第3話 兄貴

 勢いで部屋を出た俺。けれど胸騒ぎのような、何故か引き寄せられるような、妙な感じがする。

ーー地下倉庫まで来たけど、いいんだよな? 

 今更、困惑するのか?

ーーアイアンスライム、硬化、大量……、何を持って行けばいいんだ? 剣か斧かハンマーか、ここはハンマーだな! 救助要請はあるのか? まだスマホは静かだ。緊急といった割に通知が来ない。よし、左目コンタクトレンズ報道チャンネル自動再生だ! 迷っている暇はねーーそういえば魔法の杖があったな、回復が強力なやつを持って行くか、それとも雷土いかづちか。救助要請……来るかな? ええいーー回復ポーション、毒消し、状態異常と、マジックバッグに詰め込むぞ。

 俺はサクサクとポーションを斜めがけのマジックバッグに詰め込み、杖を背中に縛り付けた。右手には大型ハンマーを持った。


「これで完璧だ!!」

 自信に満ちた俺、しかし何処へ行こうというのだ。

その時、速報が入った。


<速報です。只今ただいま、24区、ハンター協会本部直通の地上トンネルが、硬化したアイアンスライムの死骸に塞がれました。このため本部に待機しているハンター達の出動に影響が出ると思われます>


 速報に俺の行き先は決まった。


「母さん、父さん、待ってろよ!」


 俺は勢いよくチャリに飛び乗った! 背中の杖が邪魔になる。ポジションを変えると、まるでのぼり旗のようになった。だがしかし、構ってる場合ではない。


「うおぉお!!」

 ギイギイと音を立てる自転車。普段のハンター要請は乗り合いの車で移動する。俺はまだ、救助要請や素材捕獲しか受けたことがない。本格的な狩りはまだなのだ。

「負けねぇ!!」

 ギイギイと俺の呼び掛けに印藤号が答える。


***


 現場に着くと、数人の自警団が交通整理や人の保護をしていた。


「俺、印藤勇人と言います。ハンター免許も持っています。職業は冒険者、救助要請を受けたこともあります。何かお手伝い出来ませんか」

 俺は後方にいた自警団の人に声を掛けた。

「印藤さん、冒険者……もしかして真悟まさとさんの孫か」

「そうです」

「そうかそうか、よろしく頼みます」

「こちらこそよろしくお願いします」

「しかし、まだ正午前、学校はどうしたんだ? 今日は休みか」

「いえ、生徒は自宅で避難待機させられました」

「それなら、家に帰りなさい」

「いえ、でも、報道チャンネルでハンター協会本部直通のトンネルがアイアンスライムに塞がれていると! それに母さんと父さんが本部の会議室に居るんです!」

 俺は焦りを表した。

「でもな~」

「俺、アイアンスライムは素材捕獲の要請で何回も対処しました。じいちゃんの新作ハンマーも持参しました。スライムは融合が始まっていますか? 融合したらより固くなり対処に時間が掛かります。今のうちに砕いて置けば融合が防げるし、素材としても用途が広がります、お願いします、やらせてください!!」

 捲し立てまくしたて、俺は深々と頭を下げた。

「ふむ、よし分かった。自警団の責任者には俺が報告をしておく。アイアンスライムは、今の所降り止んでいるから頭上は心配ないと思うが気を付けてくれ。そうだ、俺のヘルメットを被ってくれ。現場には須藤という者がいるから支持に従ってくれ」

「分かりました」 

 

