3.

 一通り資料を読み終えたところで、ひかりさんからメールが届いた。


 画像の解析の結果、真白ましろさんの背後に写っていた犯人と思われる人物について、わかったことをまとめてくれていた。

 身長は百六十から百七十センチ。年齢および性別は不明とのことだった。体格的には女性にも見えるが、小柄な男性でも当てはまるらしく、決定的にはならないらしい。

 気になる点としては、綺麗すぎる、ということだった。カメラを持つ手もそうだが、背後に写った人物についても襲う瞬間にしてはブレがなく、その状態で静止したかのようだという。

 身長だけで言えば、真冬まふゆさんが公称では百六十一センチ、春翔はるかさんが百六十五センチ、氷夏こなつさんが百五十三センチ、宇堂うどうさんは百六十八センチと、氷夏さんは除外されそうだ。


 それから真冬さんの自己申告にはなるが、過去の真冬さんのアカウントの投稿で、自撮り写真として自宅で撮影されたものは被写体がすべて真白さんだったという。他メンバーと写っているものや外での写真の被写体は真冬さんで、かなり熱心なファンであれば、自宅で撮られた写真が他の写真とわずかに顔が違うことに気付いても不思議ではなかっただろうとの見解だった。

 ただし、多少なりとも加工された状態で投稿しているので、気付いた人がいてもごく少数だろうというのは、ひかりさんも投稿写真の一致度を照合して検証したらしい。


 一見すれば真冬さんも真白さんも、身長も体格もほぼ同じだが、露出の多いセクシーな衣装は自宅での撮影でしか着用していない。つまり真白さんの担当だったわけだ。真冬さん自身はスタイルに自信がなかったのだろう。

 逆に真白さんは一度グラビアのオファーを断っているものの、綾瀬あやせ真白としてではなく〝真冬〟として発信することで、こうした撮影にも抵抗は少なかったのかもしれない。


 今回の事件は捜査本部が既に入念に調べているためか、事前情報が多い。とは言え、容疑者はすべてアリバイがある。いや、この四人の中に犯人がいるとも限らないか。


 しかしそれにしても、犯人が真冬さんの自宅に侵入できた方法がわからない。身長の条件で除外した氷夏さんの他に、合鍵を持っていない春翔さんも除外して良いのだろうか。

 そうなると、候補として残ったのは真冬さんと宇堂さんということになる。確かに二人は第一発見者だが、発見時に殺害したとすると、写真が投稿された時刻とは合わない。


 犯人は真白さんに招かれた、ということだろうか。そうであれば真白さんが警戒していないのも納得できるが、鏡越しに見た襲撃者にも動じないことにまで説明はできない。

 仮に知人だったとしても、黒ずくめに着込んで狐の面をして、鈍器を振り上げているのだ。恐怖でしかないだろう。


 次の線は近隣住民という可能性だが、真冬さんのマンションは空き部屋が多く、彼女の部屋の上と隣には住民はいない。マンションの監視カメラも確認したが、それらしい人物が映っている様子もなかったという。


 そしてもう一つ気になるのは、何故犯人は部屋を荒らしたのか。犯行時に争ったわけではなさそうなのは、投稿された写真から一目瞭然だ。犯人からすればその瞬間から躊躇う理由がない。そのまま殴打しただろう。凶器は回収されていて見つかっていないが、恐らく一撃でもほぼ致命傷となっただろうことは解剖の結果わかっている。


 部屋は荒らされたが盗まれたものはない。部屋を荒らすこと自体に目的があったか、あるいは――何らかの情報を探していた。情報なら、実物を持ち去るわけではない。

 唯一真冬さんの部屋からなくなっているらしい狐の面は、犯行に使用されたと見て良いのだろう。しかし飾っていたわけではなく保管していたと真冬さんは言っている。つまり、顔を隠すために真冬さんの部屋にあった面を使用したのであれば、犯人はその保管場所を事前に知っていたことになる。


 この情報だけで、何らかの仮説は立てられるだろうか。合鍵のない春翔さん。身長の低い氷夏さん。アリバイのある四人の容疑者。熱心なファン。空き部屋の多いマンション。どれも繋がりそうで繋がらない。

 それでも現状で考え得る仮説を、とりあえずひかりさんに話してみよう。そうしたら、彼女らしいひらめきを何かくれるかもしれない。



 ひかりさんの城である第四支援室にお邪魔すると、パウダータイプのミルクティーをお湯で溶いたものを出してくれた。僕のいる第二分析室と彼女のいる第四支援室は、お互いに行き来することが多く、それぞれの部屋にお互いのマグカップが置かれている。


 部屋の中央にあるテーブルに向かってひかりさんと向かい合うように座ると、彼女が揶揄うような笑みを向けてくる。


「お早いですね。もう資料に目を通してくれたんですか? 実は私が持ってくる前から、この事件に興味がおありでしたか?」


「いえいえ、これだけ情報が集まっているとは思わなくて、考察も捗りましたよ」


「それは楽しみです。では、その考察というのを聞かせていただけますか?」


 捜査支援分析センターは、あくまで捜査本部に対しての支援的な役割を担う。実際に現場に行って捜査をしたり、犯人を追ったりということは滅多にない。今回も、僕らの一番の仕事は犯人がどういう人物か、どういう手口で犯行が行われたか、捜査を進めるにあたって必要になる手掛かりは何で、どういう捜査が必要か、そうした捜査の指針を出すことにある。

 だからこちらからいくらか仮説を出して、その仮説が合っていそうかどうか、現場に証拠を集めてもらう。仮説と言っても、捜査本部には高い確度のものしか提言しない。だからその前段階として、僕とひかりさんとで意見をすり合わせ、合理性の判断をする。その第一回目がこれだ。

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