第14話|手放せない理由(レオン視点)



 ――おかしい。


 最初にそう思ったのは、

 ルナが他の生徒と話しているのを見たときだった。


 生徒会室の扉の向こう。

 柔らかく笑うルナと、向かいに立つ貴族の生徒。


 ただ、それだけの光景。


 なのに。


 胸の奥が、焼けるように不快だった。


「……何を話してる」


 無意識に、足が前に出る。


 声をかける前に、

 ルナがこちらに気づいた。


「レオンくん」


 名前を呼ばれる。


 その一瞬で、

 胸の不快感がすっと引く。


 ――ああ。


 俺は。


 この反応に、覚えがあった。


 昔。

 孤児院で、たった一つだけ与えられた毛布。


 他の誰かが触れようとしたとき、

 理由もなく、奪い返した。


 温もりを失うのが、怖かった。


 それと、同じだ。


「どうしましたか?」


 ルナは何も知らない顔で、

 少し首を傾げる。


 その仕草すら、

 独り占めしたくなる。


「……いや」


 声を低く抑える。


「用はない」


 貴族の生徒が気まずそうに去る。


 当然だ。

 俺の立場を知っている。


 残されたルナが、

 少し不安そうに眉を寄せた。


「何か……不機嫌でしたか?」


 違う。


 不機嫌なんじゃない。


 ——奪われる気がしただけだ。


「……お前が、俺の視界にいないと」


 思わず、

 本音がこぼれそうになる。


 危険だ。


 この感情は。


 自分でも、そう思う。


 けれど。


「すまない」


 代わりに、そう言った。


 ルナはほっとしたように笑う。


「よかったです」


 その笑顔が、

 俺の中の何かを決定的に縛る。


 夜。


 寮に戻っても、

 思考はルナから離れなかった。


 誰と話した。

 誰に見られた。

 誰に触れられたかもしれない。


 ——触れるな。


 喉の奥に、

 獣みたいな感情が沈んでいる。


 俺は騎士だ。

 守る側だ。


 支配する資格なんて、ない。


 なのに。


「……俺は」


 小さく呟く。


 ルナが傷つけば、

 世界を壊しても構わないと思う。


 彼がいなくなれば、

 自分が空になると、確信している。


 これは、愛か?


 それとも。


「……依存だな」


 そう認めた瞬間、

 奇妙な安心感が広がった。


 ――名前がついた。


 逃げ道が、消えた。


 翌朝。


 学院の廊下で、

 ルナを見つける。


 誰よりも早く、

 その腕を引いた。


「レオンくん?」


「俺のそばにいろ」


 即座に言ってしまう。


 強すぎる言葉。


 でも、ルナは。


「……はい」


 迷いなく、頷いた。


 その瞬間、

 胸が満たされる。


 同時に、

 確信する。


 ——もう、手放せない。


 この感情が歪んでいようと、

 正しくなかろうと。


 俺は、

 ルナを失う選択だけはしない。


 たとえ。


 彼の世界が、

 俺だけになったとしても。

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