ほうかご
おじや
かなかな
からからとおとをたてまわるたいやをみていた。橙に染められた制服に紫の影が落ちている。
石が入ったのか靴が不快感を伝えてくる。雨上がりのアスファルトから立ち込めるペトリコールと湿気とシーブリーズのにおいが足を止めようと影を引っ張る。長い髪から差し込む光が後光に見えた。肌にまとわりついたシャツに汗がにじんだ。流れる道がエスカレーターのように感じ、顔を上げた。
あまりに強い日差しを瞼が遮ろうとした。まつ毛越しの日差しは蛾のようにも蝶のようにも見えた。東京にしては広すぎる空は湿気をとじこめ、僕らを蒸し焼きにしようとしている。
分かれ道がこないように一生懸命探した話題も尽きようとしている。タイヤの音はもうとっくに止んでいた。月が映える空からは藍色の光がさしていて、先ほどから街灯が影を3重に作っている。しゃわしゃわと鳴く声は聞こえなくなった。自販機に蛾がたかっている。それを見た君は昔話をしてくれた。もう3度も聞いているのだが。
弱い風が肌を撫でる。もう夜だというのに30度を上回る気温とこもった湿気のせいで涼しさは感じられず、ぺたついた感触に顔を顰める。
ふと刺激を受け、足元を見る。肌が赤くはれている。虫よけは落ち切ってしまったようだ。
二つ、スカートが目に入った。隣の脚と自身のものを見比べる。傷一つなく、日差しを知らないかのような肌。すらっとした、余計なものが何もない、なめらかな脚。傷跡ばかりで、砂や泥を塗りたくったようにちくちくとした、焼け切った肌。無駄についた筋肉。太い骨。
視線に気づいたのか、花びらのような唇が震え、澄んだ音が聞こえる。
「そういや来週からプールなのかぁ」 いつしか聞いた話題だ。
やだねぇと返す。ねーと返ってくる。何も記憶に残らない会話だ。ゆるゆると会話が始まる。
あ
と、会話が途切れる。気づけば、19時をまわっていた。
「そろそろごはんだから、じゃあね。」
「気ぃつけてかえってね~」
「うぃ~」
からからと音が遠ざかっていく。それを聞くと憂鬱な気持ちになる。
休み時間のチャイムと似ている。放課後の終わり。このあとは家に帰るだけ。なのに足が重くなる。
エスカレーターに運ばれた足は、あまりにも小さくて頼りない。音をたてないように扉に鍵を刺した。
かちゃ
と扉はあっけなく開いてしまった。
ほうかご おじや @Oziya0810
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