4.
「まず、今回の事件について不可解なことは、この写真です。少なくとも、
もう一つ、真白さんがやってくる前から犯人が部屋の中にいた可能性もあります。
「真白さんがやってくる前に、知人ではなく不審人物が侵入している可能性はありませんか?」
その質問は恐らく、決め手の部分を度外視した質問なのだろう。その可能性を否定できるなら、容疑者は知人に絞れることになるから重要な質問ではある。
「まったく不可能ではないと思います。真冬さんの住むマンションはオートロックで、鍵を使用するかインターホンで応じてもらわなければ中に入ることはできません。監視カメラの映像を見ても、人の出入り自体が多くなく、やってくるのは出かけていた主婦か宅配業者ばかりでした。宅配業者に関しては、オートロックを通過してから数分で出ていっているのも確認しています。ですので、もし不審人物が侵入することができたとしたら、オートロックと監視カメラの二重の網を潜り抜けてきたことになります」
「でも、それが不可能ではないと考えるわけですね。
「ええ。今回のケースは、一階の角部屋であるということは肝になると思います。監視カメラがあるといっても、出入り口や駐車場、共用スペースの廊下、エレベーター内です。侵入可能な経路として、ベランダには監視カメラもオートロックもありません。三メートルほどの金網の柵を乗り越えれば、の話ですが。
それからもう一つ、窓です。資料にあった外観の写真を見ると、ベランダに面した南側を除く北側と東側の窓は、マンションの外に面していますね。どちらも柵がありますが、柵を乗り越え植木を越えれば、オートロックを通過せずとも侵入が可能になっています。もちろん、柵を乗り越える姿を見られるリスクもありますし、窓の鍵が開いていなければ侵入は不可能ではあります。実際に撮影部屋は窓の鍵は閉まっていたそうですが、他の部屋は事件当時に本当に閉まっていたかは確定できません」
鑑識の報告によれば、撮影部屋の窓はしばらく開けられた形跡はないが、他の部屋は生活に伴う開け閉めは日常的にされていただろうとのこと。一応、警察が到着した際はすべての部屋の窓と鍵は閉まっていたらしい。
第一発見者の真冬さんと
もし知人ではない完全な侵入者であるとすれば、これらの障害を突破したうえで、その時まで部屋の中で息を殺して潜んでいたことになる。
「なるほど……。侵入者だった場合は、どういう人物像が想定できますか? 空き巣ですかね」
「盗まれたものがないのであれば、それは違うでしょう。何も盗まずに去ったというのが不可解で、侵入した目的は何らかの情報ではないかと思うんです。部屋が荒らされていたことも踏まえると、なおさらですね。そうなると、その場所が真冬さんの部屋だと知っていて侵入したと考えられます。であれば、個人的に恨みを持っていて彼女の弱みを握りたい人物か、彼女のプライベートを覗きたい悪質なファン、という人物像になりそうな気がします。そういえば、部屋から盗聴器や盗撮用の隠しカメラなんかは見つかっていませんか?」
それらが見つかれば、悪質なファンという侵入者の可能性はぐっと高くなる。
「今のところそういった報告はないようですね。ああ、なるほど。確かに、元々ないと思っていたものがなくなっていても気付けるわけがないですからね。設置していたものを回収しに来た可能性もあるわけですね。現場はそんな可能性を考えてもいなかったでしょうから、設置痕も含めて調べておくよう指示しておきますね」
「お願いします」
すると、ひかりさんのパソコンから短い通知音が鳴る。裏で何かソフトを動かしていたのだろうか。ちょっと待ってくださいね、とひかりさんが席を立ち、パソコンを少し操作して印刷したものを持ってくる。
「真白さんのスマホの解析が一部終わりました」
そう言って見せてくれた先ほどの印刷物を見ると、例の写真についてと、〝真冬〟名義のSNSアカウントについて、それから真白さん個人のメッセージアプリのやり取りなどがまとめられていた。
どうやら真白さんのスマホは、現場から回収し、鑑識の手に渡った後で情報支援係のひかりさんの元へ回ってきたらしい。現物もここにあるのだと見せてくれた。
「まず順を追って説明しましょう。例の投稿された写真ですが、奇妙なことが発覚しました。写真に写っている時計の時刻を見ると、恐らく二十七分頃なんですが、この画像データが保存されたのは三十分ちょうどなんです。こちらの画像データの作成者は端末の名前と一致しています」
「撮影からデータの生成にラグがある、ということですか。そこに人為的な工作がある可能性がある、と。にもかかわらず、データの作成者と端末名は一致しているのは、確かに奇妙ですね……」
「あくまで可能性に過ぎませんけれどね。一応、鑑識が入った時点では部屋の時計の時刻は正確でした。合成写真という可能性も疑ってみましたが、これまた解析の結果、フィルター等の加工を含め一切の編集がかけられていないことがわかりました」
自撮り写真をSNSに投稿する際は、一般的には何らかの加工を施すことが多いように思う。肌をきれいに見せたり、目を大きくしたり、その他にも個人情報にまつわるものを隠したり。真冬さんのアカウントでも、これまではほとんどが何らかの加工が施された画像だった。状況が状況だけに、今回に限ってはそんな余裕はなかったのだろうか。
「それからもう一つ、真冬さんのSNSの投稿を確認していた際に発見したんですが、ある特定のユーザーから何回かDMを送られてきていまして。その内容が脅迫に近い内容なんです」
これなんですが、とひかりさんは先ほど印刷した書類群からひとつを選び取り、該当箇所を赤いボールペンで囲む。
〝みすゞ〟というアカウントから執拗に〝なりすまし〟について指摘され、週刊誌にリークするとまで言われている。〝みすゞ〟からは、自らこの事実を公表するように求められている。このアカウントは自分では投稿を一切しておらず、どうやら真冬さんのアカウントへDMを送るための〝捨て垢〟のように思われた。熱心なファンなら気付けるかもしれないとひかりさんは言っていたが、まさに気付いていたファンがいたのだろう。
「このアカウントの持ち主の特定は?」
「今、開示請求をかけています。それからもう一つの資料……これですね。このメッセージアプリでのやり取りですが、こちらは真白さん個人としてやり取りしているようなんですが、相手は真白さんが真冬さんの〝なりすまし〟をしていることを知ったうえで、やり取りが行われているようなんです」
メッセージ履歴を見てみると、相手は恐らく男性と思われる。セクハラに近い内容を送られているほか、既に何回か直接会っていることを思わせる内容が含まれていた。相手のアカウント名は〝悪いおじさん〟と登録されている。これは真白さんがそう登録しているようで、実際のアカウント名とは異なる。やり取りの中では真白さんから相手の個人名を出してはいないので、人物の特定には至っていないようだ。
「こちらも現在、アカウントの主を調査中です。登録には電話番号が必要なはずですから、それだけでも特定できれば身元がわかる可能性があります」
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