第2話 冒険者

 印藤ビルは地下3階地上6階のビルだ。地下1から地上2階までは店舗てんぽ。3階からは住居になっている。じいちゃんとばあちゃんは3階に住み、両親と僕らは6階に住んでいるが、最近、兄貴が2階の一部を占拠せんきょした。まあ会議室に当てていた部屋が余っていたからいいのかもしれないが……。何を考えているのだか。


「なんか広いな」

 玄関を開けた俺は独り言を言う。家族が居る時は狭い狭いと文句を言っているのにな。

「ああ、でもさ、生活感はある。あーーディスプレイ付けっ放しじゃないか! 全く!」

 鼻息荒く言うが、俺が犯人だ。

 

<速報です>

<本日はアイアンスライムの量が多いようです。関東方面、特に24区内はご注意ください>

<外出を控え、雨戸やシャッターを下ろされることをお勧めします>


「アイアンスライムが多いなんて珍しいな。いつもならクリアスライムが溢れて駆除要請くじょようせいが俺の所まで来るのに」

「母さん、大丈夫かな」

俺はリビングのディスプレイを見ながら呟く。


ピコポン、ピコポン。


「ん? もう授業の時間かな」

 スマホのアナログ時計を見ると10時前を指していた。

「1限目なんだっけ? あ、えっとリモートの時は2時限目からだっけ? あ~もう、なんでもいいディスプレイを切り替えるだけだ」

 俺は報道チャンネルから学校の授業用チャンネルに切り替えてから、俺の組のパスワードを入力した。


ピコポン、ピコポン。


「あれ? 授業じゃないのか」

 スマホをよく見ると、着信だった。

「はい、勇人です」

「担任の藤崎ふじさきです。クラス全員にメッセージを今飛ばしたんだけど、出席番号1番の印藤君から順に声確認の連絡網を回してくれるかしら」

「声確認? 先生、何かあったのか、今日の魔物注意報でアイアンスライムが多いとか、報道チャンネルで速報がさっき流れていたけど」

「うーん、印藤君はハンター免許を持っているからいいかしら。先生も学校側から、避難勧告を生徒に回して欲しいと言われたのよ、事実確認は追い付いていないみたいなんだけどね」

「なんか、分かんね~けど物騒だな」

「そうね」

 先生の慌てている様子が窺える。

それに声確認だなんて、大袈裟おおげさじゃないか?

俺の学校では、メッセージを一方的に流すのではなく、緊急時には安否確認を含めて電話で相手の声を聞いて確かめることをする。それを声確認と言っている。

「先生の住んでいる所では朝からアイアンスライムだけが降って来ていて、通勤が怪しいことを学校に知らせようと連絡を入れたら、学校側が大騒ぎだったのよ」

「先生、余計に話しが分かんね~」

「ごめんなさい、兎に角とにかく、下水道の詰まりや硬化したアイアンスライムの群れが出ているのは確かなの」

「え? 硬化した群れ」

「ええ」

 俺は違和感を感じた。ホールから降って来る魔物は比較的に弱い。兄貴に言わせるとダンジョンで出会うスライムと比べると子供のようなものだと言っていた。降ってくるスライムは皆、比較的に臆病おくびょうだ。群れる時にはボス級の……そうだ、強い何かが居る時じゃないのか?

「先生、分かった。声確認回して置くよ」

「頼むわね。今後のことはハンター協会と各自警団が連携すると思うの。その指示に従って避難してね」

「分かった」

 

 俺は先生との電話を切ると、すぐに宇佐美うさみの所に電話をした。宇佐美は俺が出席番号1番だから、先生から何か聞いていないかとしつこく聞いて来たがスルーして電話を切った。


ーーどう考えても可笑しいおかしい。今までホールが開いたくらいで、避難勧告が出たか? ホールが開いてから7年だ。ホールブレイク、ダンジョンブレイクは幾度いくどとなくあった。7年という歳月が人類に対処方法を編み出させたのは言うまでもない。避難ルートや場所や設備、今では多少不自由なくらいで、皆、冷静に行動する。

ーーいいや、そんな話しじゃない! 引っ掛かる。ホールから降って来たスライムは、ハンターでなくても一般人でも最弱のものなら捕まえることが出来る。実際に素材として捕獲し売って生活する者もいる。

 俺は頭を捻りながらディスプレイを見ていた。


「何だ!! あれ……」


<緊急速報です>

<只今、アイアンスライムが大量に発生し、硬化したままの死骸しがいが街に溢れています。一部の道路では土砂災害のような状態になり通行止めの箇所が出て来ています。今後はハンター協会や各自警団のチャンネルに切り替え、速やかに避難を開始してください>

<繰り返します。今後はハンター協会や各自警団のチャンネルに切り替え、速やかに避難を開始してください>


 俺はディスプレイを凝視ぎょうしした。あれはホールブレイクなのか……。ホールブレイクなら空の色が急激に様々な色に変わる。曇り空や夕焼け、そんな自然現象のような空模様ではない。あえて言うなら、ベクシンスキーの描く空のようだ。


ーーホールブレイク、じゃないよな? だとしたら何だ?

ーーボス級の魔物にスライムが引き寄せられているのか。そうなのか? スライムは魔物の餌にもなるからな。それともまだ駆逐くちくされていない、はぐれスライムでもいるのか? たまに居るよな、地上で捕獲されずに育ったヤバい奴が。あいつは群れを形成するから。

 俺は考えても考えても何も浮かばず、苛立ちから部屋の中をうろつき始めた。

窓の外を見ても曇り空が広がっているだけだ。


「わっかんねぇーー」

 思わず声に出る。

 ふと、思う。

「外に、出るか? 俺だってハンターだ。しかも俺の職は冒険者だ。武器は何だって使える万能じゃないか! まあレベルを上げればの話しだけどな」


 魔物を狩る職業には、盾、戦士、魔法使い、密偵、賢者、冒険者がある。

所謂、覚醒はある日突然やってくる。そしてステータス画面を取得する。

覚醒は様々な形で現れた。魔物を狩るハンターだけではなく、スキルとしても取得した。俺の母さんは縫製をサブスキルとて取得し、より縫製の腕が上がったと言う。勿論、ステータス画面も取得済みだ。というかだな、ステータス画面は殆どの人間が持っている。

俺はハンターとして冒険者になった。サブスキルに鍛冶屋もある。お陰でじいちゃんの手伝いをして小遣いも貰える。大助かりだぜ! いや、今はそんなことはどうでもいい。


「行くか、外へ」

 俺は決意を固める。武器は倉庫にある。じいちゃんが冒険者になった俺のために、試し武器を色々作ってくれた。その中から選べばいい。そうだ、それでいい。


「よし!!」

 俺は決意を固め玄関へ進む。勿論、今度はディスプレイを消した。

 いざ、地下1階へ。

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