第6話|同じ場所、同じ時間
生徒会に所属してから、数日が経った。
放課後になると、自然と本館最上階へ足が向く。
最初は緊張でいっぱいだった生徒会室も、今では少しだけ落ち着く場所になっていた。
「ルナ、この書類まとめ終わった?」
「はい。こちらに置いておきますね」
机に書類を揃えて置くと、
向かいに座っていた先輩が感心したように目を細めた。
「本当に仕事が丁寧だな。
気配りもできるし……助かるよ」
「い、いえ……」
褒められることには、まだ慣れない。
思わず肩をすくめる。
そんな様子を、少し離れたところから見ていた視線があった。
「……」
レオンくんだ。
腕を組み、壁に寄りかかりながら、
こちらをじっと見ている。
視線に気づいて目が合うと、
彼は何事もなかったかのように目を逸らした。
——でも。
なぜか、胸が落ち着く。
「次は会計報告だな」
会長の声で、空気が切り替わる。
「ルナ、ヴァルディス。
二人で倉庫から資料を取ってきてくれ」
「了解」
「……はい」
並んで生徒会室を出る。
廊下を歩いていると、
レオンくんがふと、歩幅を僕に合わせた。
「慣れた?」
「……少しずつ」
「無理はするな」
それは命令でも忠告でもなく、
心配そのものの声だった。
「誰かに何か言われたら、すぐ言え」
「……レオンくんが来てしまいますから?」
冗談めかして言うと、
彼は一瞬だけ足を止めた。
「行くに決まってるだろ」
即答だった。
その強さに、言葉を失う。
倉庫は人の少ない場所にあり、
扉を閉めると、外の音が遠くなる。
「……静かですね」
「そうだな」
棚の奥から資料を取ろうとして、
僕は背伸びをした。
——届かない。
「……っ」
その瞬間、背後から影が重なる。
「危ない」
レオンくんが、僕の腰に手を添え、
すっと棚から資料を取った。
距離が、近い。
息がかかるほど。
「あ……ありがとう、ございます」
そう言いながら、胸の奥がざわつく。
触れられたのは一瞬だけなのに、
離れたあとも、体がその位置を覚えている。
レオンくんは何事もなかったように資料を渡したが、
その耳が、少し赤いのを僕は見逃さなかった。
生徒会室に戻る途中。
「ルナ」
「はい?」
「……ここにいて、嫌じゃないか」
唐突な問い。
「平民で、特待生で、
俺のせいで目立ってる」
足を止めて、僕は考える。
正直、楽ではない。
でも——。
「嫌じゃ、ないです」
そう答えると、
レオンくんは驚いたように目を見開いた。
「レオンくんが、いますから」
敬語のまま、はっきり言う。
「守ってもらっているというより……
一緒にいる、って感じがして」
少し、怖くなるほど正直な言葉だった。
レオンくんはしばらく黙っていたが、
やがて低く息を吐いた。
「……そうか」
それだけなのに、
その声には妙な重みがあった。
生徒会室に戻ると、
いつも通りの空気が待っていた。
けれど。
同じ場所。
同じ時間。
その中で、
僕とレオンくんの距離だけが、
確実に縮んでいる。
——まだ、名前のない関係。
それが、これからどこへ向かうのか。
このときの僕は、まだ知らなかった。
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