2.

 被害者はアイドルの〝真冬まふゆ〟ではなくその双子の妹だったということだが、犯人はそれを知っていたのだろうか。本当はどちらを殺害するつもりだったのかによっては、真冬さんを狙った事件がこれから起こる可能性もある。


 そもそも、この部屋に侵入できた犯人は何者なのだろう。合鍵を持っていたのだろうか。

 それに、撮影をしていたとしても、玄関の扉が開けられれば気付きそうなものだ。少なくとも玄関からやってきたのなら、侵入自体を真白ましろさんが察知できなかった可能性は低い。この家に頻繁に出入りしていて、やってきても不思議はない人物だったのだろうか。


 しかし一番の疑問は、この写真だ。

 窓は閉め切られていて、数日単位で開けられた形跡がないことがわかっている。事件のあった部屋に入るには開け放たれたドアから入るしかない。真白さんは鏡越しに後ろが見えているから、犯人が襲い掛かろうとしているのに気付いているはずなのだ。それなのに何故、まるでそのことに気付いていないかのようにポーズを決めた写真を撮れたのか。

 写真を撮れたにしても、驚いたり恐怖したり、それこそ動揺して写真がぶれてもいいはずなのだ。それが何故、こんなに綺麗に、はっきりとした写真が撮れているのか。

 真白さんにはドッキリだと伝えられていたのだろうか。だとすれば、実際に殴られるまで、それを信じて疑わなかった可能性もある。


 状況から考え得るに、容疑者は保護者か友人、恋人、同じユニットのメンバー、マネージャー、事務所関係者……あたりになるのだろうか。


 真白さんが真冬さんのフリをしてSNSに自撮り写真を投稿していることを知らなければ、真冬さんの家に真白さんがいるとは思わないだろう。だから、真白さんを狙ったのか真冬さんを狙ったのかで想定容疑者は変わってくる。

 しかし真白さんが驚いていないことから、真白さんと真冬さんの共通の知人であった可能性は高い。そうなると、恋人の線はあまりなさそうか。

 それからこの〝なりすまし〟は世間的には隠された情報だったことから、友人という可能性も低くなりそうだ。事務所やユニット関係者は〝なりすまし〟の件は知っていたのだろうか。


 この〝なりすまし〟の件を含め、事務所だけでなく警察も、今のところ捜査情報は明かせないとして情報を伏せている。それがかえって世間の不安を煽っている。となると、まだ世間的にはこの投稿された写真に写っているのは真冬さんということになっており、もし〝なりすまし〟を知らない犯人であれば、まだ犯人にもその情報は漏れていないと考えて良さそうだ。

 とは言っても、さすがにいつまでも隠してはいられないだろう。ある程度犯人の目星を付けて、早急に真冬さんの身の安全を確保しなければいけない。



 別のファイルには、関係者へ聴取を行った際の資料がまとめられていた。


 まずは被害者の双子の姉であり、事件現場の家主でもある真冬さん。

 彼女は事件当日はレッスンの予定が入っており、朝から家を空けていた。事前に真白さんが家に来ることは知っており、彼女には合鍵を渡してあったという。

 朝八時半からレッスンスタジオに入り、午前中にボーカルレッスン、午後にダンスレッスンを受けていた。スタジオに居たことはトレーナーが把握しているほか、スタジオ内の監視カメラにも映っているのが確認された。

 例の写真が投稿されて数分で騒ぎになり、マネージャーの宇堂うどうあさひさんから事実確認の連絡があった。逆に宇堂さんから状況を聞いた真冬さんは、写真の人物が真白さんであるとすぐに気付いたため、宇堂さんに事情を説明し、レッスンを途中欠席して自宅へ戻ろうとした。スタジオを出た時刻は十四時過ぎで、真冬さんのスマホの通話履歴にも近い時間に宇堂さんとの通話記録が残っている。

 犯人が残っている可能性もあるということで宇堂さんと一度合流し、二人で自宅に入り、頭から血を流して倒れている真白さんを発見。宇堂さんが警察と救急に連絡したが、真白さんは既に死亡していた。これが十四時二十分頃のことだ。


