8.
「もしかしたら
〝模倣犯〟なる人物がコメントした〝手口がわかったから真似してみた〟というのは、真似してみた部分は写真を撮って投稿するだけだったと解釈することもできるわけだ。
〝模倣犯〟というハンドルが紛らわしいが、犯人の犯行を先読みしてマジックミラーを隔てて現場に居合わせ、写真を撮影し、ネットに投稿した。これが〝模倣犯〟のやったことであれば、この投稿は犯人にとっては寝耳に水ということになる。
改めてネットニュースを見てみると、トップニュースに〝
こうなると、ネットで叩かれるのは事務所か警察か。こっちも早々に犯人を特定しないと、出世どころではない。
改めて、春翔さん殺害の事件についての報告資料を見返してみる。
被害者は
死亡推定時刻は十三時から十五時頃とされている。司法解剖では頭部の打撃痕以外の外傷はなく、薬物等も検出されなかった。真白さんの時と同じく、打撃痕は三つあったという。
第一発見者はマネージャーの
当日は十二時前に一度事務所にメンバー全員とマネージャーが集合し、事務所の車でスタジオに向かった。現地に到着してから簡単に打ち合わせをして、衣装に着替えて撮影する流れだったそうだ。
控室は個室になっているため、メンバーの三人はそれぞれ別の部屋を宛がわれ、事件発生と思われる十三時三十分前後はそれぞれが一人で控室に居たとしてアリバイはない。マネージャーの宇堂はスタジオの裏口付近の喫煙スペースで喫煙していたといい、その場には誰もいなかったためアリバイはない。
念のため持ち物検査を行ったが、凶器や写真に映り込んだ犯人が着用していた黒いジャケットも見つからず、事件関係者のスマホから例の写真も見つからなかった。春翔さんのスマホに例の写真が保存されているのが見つかり、やはりデータの作成者と端末の名前は一致していた。
春翔さんのスマホについても、鑑識で一通りの調査が終わったらこちらに回してくれるらしい。一応、真白さんのスマホで指紋認証と顔認証が採用されていたことを共有してあったので、それについては先に確認してくれて、春翔さんのスマホも同様だったそうだ。そしてパスコードは案の定、本人とマネージャーしか知らなかったらしい。
「この写真の絡繰りを見抜いた今となっては、この写真が何故春翔さんのスマホに保存されているのかが逆に疑問ですね。犯人による偽装工作でしょうか?」
しかしひかりさんは、別の可能性に言及した。
「いえ、偽装工作ではないと思います。これは犯人側のミスですよ。だってよく考えてください。この写真を春翔さんのスマホに保存するには、撮影者のスマホから何らかの方法で送信する必要があります。ただ、送り付けるだけでは通常の写真のように保存はされないはずです。受信側で何らかの操作が必要になるはずなんです。ということはですよ、撮影者と犯人は明確に共犯関係にあったということになるわけなんです」
「では撮影者としては、この写真を春翔さんのスマホに送り付けるべきではなかった、ということですか? もしこれがミスでないとしたら、どんな可能性が考えられますか?」
というより、よく考えれば気付きそうなものだ。加工後の写真だけが保存されていて、犯人の顔が写っていると思わしき加工前の写真がないのだから、この写真は別の誰かが撮影してこの端末に入れたのだと。
「我々警察をおちょくっているとしか……。それか……撮影者が犯人へ警告した、とかですかね。状況的に、犯人は春翔さんが自分の姿を撮影した可能性があると考えたはずです。彼女はちょうど自撮りをしようとしていましたからね。もし写真を残されていたら、自分の姿――特に顔が写ってしまっている可能性があります。ですから中を確認して、必要であれば消去しなければいけなかった。この時点で、犯人は春翔さんのスマホのロックの解除方法を知っていたことになります。そこへ、撮影者から写真が送付されてきたらどうでしょう」
「しかしそれを残しますかね? 確かに、犯行を見ていた人物がいることに驚くとは思いますが」
「送られてきた写真は加工されていて、顔がわからないようになっていたんです。つまり撮影者は、犯人を告発する材料を持っていながら、あえてそれをしないという意思表示を犯人に向けて行ったと考えられます」
「つまり犯人の選択は、それを受け入れる、ということですか」
偶然居合わせたとは考えにくいはずだ。犯人としても、計画に気付かれていたと感じただろう。だからこそ、撮影者から
犯人はともかく、この撮影者の狙いは何なのだろうか。事態が複雑化してきている。この連続殺人は単純なものではなく、複数の思惑が絡み合って起きたものなのではないだろうか。
「さて、今日もやることはたくさんありますよ~。なにせ、調査結果がたくさん返ってきてますからね」
順番に見ていきましょうか、と僕を隣に座らせて、ひかりさんは一つずつメールを開いて確認していく。
まずは
「これで悪質なファンの可能性は若干薄くなりましたね」
「ええ。それで、怪しい〝みすゞ〟というアカウントの件が、このメールですね」
真冬さんのアカウントに脅迫的なDMを送っていた〝みすゞ〟というアカウントについて、発信元のIPアドレスの開示請求を行ったところ、すべて駅前のフリーWi-Fiを使用して投稿されていることがわかった。
「これじゃあ個人の特定は無理ですね。DMが投稿された時間帯はまちまちですから、学生や会社員といった、時間に縛られた生活をしているような人ではなさそうですね。投稿された時間帯の駅前の監視カメラの映像を洗えば特定できますかね」
「……駅前の監視カメラ、いくつあると思ってるんですか?」
それを私にやれと言ってるんですか、とでも言いたげな恨めしい眼差しを送ってくる。いくら彼女が優秀な分析官であろうと、その作業を任せるのは酷というものだ。
「ですよね……。ですがこれで、この〝みすゞ〟という人物はかなり用心深い人物であることがわかりました。恐らく後に自分自身を特定されないように、わざわざフリーWi-Fiを使用しているのでしょうからね」
「この脅迫DMで訴えられる可能性を考えたのかもしれないですね」
〝悪いおじさん〟の件は、まだアプリ会社からの返答がないようだ。
「真白さんの事件の方で進展があったのはそんなところですね。こちらは春翔さんの事件の方です」
と、ひかりさんは続けてメールを開く。春翔さんの事件の方ももう調査が済んでいるのかと思ったら、掲示板に投稿された写真については騒ぎになってすぐに解析調査を始めていたのだという。
「〝模倣犯〟のIPアドレスの方も調査を依頼してたんですが、こちらはスタジオのWi-Fiからでした。スタジオのWi-Fiのパスワードを知っていたのは、スタジオの職員以外はマネージャーの宇堂さんだけで、彼がこっそり教えていない限りはアイドルの三人は知らなかったはずだそうです」
「こちらも実質的に特定されるのを避けた形ですね。この〝模倣犯〟……〝みすゞ〟と何か関係があったりしますかね。警戒心が強いところは似ていますが」
同一人物であってくれれば、どちらか片方でも素性がわかれば今回の事件の全貌も見えてきそうなものだが。
「そうだとしても、特定は難しそうですが……」
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