第8話|月は、誰のものか



 生徒会での仕事にも慣れ、

 学院での僕の名前は、少しずつ知られるようになっていた。


「ルナ=ルミエール、だったか」


 魔法演習のあと、

 声をかけてきたのは上級貴族の生徒だった。


「君の月魔法、実に興味深い」

「補助性能が高すぎる。戦場向きだな」


「……ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる。


 その様子を見て、

 周囲からも次々と声がかかる。


「一度、共同研究をしないか?」

「我が家の魔導師にも紹介したい」


 ——今まで、こんなことはなかった。


 戸惑いながら応対していると、

 背後に、はっきりとした圧が立つ。


「……集まりすぎだ」


 低い声。


 振り向くと、レオンくんが立っていた。


「彼は、生徒会の一員だ。

 用件があるなら、通してもらう」


 空気が、ぴしりと張る。


「過保護じゃないか、ヴァルディス」

「才能ある人材を評価しているだけだ」


「評価と囲い込みは違う」


 レオンくんの言葉は、静かだが鋭い。


 貴族たちは肩をすくめ、

 軽い笑いを残して去っていった。


 残された空間で、

 僕は胸の奥がざわついているのを感じていた。


「……すみません」


「何が」


「皆さんに、注目されて……」


「それが?」


 レオンくんは即座に返す。


「君がすごいからだ」


 まっすぐな言葉。


「でも」


 少しだけ、声が低くなる。


「俺の前でだけでいい、とは思ってしまう」


 ——あ。


 それは、

 冗談では済まされない響きだった。


 その日から。


 僕に話しかける人が増えれば増えるほど、

 レオンくんの視線は、鋭さを増していった。


 隣にいれば、守るように。

 少し離れれば、探すように。


 ——月は、誰のものか。


 そんな問いが、

 学院の空気に、見えない形で漂い始めていた。

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