 マネージャーの宇堂さんは、午前中は新曲のジャケット撮影の打ち合わせのため撮影スタジオに寄り、午後は事務所に戻って書類作成をしていたそうだ。打ち合わせは午前八時頃から一時間ほどで済み、早めの昼食としてコンビニで買った弁当を車の中で食べ、事務所に戻った。コンビニで買った弁当のレシートも確認済みで、時刻は午前九時七分。事務所に着いたのは午前十一時半頃で、事務員がその姿を目撃している。

 その後は、騒ぎに気付いた宇堂さんが真冬さんのアカウントから投稿を削除し、真冬さんに連絡を取る。真冬さんの生存を確認した後、真冬さんから大まかな事情を聞いた宇堂さんは、事態は急を要すると考えて、レッスンの中止をスタジオに連絡。真冬さんを迎えにスタジオに向かった。


 〝UnAuTuMnアンオータム〟のメンバーは、真冬さんの他には二人。


 一人は〝春翔はるか〟の名で活動している武宮たけみや春翔さん。

 事件前日の夜は遅くまでゲーム配信をしていたため、翌日の午前中は寝て過ごしていたそうだ。

 午後からは真冬さんと同じくダンスレッスンの予定が入っており、スタジオにやってきたのは午前十一時四十八分と入り口の防犯カメラの記録にも残っている。真冬さんが早退してもそのままレッスンを続け、当日は午後四時半過ぎまでレッスンを受けていた。


 もう一人は、〝氷夏こなつ〟の名で活動している薪口まきぐち氷夏さん。

 彼女はアイドルでありながらイラストレーターでもあり、イラストレーターとしては〝冷見ひえみ〟の名義を使用している。

 午前中は発注されていたイラストを仕上げて、メールにて納品。送信記録が残っており、時刻は午前十時五十五分。

 午後は真冬さん、春翔さんと同じくダンスレッスンの予定があり、入り口の防犯カメラの記録では午前十一時三十二分にスタジオにやってきている。春翔さんと同じく、真冬さんが早退した後もレッスンを受け、彼女は居残りで午後五時過ぎまでスタジオで自主練習を続けていた。


 真白さんによる〝なりすまし〟については、ユニットメンバーを含めた事務所関係者は知らなかったそうだ。社長と宇堂さんについては、真白さんという妹がいたことは知っていたが、〝なりすまし〟行為を行っていたことは知らなかったと述べている。


 真冬さん宅の合鍵については、宇堂さんと氷夏さんは所持しているという。

 また、真白さんには特別親しい友人はいなかったようで、調べた限りでは恋人もいないとのことだった。

 保護者も〝なりすまし〟については知らなかったが、写真を見ればどちらかはわかる、恥ずかしいからSNSは見ないでほしいと真冬さんに言われていたと供述している。



 ざっと見てわかるのは、聴取を行った人物については全員アリバイがあった、ということか。


 ネガティブな内容を含む調書によると、真白さんは真冬さんと同じオーディションを受けたが、彼女だけ不合格となっている。

 社長含め当時の担当者に確認すると、ビジュアル的にも双子でデビューさせるという手もあったが、いかんせん真白さんの歌唱力には看過できない問題があり、アイドルとしては難しいと判断したらしい。グラビアだけというのは考えているかと聞けば、それは嫌だと言われたのだという。


 さらにメンバーの関係については、ネットでは真冬さんと春翔さんは不仲だと噂されており、二人に確認したところ、事実であると認めた。氷夏さんは二人の関係については興味がないと答えているらしい。


 また、狐の面については、メジャーデビューする前に受けた体験型取材で使用したもので、メンバー三人とマネージャーの宇堂さんが体験終了後に記念にもらったものだったという。

 真冬さんは玄関付近に保管していたはずだが、事件後に改めて確認したところ、なくなっているのがわかったとのこと。春翔さんと宇堂さんは自宅に保管してあるそうで、捜査官がそれを確認している。氷夏さんは廃棄したので持っていないということだった。

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