6.
「……ちょっと待ってください。この写真、誰が撮ったんですか?」
僕が何を言いたいのか、ひかりさんもすぐに気付いたらしい。
「確かに、そうですね……。自撮り写真ですから、構図的にも
春翔さんが〝模倣犯〟……と考えるのは安直すぎるか。実際に死んでしまっているわけだし、それをするメリットがない。
逆に、どんな人物ならこの行動を取ってメリットがあるのだろう。この事件が公表されて、〝
メンバーの一人が殺害された以上、これまで通りの活動はできなくなる。だけれど、世間からは哀れみの目を向けられるだろう。悲劇のヒロインのような扱いを受けるかもしれない。悲劇を乗り越えて前を向くユニットとして、メディアの格好の餌になるかもしれない。
それで知名度が上がり、露出が増えて人気が上がり、得をするのは、事務所か? 残されたメンバーか?
「……この事件、悪質な売名行為なのかもしれません」
「どういうことですか? 事務所が黒幕だと?」
「
あまり考えたくはない可能性だ。事務所が所属アイドルを殺害するなんて。だが、まったくの荒唐無稽な可能性ではない。
所属アイドルには、私用のスマホではなく貸与しているものがある可能性が高い。そうなれば当然、パスコードやアイドルとしてのSNSアカウントのID、パスワードはマネージャーだけでなく事務所全体で把握しているだろう。所属アイドルなのだから、彼女らの予定も把握している。メンバー全員とも顔見知り以上の関係で、少なからず信頼されているだろう。
単純に考えれば、もっとも今回の犯行に向いた立場だ。
「あるいは、そう思わせたい何者かの犯行、ということになるわけですね」
僕の推測が陰謀論に傾きかけていたところに、ひかりさんがしっかり釘を刺してくれる。
彼女の言う通り、実際に事務所が黒幕でなくとも、僕のように売名行為なのではないかと邪推する者は現れるだろう。そういう者の出現を狙い、事務所の評判を落とす目的がある可能性もある。
これ以上は今回の事件の証拠や証言が上がってこないと考察も難しいということで、手配している諸々の調査も含め、結果を待つことにした。
「
「ええ、構いませんよ」
ひかりさんは自宅アパートから電車で通勤しており、帰りの時間が合う時は僕が車で送っていってあげることもある。
調査結果待ちという手持無沙汰な状態でありつつも、ひかりさんはどうやらもう少し話をしたいようだ。そう思ったが、助手席に座るひかりさんは窓の外を見つめてばかりで話を振ってくる様子はない。何か考え事をしているのだろうか。
「そういえば、僕はあまり〝UnAuTuMn〟について詳しくないんですが、ひかりさんは知ってました?」
運転をしながら、ふと思いついた話題を振ってみる。
「テレビで何度か見かけた程度ですね。事件のことがあってから調べましたので、知識はそれなりにありますよ」
そう言って、ひかりさんは非公式Wikiで得たという知識を運転する僕に垂れ流してくる。
〝UnAuTuMn〟は二年前からプロジェクトが稼働しているアイドルユニットで、メジャーデビューは八か月ほど前。今回発売予定だったニューシングルが三枚目のシングルになる予定だったそうだ。
メンバーカラーは真冬さんが白、春翔さんがピンク、氷夏さんが水色。センターはデビュー時から固定で真冬さんで、彼女は特に歌唱力の高いメンバーらしい。
春翔さんは元々配信者として活動していたことがあり、デビューしてからもSNSやユニットのオフィシャルチャンネルで配信活動を中心に活動していたようだ。
氷夏さんはデビュー前から続けているイラストレーターの仕事と兼業で、スケジュールの都合で表に出ることはあまり多くないが、モデルやグラビア撮影の仕事も受けて雑誌の表紙を飾ることも増えてきたそうだ。
「しかし……もし事務所が特定の子を売り出すために今回の事件を起こしたのなら、なぜ春翔さんを犠牲者に選んだのかは疑問ですよね。カラー的にも残ったのが白と水色ですし、これからの時代、配信活動に強い人材は重宝されそうなものですが」
「そもそも、メンバーカラーが彼女だけ白というのも気にはなりますけどね。赤系、青系ときたら、もう一人は黄色とか緑とかあると思うんですよね」
「なんか、戦隊モノみたいな配色ですね」
事務所の狙いとして売名行為というのが一つあったとして、春翔さんを排除したい思惑もあったりしたのだろうか。その場合、メンバーの追加も視野に入れている可能性がある。とは思ったが、有力なところで改めて真白さんという選択肢があったにも関わらずそれも除外している。
やはり事務所が黒幕であると考えるのは動機としては少し強引過ぎるか。
ひかりさんの住むアパートの駐車場に入り、車を停めると、ひかりさんはおもむろに小さな紙袋をカバンから取り出した。
「いつもお世話になっていますから、ささやかながらお礼の気持ちです」
「ご丁寧にどうも。いいんですか? いただいてしまって」
差し出されるままにそれを受け取ると、ひかりさんは可笑しそうに微笑んだ。
「その反応ということは、今日が何月何日かご存じないようですね」
今日は……二月十四日。この紙袋の中身に考えが行く前に、微かに甘い香りが漂ってくる。
「あまり縁がないもので……。ありがとうございます」
「いえいえ、これは先行投資みたいなものですから」
どういうことかと思って考えを巡らせようとすると、すぐにひかりさんがその意図を説明してくれた。
「来月、これが何倍になって返ってくるのか、楽しみにしてますね」
そう悪戯な笑みを浮かべて、ありがとうございました、と彼女は車を降りていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます