切らないことだ」
エルドが僅かに動いたが、俺は止めない。これは言うべき条件だ。こちらが狙われている以上、目立たない安全が重要になる。
フォルンは指輪のついた指で顎を軽く撫でた。
「なるほどねぇ。裏切らないか。……分かってるお客さんだ」
フォルンの表情をみるに、やはり傭兵出身の奴隷とか、裏切りのリスクも含んでいるのだろう。
そして、フォルンはすぐに結論を置く。
「その条件ですと、人間より獣人が合う場合が多いですね」
「理由は?」
「まず、身体能力の高い。次に、気配の察し方が違う。あと――」
フォルンは肩をすくめ、にやつく顔でいう。
「獣人は犯罪奴隷ではないのでね」
そういえば、エルドもいっていたな。
戦闘能力のある人間奴隷はなんらかの犯罪を犯して奴隷になっているものが多いと。
それに対して、獣人は生まれ持った戦闘力の高さもあって、犯罪奴隷ではなくただの身売りのような奴隷でも力を持つものも多いと。
俺は頷いた。
「なら、獣人を中心にもう一度見せてくれ」
「承知しました。……ただし先に言っておきますよ」
フォルンが笑う。先程までの胡散臭さはない。甘い香水の匂いが近い。
「質の良い獣人は高い。護衛向けは特に。種族で値段も変わる。狼は勘、猫は身軽さ、熊は力、犬は忠誠と持久――そういう能力もそのまま価格になります」
俺は心の中で換算する。
金貨1枚で一般の暮らしで約半年分。
命の値札としては妥当でも、支店の財布には重い。
フォルンが指を鳴らすと、紹介していた人間の奴隷を伴い助手が奥へ消えた。
少しして連れてこられたのは、まず女性の獣人だった。
見た目は20代前半くらいに見える。肌つやが良く、目鼻立ちも整っている。だが、体つきが違う。
肩が丸太みたいに厚い。腕が太い。胴回りが締まっていて、立っているだけで壁ののようだ。しかも、耳がぴくりとも揺れない。揺れる必要がないほど、余裕がある。
怖い。素直にそう思った。
フォルンは軽い口調で言う。
「獣人の女。30代です。戦闘もできますし、獣人奴隷は女性でも力の強いものが多いので、男性には人気ですよ」
「……30代?」
思わず声が出た。
フォルンは笑う。安心を売る甘い香水の匂いのまま。
「ええ。見た目は若く見えるでしょう? 獣人は、種にもよりますが見かけの歳を取りにくいのもが売りなんですよ」
売り、って言うな。
心の中で突っ込みつつ、俺は目をそらさずに女を見る。筋肉の付き方が戦う体だ。しかも鍛え抜いた類いだな。
ただ、30代には見えず、20代前半のような若々しさがあった。
……でも、ムキムキでちょっと怖いな。
「続いて、こちらの奴隷はどうでしょうか?かなりの強さも売りですが、何より犬獣人です。この種は一度、主人と認めたものを裏切らない特徴があります。初めは契約で縛るかもしれませんが、良くしてあげれば自然と裏切らない関係が築けることでしょう」
なるほど、裏切らなくなるか。
犬獣人の男も分かりやすく戦う体つきだ。肩と胸が厚く、腕の血管が浮いている。目は落ち着いていて、動きが少ない。
戦うことにプラスして、犬獣人という種族の特徴はかなり魅力的だ。
フォルンが説明する。
「2人とも護衛向けでございます。女のほうは力と反応が売り。男のほうは持久と忠誠が売り。……どちらも高い部類です」
俺は表情を崩さず、聞いた。
「いくらだ」
フォルンが指を立てる。
「女は金貨8枚。男は金貨9枚」
金貨8〜9。一般の暮らしで4年から4年半暮らせる金額。
今の商店の資金繰りを考えると……いくらなんでも無理だ。
もう一度、条件を確認しよう。
俺は頭の中で、昨夜に整理した商店の状態から冷静に使える価格を整理した。
どれだけ頑張っても金貨2枚がギリギリだな。
現実的な線は、金貨1枚。
つまり、一般人が半年くらい普通に暮らす分の資金で、俺は命の保険をどうにか買い付けなくてはいけない――安い命だな。
ただ、圧倒的に資金が足りない。
これだと先ほど紹介された特徴のない冴えない人間の戦闘奴隷ですら買えない。
俺は息を吐いた。現実が苦い。
フォルンが、こちらの沈黙を迷いではなく、計算として理解したらしい。笑みが少しだけ薄くなる。
「……旦那様。ご予算の上限、先にお聞きしますか?」
俺は少し考える。
今、必要なのは身を守る護衛で、裏切らない奴隷だ。
そして、理想の奴隷を買う金はない。
質問をフォルンに返す。
「……この値段帯じゃない、護衛向けはあるのか?安くなる理由があっても構わない」
フォルンの瞳の奥が、わずかに冷たく光った。
金の匂いを嗅いだ目だ。
「なら訳あり商品などはどうでしょうか?場所を移動しないといけませんが」
エルドが僅かに視線を鋭くした。ゴドーの気配も固くなる。俺はそれを感じ取りながら、短く言った。
「案内しろ」
「もちろん。こちらです」
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