 前方に移動した俺の目の前にあったのは小山ほどのスライムの山だった。まだ、融合が始まっていないのでコロコロとしているものが多い。

須藤さんの支持に従って地道にスライムを猫車ねこぐるまに乗せていたが埒が明かないらちがあかない。俺は掛け合ってみることにした。

「須藤さん、素材運搬車は来ていませんか」

「まだだな」

「トラックか何かは」

「軽トラなら、2台持って来た」

「素材運搬ルートは確保してありますか」

「ああ、それは確保してある」

「ではここに軽トラを乗り入れて、俺が魔法で積み込みと粉砕を同時にしてもいいですか」

「そんなことも出来るのか」

「ええ、まあ」

「背中のその立派な棒は、魔法の杖か」

「その、はい」

 悪いと思ったが説明を省くはぶくために俺は生返事なまへんじをした。

「後方の太田に確認をする」

 須藤さんはあっさりと俺の話を聞き入れてくれた。

「今し方、交通整理も車両整列もほぼ終わったそうだ。5分ほどで2トンの素材運搬車も数台到着する」

丁度ちょうどいいですね、まずは軽トラを一杯にしましょう。猫車でスライムを運んだ所にある軽トラでいいですよね」

「ああ」

「ここに魔法で移動させます」

「そんなことも出来るのか」

「はい! 1台空のようですね」

 俺は無詠唱魔法むえんしょうまほうでトンネル前に軽トラを運ぶ。

「では始めます」

 数分で軽トラに粗く粉砕あらくふんさいしたアイアンスライムの死骸を積む。


「ま、待ってくれ! 早過ぎる!」

 須藤さんが声を張る。

「ね、猫車を全部持って来い」

 周りが騒つくざわつく

「もう素材運搬車がそこまで来ていますよ」

 誰かが言った。

「いいから、坊主の作業の手を止めちゃならね~」

 須藤さんが言い放つと、勢いよく皆が動く。


「坊主、よろしく頼む」

 俺の前に20台ほどの猫車が並ぶ。

「はい」

 猫車にせっせと粉砕スライムを入れる。何故か、須藤さんは自慢げな顔をしている。

積み終わった頃に運搬車が来た。

「坊主、今度は2トントラックだ! 出来るか?」

 挑戦的な笑顔だ。

「任せてください」

 俺は粉砕スライムを積み込む。そろそろマナポーションを飲みたい所だが……。

「坊主、マナポーションだ。俺の奢りおごりだ、飲んでおけ」

 何というグットなタイミング。礼を言うと勢いよくポーションを飲み干し、俺は作業を続ける。いつの間にか拍手が巻き起こる。

その時だ、トンネルに異変が現れた。


「坊主、現場を離れるぞ」

「そんな、どうして!」

 俺は焦った。

「見てみろ、融合したスライムの様子が変だ。変色してやがる」

「え?」

 目の前には変色した動くスライムが膜のようにトンネルの入り口を覆っておおっていた。

ーーそんな、どうして?! 融合したスライムが動くなんて!!


「坊主、戦闘経験はあるか」

「ないです!」

 俺は焦った。

「なら、防護壁ぼうごへきは張れるか」

「初級なら5分は、堪えます」

「よっしゃ、頼む」

「はい!」

 俺はトンネルの前に防護壁を張る。足に震えが来ているのが分かる。

その間も俺を庇いながら須藤さんは現場の皆に支持を出す。

目の前のスライムの膜が動き出す。

ーーこんなの、俺は見たことがない。


「須藤さん」

「俺の適正職は盾だ。坊主一人くらい守る。きっちり5分堪えてくれ!」

 皆が避難して行く。最前線は俺と須藤さんだけになった。

「そろそろだな」

「す、須藤さん、前!!」

 スライムの膜が触手を伸ばすように動き始めた。

「クソッ!! ダンジョンの出現か? 坊主、俺の後ろから離れるな、あの膜に飲み込まれたらダンジョン行きだ」

「はい!!」

 俺は必死に返事をした。覚悟もないのにダンジョン行きはご免ごめんだ。

俺を庇いながらじりじりと下がる須藤さん。膜は七色に変化するように色を変え、触手を伸ばす。よく見ると中心に影のような物が見え始めた。

「須藤さん、なんか居る」

「ああ、影が見える。新しいダンジョンの誕生かもしれないな……」

 言葉を切る。こんな所にダンジョンが出現したら、ハンター協会本部はどうなる! 母さんと父さんは! 俺は泣き出しそうになる。

「坊主、大丈夫だ。殆どの場合、ダンジョンブレイクでもない限り、魔物は外に出られない」

「須藤さん!!」 

 俺は声を張り上げた。

「ブレイクかよ……」

 いつの間にか、須藤さんは盾と短剣を取り出していた。

「俺は剣は上手くないんだ」

 どんどん影が濃くなり足のような物がスライムの膜から出て来た瞬間。


うわぁあああああ!!


 俺は悲鳴を上げて須藤さんの腰に後ろからしがみ付いた。


「やぁ~と出られた。参ったよ、不死鳥が出やがった。世界でも数匹しか出てないて奴だぜ?」

「はあ~お前かよ~、ダンジョンブレイクかと思ったぜ」

「まじ、きちぃ~。もう潜って十日くらい経ってるぜ」

「お前、臭いよ」

「しょうがねえだろ。ところで須藤。その腰にしがみ付いて震えてる子鹿みたいなのは何だ?」

「ああ、お前んとこの子鹿だぜ」

「お?」

 震える俺の頭をガシガシと撫ぜる。

ヘルメット越しでも分かる。兄貴の撫で方だ。

「勇人~何してんだあ」

「……」

「なあなあ、勇人ぉ~」

 俺はこの声を知っている。

「兄貴?」

「そうだぞ~お前の兄ちゃんだ。子鹿君」

「三千人ぉおお」 

 俺はわんわん泣いた。

「呼び捨てかよ……。どうした、勇人」

 不思議そうに聞く兄貴に、須藤さんが説明をする。

「そうか、頑張ったな勇人」


 俺は号泣した。

 俺の兄貴が帰って来た。


 兄貴達のパーティが出て来て、スライムの膜は溶けたようにいつの間にか無くなっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔物注意報 黒崎澪 @kurosaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画