第2話 ヒロイン未遂事件
皆さんこんにちは。
主人公の甘城 光希(あまぎ みつき)です。
今回は、僕の人生におけるヒロインに出会ってしまったかもしれません。
「お前のヒロインはゴリラやろw」
と思った人もいるかもしれませんが、そんなわけないじゃないですか。
こんなにも早く、ヒロインになるかもしれない人と巡り合えるなんて、正直嬉しいです。
それでは、どのような形で出会うことになったのか、物語を始めていきましょう。
──・・・・・・
目を覚ますと、そこは左右に高い壁がそびえる薄暗い路地裏だった。
上を見上げると、青い空に白い雲がぽかりと浮かんでいるのが見える。
自分の体に視線を落とすと、見慣れた制服と靴が目に入った。
ポケットにはスマホも入っている。
手に取ったスマホの暗い画面に、自分の顔が映った。
とんでもないイケメン……かと思いきや、見慣れた顔がそこにある。
左右の瞳が赤と青で違うこと以外は、特に変わったところのない普通の顔だ。
ミツキは思った。
──どこが変わったんだ?
牛に轢かれて、ゴリラ女神に会って、異世界転生がどうとか言っていたのは覚えてる。
普通、死んで異世界に転生したら、前世の記憶を持ったまま赤ちゃんとして生まれ変わったり、別の誰かの体に入ったりするのが定番のはずだ。
なのに、どうして自分の体のままなんだ?
その場で考えてても、意味が無いので少し歩き、路地裏を抜けると、広い道に出た。
スーツを着たサラリーマンや、スマホを見ながら歩く若い女性が行き交っている。
道路には車やバイク、トラックが走っていた。
さすがに人や牛が走ってはいないみたいだ。
辺りを見回すと、高いビルが立ち並んでいる。もちろん低い建物もある。
近くの建物の看板には、「マリン喫茶」と書かれていた。
見慣れた文字だ。
ここまで確認して、ミツキはやはり思った。
──本当にここは異世界なのか、と。
異世界と言えば、お城や騎士がいて、乗り物は馬車が走っている。
道行く人々も、人間だけではなく、獣耳が生えていたり、二足歩行のトカゲがいたりするかもしれない。
しかし、どこを見てもそんなものはない。
自分の知っている世界とほとんど変わらない。
知らない場所であることは確かだが、異世界とは違う。
手に持っていたスマホの電源を入れ、現在地を調べるため地図アプリを開く。
調べたところ、ここは「チュリマー」という都市らしい。
「いや、どこだよ!」
思わず声に出してしまった。
周囲の視線が一斉にこちらに向く。
恥ずかしくなって、すぐにその場を離れた。
とりあえず近くのカフェに入り、店員に案内されるままカウンター席に着いた。
オレンジジュースを注文し、再びスマホに視線を戻す。
ふとホーム画面を見ると、知らないアイコンがあった。
ゴリラのアイコンである。
なぜか、あのゴリラ女神の仕業だと思った。
──そういえば、能力をもらったんだった。
ゴリラを見たせいか、今になって思い出し、何か分かるかもしれないと思った瞬間、
「かわいい坊やね。学生さん?」
横から声がかかった。
顔を向けると、そこには目を引く女性が立っていた。
30代前半ほどだろうか、落ち着いた雰囲気で、少し異国風の印象がある。
金髪をきっちりハーフアップにまとめ、黒のスーツに身を包んでいる。
シンプルながら洗練された装いで、凛とした立ち姿からはキャリアウーマンらしい自信が漂っていた。
その澄んだアイスブルーの瞳で、優しい微笑みを浮かべながらこちらを見つめている。
「今、一人?隣、座ってもいいかしら?」
女性は返事を待つことなく、ミツキの隣に腰を下ろした。
「あ、どうぞ」
ワンテンポ遅れて、ようやく返事が出る。
「見たことのない制服ね。今日は学校は?もしかして、サボり?」
「あ、いえ。学校の帰りです」
「あら、そうなの?」
女性は不思議そうに腕時計へ視線を落とした。
「今、朝の九時だけど……学校、早く終わったの? どこの学校?」
「あっ、あ、あ――」
言葉がうまく出てこず、口から出る音は途切れ途切れで、まるでモールス信号のようだった。
そんなミツキの様子を、女性は改めてじっと見つめる。
「じゃあ、質問変えるわ。その目、綺麗ね」
「へ?あ、へぁっ……」
もういっそ、土に埋めてくれ、とすら思い始めた。
綺麗な女性との会話に慣れていないのもある。
それ以上に、目のことに触れられるのが苦手だった。
左右で瞳の色が違う――いわゆるオッドアイ。
それが世間一般では「変わった子」と見られる理由になることを、ミツキ自身、よく理解している。
「今の若い子の間では、そういう目が流行ってるの?」
「生まれつき、この目です……」
か弱い声がこぼれた。
「そうなの? ごめんなさい」
女性はニコリと笑いながら謝った。
あまり悪いと思っていなさそうではあるが、こうした反応には慣れている。ミツキは特に気にしなかった。
「お詫びに飴をあげるわ。ほら、食べて」
女性は優しくミツキの手を取り、袋に入った飴を渡す。
「あ、ありがとうございます!」
甘いものが好物なミツキは、嬉しそうに受け取ると、すぐに袋を破いて飴を口に放り込んだ。
口の中に、甘酸っぱい味が広がる。
「……これ、何味の飴ですか?食べたことない味ですね」
「あんず飴っていうの」
「あ、へー。道理で食べたことない味……」
その瞬間、急な眠気に襲われた。
視界がぐらりと揺れ、やがて目の前が真っ暗になった。
──・・・・・・
「うッ……」
目を覚ますと同時に、激しい頭痛が走った。
「……ここは、どこだ?」
ゆっくりと体を起こし、少しずつはっきりしてきた視界で周囲を見回す。
薄暗く、冷たいコンクリートの床と壁。
そして目の前には鉄格子があった。
つまり、ここは――
「ろ、牢屋……?」
この場所にはミツキ以外、誰もいないようだ。
さらに残念なことに、自分の荷物も見当たらない。
自分は牢屋に入れられるようなことをした覚えがない……と思いたい。
もしかしたら、気づかないうちに何かをしてしまったのかもしれない。
「あの――誰かいませんか!?」
立ち上がり、鉄格子の前まで歩み寄って大声で呼びかける。
……しかし、返事はない。
しばらくすると、返事の代わりに遠くからコツコツと足音が聞こえてきた。
その音は、こちらへ向かって近づいてくる。
ミツキは少し安堵しながら様子をうかがっていると、やがて一人の女性が牢の前に立った。
「あの時の……お姉さん!?」
現れた女性は、カフェで声をかけてきたあの女性だった。
彼女は腕を組み、ミツキを観察するような視線を向けてくる。
「鉄格子の前から離れて。死にたいのなら、そのままでいなさい」
カフェで話した時とはまるで違う、冷たい声と雰囲気。
その迫力に圧され、ミツキは慌てて鉄格子から離れた。
「あ、あの……これは一体……」
恐る恐る、問いかける。
「私が質問をする。あなたは答えるだけ。嘘をついても、すぐに分かるから」
「は、はい……」
その冷たい声には、有無を言わせない力があった。
「あなたは――創世会に属しているの?」
「そ、そうせいかい……?」
創世会。
この組織がどれほど恐ろしく残酷で、
そしてミツキにとって倒すべき強大な敵となるなんて――
この時のミツキは、まだ知る由もなかった。
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