5.
「ちなみに、このスマホのパスコードは解析で割り出したんですか?」
「こんな短時間でそんな芸当できませんよ。
聴取で判明していた事実としては、
そして解析の結果、真白さんは指紋認証および顔認証を採用していたようで、パスコードを使用せずともロックを解除する手段があったようだ。
もしかしたらだが、その情報が流出していた場合、第三者が例の写真を投稿することができた可能性がある。いや、真白さんの指を使えばロックを解除でき、SNSのアカウントはログインしっぱなしになっていたのだからIDやパスワードを知らなくても投稿することができる。
あの写真の投稿は真白さんのダイイングメッセージのようなものだと勝手に解釈していたが、犯人によって投稿された可能性もなくはないということか。その場合、何故そのようなことをしたのだろう。挑発のつもりか、はたまた別の意図か……。
ひかりさんと一緒にテーブルの上に散らばった資料を眺めてはあれこれ議論を交わしていると、不意に電話が鳴った。ひかりさんとほぼ同時に視線が向いた先は、僕のスマホだった。画面を見ると、発信元は
このタイミングで彼からの連絡があったということは、あまり良くない連絡なのだろうと直感した。彼は僕の同期にして、警視庁捜査一課の刑事。殺人事件でも起きなければ、こんな時間に連絡など寄越してこない。
「何かあった?」
僕は通話をタップして、ひかりさんにも内容が伝わるようにスピーカーホンに切り替える。
『お前が担当してる事件、連続殺人になっちまった。とりあえず、すぐわかる情報だけ先に送る』
「わかった。すぐ確認するよ」
それだけで、焦磨は通話を切った。よほど切羽詰まっていたのだろう。
「連続殺人……ですか。犯人の狙いが真白さんだったなら、連続殺人にはならなさそうですが……」
「被害者が誰なのかにもよりますね。犯人が、先日殺した相手が真冬さんでないことに気付いて真冬さんを狙ったのか。それとも別の誰かを狙ったのか」
真冬さんを狙ったにしても、まだ事件の捜査中で、真冬さんは容疑者の一人でもある。警備体制だって万全なはずだ。そう簡単に手が出せるとも思えない。
そして程なくして、焦磨からメールが届いた。添付ファイルがあるわけでもなく、本文に箇条書きに情報が連ねられているだけだった。
「被害者は
大まかな状況だけ聞くと、真白さんが殺害された時と同じだ。ネットニュースでの警察の発表では、都内在住の二十代女性が鈍器のようなもので殴られ殺害されたことまでは明かされている。
「真白さんの事件から今日で三日……ですかね。彼女たち、もう仕事してるんですね」
確かに、今は世間的にもユニット全体が注目を浴びている状態だ。メンバーもマネージャーも容疑者の一人ではあるし、自由に動かして良いのだろうか。
「あ、追伸が来ました。スタジオにはマネージャーの
「そういうことですか……。新曲は……これですね。〝ラブラドレッセンス〟というシングルだそうです。オフィシャルサイトではもう発売日まで公開されてますからね。事務所側だけでなくレコード会社との兼ね合いもあって、日にちの変更は難しかったんでしょうかね」
そうして情報を得ようとWeb検索をしていたひかりさんが、おもむろに僕を呼び付けた。
「八壁さん、ちょっと……。これ、見てください……」
その顔を見るに、あまり愉快なものではないのは間違いないだろう。画面を覗き込んでみると、ひかりさんが開いていたページはとある掲示板。そこに貼り付けられていた画像は、あまりにも既視感のあるものだった。
鏡越しに、スマホで撮影された自撮り写真。写っているのは春翔さんだ。ジャケット撮影用の衣装だろうか、華やかな衣装に身を包み、ポーズを決めている。そしてその後ろには、何かを振り上げて今にも殴りつけようとする黒ずくめの人物が映り込んでいた。
画像と共に、〝手口がわかったから真似してみた〟というコメントが添えられている。ハンドルは〝模倣犯〟。
「なんてことだ……。これ、本物……なんですよね?」
「……恐らくは」
真白さんが投稿した写真はすぐに投稿ごと削除されたとはいえ、現在もネットで拡散されてしまっている。その構図を真似た画像を撮影すること自体は可能だろう。だが、被写体として〝
「模倣犯……言い得て妙ですね。今回の写真は前回とは違います。本当に別人の犯行かもしれません」
ひかりさんが指摘した相違点は、後ろに映り込んだ犯人と思しき人物はぶれていて、振り上げたものが何なのかがわからないこと。顔の部分が加工されていて、元画像にははっきりと顔が写っているだろうこと。そして春翔さんの表情。ポーズを決めてはいるが、今にも悲鳴を上げようと恐怖の表情を浮かべている。後ろの人物に気付いたのだろう。
逆に同じ点は、ちゃんと背景にドアが映り込んでいること。ドアは開いたままだ。それから時計も写っているので犯行時刻もわかること。この控室の時計は文字盤に数字が書かれていて、反転して十三時二十一分を指していた。現在時刻は十四時四十二分。発見から警察が到着して、簡単に捜査をして、今この時間か。
犯行時刻が真白さんの事件に近いのも、狙ってやったことなのだろうか。掲示板に投稿された時間を見ると、十三時三十五分。例の写真が真冬さんのSNSに投稿された時刻とまったく同じだ。偶然とは思えない。
「模倣犯は何がしたいんでしょうか。掲示板の投稿が拡散されて結構騒がれてますけど、注目を浴びたかっただけだったとしたら、相当悪質ですよ」
ひかりさんが珍しく憤りを口にした。
しかし注目を浴びたかったという理由だけで、ここまでのことができるだろうか。ジャケット撮影の日時や場所なんて、関係者しか知らない情報だろう。それに警備や関係者の目を盗んで控室で堂々殺害し、その写真をネットに公開。承認欲求の代償にしては、あまりにもリスクが大きすぎる。
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