11.

「じゃあ、アイドルやモデルとしてカメラに映るときは、構図とか表情とか、結構気にしてるんですか?」


「そりゃあそうですよ。まあそのせいで、結構現場では厳しく言っちゃうこともあるんですけど、こだわりたいところはこだわりたいので」


「なるほど……。実際のところ、〝UnAuTuMnアンオータム〟ではメンバー間で衝突は結構あったんですか?」


 確か聞いていた話だと、真冬まふゆさんと春翔はるかさんは不仲だったそうだが、氷夏こなつさんがどちらかと関係が悪いという話は出なかった。興味がないと回答していたはずだ。それはそれで、関係が良いとは言えないのだろうが。


「はっきり言えば、私自身は二人のことはあくまで一緒に仕事をする人としか思ってなかったので、好きとか嫌いとかって感情はなかったんですよね。ハルちゃんは結構みんなと仲良くしたい派でしたね。逆に真冬さんは自分にも他人にも厳しくて、ハルちゃんとよく揉めてましたよ」


 自分が二人とどういう関係だったかというのははっきり触れないらしい。本当に何とも思っていないのか、意図的に避けているのか。冒頭で答えたくない質問には答えないと言っていたから、これは答えたくない質問に該当するのかもしれない。


「ちなみに聞きたいんですが、真白ましろさんは、氷夏さんや春翔さんと仲は良かったんですか?」


 これまではきはきと話していた氷夏さんは、わずかに間を開けてから、何事もなかったかのように話し始めた。


「そうですねー……ええ、ましろんは私ともハルちゃんとも仲良かったですよ。真冬さん抜きで会うこともありましたし。そういうときは決まって、ハルちゃんは真冬さんの愚痴を言ってましたが」


「あれ、でも確か真白さんが真冬さんのSNSに写真を上げてたのは知らなかったんですよね?」


「ええ、それは知らなかったです。真冬さんに双子の妹がいるって聞いて、双子なんて珍しいから、会わせてーって言ったら渋々会わせてくれて。そこから仲良くなって普通に遊ぶようになったんです。だからアイドルとしてっていうより、普通に友達っていう感じでしたね。ハルちゃんともよくゲームしてたみたいですし」


 そういえば、真冬さんも真白さんはゲームを買ってほしいと頼んできたと言っていた。春翔さんは元々配信活動をしていて、真白さんが殺害された前日の夜もゲーム配信をしていたそうだし、二人がゲーム仲間だったとしてもおかしくはない。


 すると、氷夏さんは少し声のボリュームを落として、少し前屈みになって顔を寄せてくる。


「……今警察は、誰が疑わしいと思ってるんですか?」


「申し訳ないですが、それは言えませんよ」


「そうだろうと思いました。ねぇ、じゃあ、こういうのはどうです? 私はまだ、警察の誰にも話してないことがあります。それを話す代わりに、捜査情報を教えてくれませんか?」


 ……悪魔のような子だ。この誘いに乗るべきなのか?

 まだ明かしていない情報がある。それが有益な情報とは限らない。それに、それが真実であるとも限らない。捜査情報を容疑者に漏らせば、僕は何らかの処分を受けることになるだろう。

 そもそも、彼女が犯人だったなら何らかの隠ぺい工作を行うかもしれない。そのリスクを冒してでも、得たい情報なのか?


「どうせ今も録音してるんでしょうけど、それをいったん止めて、お互いに正直に話しませんか?」


 そう言って、僕の胸元に指先で触れる。ジャケットの内ポケットにはボイスレコーダーが入っている。

 本来は話を始めるときに録音していることを明かすべきだ。だけれど、ボイスレコーダーの存在で相手を委縮させて聞けるはずの情報を聞き出せなくなっては困ると隠していた。それ自体も危うい行為ではある。


「お互いに真実を話す保証はありませんが、それでもいいんですか?」


「ええ、構いません」


 にっこりと微笑む氷夏さん。僕は内ポケットからボイスレコーダーを出し、録音を一時停止してテーブルに置いた。


「……わかりました。正直な話し合いをしましょうか」


「そうこなくっちゃ」


 にやりとした氷夏さんは、パイプ椅子に座り直して、先ほどまでと変わらずはきはきと話し始めた。まるで世間話でもするように、まだ誰にも話していないという情報を話してくれた。


「実はハルちゃんには彼氏がいたんですが、真冬さんにそれがバレてしまって、二人は大喧嘩をしたんです。それがちょうど、ましろんが殺される前の日でした。真冬さんは頭が固くて、スキャンダルのリスクになるようなものは全て捨てろ、みたいな考えなので、当然ハルちゃんはブチギレまして。でも非道にも真冬さんは、旭さんに言い付けるって言って、その日はそれっきりになっちゃいました。ましろんが殺されたってわかったときは、真冬さんは真っ先にハルちゃんを疑ってたんですよ。まあ、それを私が仲裁したんですけど。もう大変でしたよ」


 どうです、面白い話でしょう? と氷夏さんは嫌らしい笑みを浮かべてみせる。


 真冬さんからそんな証言は出ていないが、もしそれが事実だとしたら、真冬さんはこれを隠したいと考えたということだ。真白さんが殺害された後も、春翔さんが殺害された後も、この話をしなかった。確かに自分が疑われることになるかもしれない証言だが、真面目そうな真冬さんなら、自身が潔白であれば隠したりはしないようにも思う。何か後ろめたい事情があるのだろうか。


「一応聞いておくと、氷夏さんも春翔さんも、真白さんと真冬さんの見分けはつくんですよね?」


「んー、完全にと言われると答えづらいですが、話せばわかるって感じでしたね。ハルちゃんはどうかわかりませんが、私は割と雰囲気でどっちか判断してました。性格は全然違いますから」

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