12.
はい、一つ話しましたよ、と
「氷夏さんが知っているかは知りませんが、
「控室は更衣室としても使われてましたから、着替えを覗かれてたというわけですね。嫌な話ですねぇ」
わざとらしく苦笑いされる。そのあまり驚いていない様子からすると、恐らくそれは知っていたのだろう。それで? と続きを催促された。
「〝模倣犯〟を名乗る人物によってネットに投稿された写真は、マジックミラー越しに備品庫の中から撮影されたもので、当時現場には春翔さんと犯人、そしてあの写真を撮影した誰かがいたと考えています。その撮影者と犯人が共犯かどうかは今のところわかりません」
「なるほど……ありがとうございます。じゃあ、今度はまた私の番ですね」
まだあるのか。この子、どれだけ情報を隠し持っているのだろう。
「ましろんと遊ぶとき、たまに
確かに妙な話だ。マネージャーの
話せばわかるというほど性格の違う二人を、マネージャーである宇堂さんが間違えて話をするとも思えない。それこそ、真冬さんに双子の妹がいることも知っているのに、だ。
真冬さんにも他のメンバーにも隠したい話を、真白さんとしていたのだろうか。たとえば、改めてデビューする気はないのか、とか。
「はい、それじゃあ
この子がどれくらい隠し玉を持っているかわからない以上、こちらも比較的話しても良い話題に抑えていきたい。
かと言って、彼女の興味を引くような話でなければ、彼女も相応の情報しか流してくれない可能性がある。どのカードを切るか、慎重にならなければいけないな。
「先ほど〝模倣犯〟なる投稿者の話をしましたが、真冬さんのSNSに脅迫的なDMを送ってきていた人物がいたのはご存知ですか?」
「いえ、初耳です」
「その人物は真白さんが真冬さんに成り代わって投稿していたことに気付いていたらしく、その事実を公表するよう脅迫してきていたようです。そしてその人物は駅前のフリーWi-Fiを使用してDMを送っていた。つまり生活圏はこの近辺であった可能性が高い。我々は〝模倣犯〟とその人物は同一人物ではないかと考えています」
すると氷夏さんは少し考えてから、僕の話に質問をしてきた。
「では〝模倣犯〟は、ましろんの事件にも関わっていたと?」
「その可能性は高いと考えています。ですので、〝模倣犯〟かその人物のどちらかでも素性が明らかになれば、捜査を大きく進展させられると考えています」
「なるほど……。いいでしょう。なら私もとっておきをお話ししますよ」
よくわからないが、彼女を満足させる情報だったらしい。そして彼女にとってのとっておきを話すということは、僕もそれ相応のものを要求されるということで、僕にもそれを聞く心構えが少しだけ必要になった。
「ハルちゃんの彼氏ですが、たぶん旭さんだと思います。これは証拠があるわけじゃなくて、私の勘に過ぎないんですけどね。でも二人を見ていたら何となくわかります。旭さんはアイドルとしては真冬さんを売り出していきたいようでした。旭さんだけじゃなくて、事務所としてもちゃんと歌えるアイドルは貴重ですから、売り出し方を間違えなければちゃんと売れると思ったんでしょう。それに加えて、恋人であるハルちゃんも大事で、だから二人がいがみ合う状態を良く思っていなかったようです。どちらにも肩入れできないから、よく私を使って仲裁させていたんです。私は二人ほどアイドル業に熱が入っていなかったのを事務所にも見抜かれていたのか、それほど推されていませんでしたから、一歩引いた目で見ていたので気付けたのかもしれません」
「その、真冬さんにバレたっていうのは、彼氏がいたことがバレただけだったんですか?」
「そりゃあそうですよ。彼氏が誰かなんてバレてたら、もっと揉めてたと思います」
氷夏さん自身も確かな情報ではないと前置きしているが、筋は通っていそうな気がする。それに春翔さんのスマホを調べれば、メッセージの履歴等から明らかにできる可能性が高い情報でもある。
このユニットの人間関係は、思いの外ややこしいことになっているのかもしれない。
「さぁて、じゃあ八壁さんのとっておきを聞かせていただきましょうか」
「これからする僕の話も、警察の捜査というより僕の想像の域を出ないものなんですが……」
「構いませんよ。聞かせてください」
相変わらずにこにこと笑みを絶やさない氷夏さん。どんな話が聞けるのだろうと、そればかりを楽しみにしているのだろう。
「氷夏さん、あなたは真白さんが真冬さんに成り代わっていたことを知っていたんじゃないですか? 知っていたから、彼女に写真の写り方を指導していた。違いますか?」
「どうしてそう思うんですか?」
「ある時期から、真白さんの写真の構図が変わり、見違えるように写真写りが良くなっています。誰かプロの手が入っているんじゃないでしょうか。事務所に所属してもいない真白さんに、一体誰がそんなことを教えたのでしょう」
少しずつ氷夏さんの笑みが引き攣っていく。それはどういう理由からだろう。適当な言いがかりだと怒りを覚えているのか、図星を突かれて焦っているのか。
「それだけで、私が指導していたと言うんですか? 確かにそれは、想像の域を出ない話ですね」
「指導に加えて、時々あなたは撮影者でもありましたね? 指導や撮影への協力の対価として、撮影したものをイラストを描く際の資料に使わせてもらう、というように話を付けていたんじゃないですか?
これまで氷夏さんが描いたイラストと投稿されている真白さんの写真とを比較検証して相似性が浮き彫りになれば、僕の話は妄想ではなくなるかもしれませんね。それか、氷夏さんがイラストレーターとして使用しているパソコンかタブレットに真白さんの画像が保存されていたりなんかすれば、それはどうしてなのかを聞いてみたくなってしまいます」
随分と嫌そうな顔をして、氷夏さんは小さくため息を吐いた。
「……わかりましたよ。そうです。本当は知ってましたよ。でも、それだけです。あの写真は私じゃない。あんな光の当て方したら、せっかくの素材が台無しだって何度も言ったのに……」
どうやら大人しく認めるらしい。彼女は他にどんな嘘を吐いているだろうか。どこまで彼女の話を信じていいのだろう。しかし今の彼女からは貼り付けたような笑みは消えて、侮れない敵を見るような目で僕を見上げていた。
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