お天気星人現る【お題フェス11:天気】

雪うさこ

夢は世界征服なのです



 自分、お天気星人といいます。

 自分、悪の秘密結社の一員。秘密結社の中では、それ相応な地位。まあ、なんていうのかな。ナンバー3くらい? 

 でも、昨日。ヒーローである七色レンジャーにやられちゃって。組織から追い出されたわけ。

 ずっと物心ついてからというもの、世界征服を夢みて、悪の秘密結社で頑張ってきたというのに。たった一回の失敗で、追い出されるって。人間のレンジャーものだって、もう少し優しいわけで。

 行くあてもない自分。これからどうしたものかと思案に暮れているところです。

 子どもたちが笑いあって遊んでいる公園のブランコでため息を吐いていると、ふと目の前に子どもが一人やってきました。

「おじさん、なにしてるの? ねえ、なんで顔がルーレットになってるの?」

 その子は自分を怖がる様子もなく、不思議そうに自分を見ているわけで。

「おじさんはね。お天気星人っていうんだ」

 子どもは大して驚きもせずに「へえ」と声を上げたんです。

「信じてないでしょう?」

「だって。そんなことを言われても。お天気セイジン?」

「そうそう。お天気を自由自在に操れるのさ。ヒーローたちが攻めてきたら、雷を落としてやったり、ヒョウを降らせてやったりして懲らしめるんだ」

「へえ」とその子はもう一度言いました。

「怖いでしょう?」

「怖くないけど。ねえ、じゃあ、明日の遠足、雨にしてもらえるの?」

「遠足なのに雨かい?」

「うん。だって。行きたくないもの」

 その子は暗い顔をして俯いていました。

「どうして?」

「お弁当、食べる友達がいないもの。僕だけ一人でお弁当食べるの嫌だもん」

「そっか。ふうん」

 その子の顔を見ていると、なんだか不憫に思えてきたわけで。

「よし。じゃあ、雨にしてやろう」

 右の耳を引っ張ると、ピピンと音がして、顔のルーレットが回り始めます。チリンチリンチリン。何度も鈴の鳴るような音が鳴ったかと思うと、ルーレットはピピピンと音を立てて、「雨(傘マーク)」のところで止まりました。

 途端に、晴れていた空は、灰色の雲に覆われて、ぽつらぽつらと雨が降り始めるのです。これが自分の能力。

「わあ、本当に雨になった!」

「早くお帰り。本降りになるよ。自分が次の天気を回さない限り、ずっと雨だ。明日のいつまで雨ならいいんだい?」

「朝まで! 中止になるから」

「おっけ。任せておいて」

 子どもは嬉しそうに手を振って走っていきました。

「ありがとう! お天気セイジン!」

 ——ありがとう。

 その言葉に、仄かに胸がジンと温かくなりました。

「いやいや。なにしている。自分、悪の秘密結社のナンバー3だ。自分の夢は世界征服です」

 そう自分に言い聞かせたのです。

 本降りの雨に、公園で遊んでいた人々の姿は消えました。一人ブランコに座っていると、今度は黒い傘に、全身黒づくめの男が自分の前に立っていました。

「本当に天候を操れるのか」

「お天気星人だもの」

「お天気星人。お前に頼みがある」

「自分は悪の秘密結社で。夢は世界征服で——」

 すると男は懐から名刺を差し出しました。

「内閣府? 事務官? なんなの?」

「七色レンジャーから話は聞いている。君は天気を自由自在に操れると。頼む。今、世界は瀕死の状態だ。今こそ、君の力が必要なのだ!」

 ——え? ええ? ええええええ!?

「国連には君のことは話が通っている。さっそくアフリカに飛んでもらいたい。今、アフリカは干ばつで子供たちに危機が訪れている。なんとか、君の力で救って欲しい」

「だから、自分は世界征服が夢で」

「天気を制するものは世界を制する。人間は自然の力だけはどうにもできない。君は世界を制する存在だ」

 ——え、自分。別な意味で世界征服やれちゃう?

 なんだちょっと、胸の奥がゾクゾクして、悪の気持ちが芽生えてきました。全世界の指導者たちが、自分にひれ伏す時が来るのかもしれないのです。だって、自分はお天気星人だもの。あ、でも、ちょっと待って。

「明日の朝までこの辺りを雨にしなくちゃいけないから。出発は明日の朝以降でお願いします」

 自分はお天気星人。天気を自由に操れます。そして夢は世界征服です。



—了—

 

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