魔物注意報
黒崎澪
第1話 魔物注意報
<朝の魔物注意報をお知らせします>
<本日、午前の魔物注意報は、関東地方、クリアスライム時々アイアンスライムと予想されます。午後は、天気が回復し光が指す模様で気温の上昇が見込まれ、イエロースライムやオレンジスライムが降ると予想されます。また、アイアンスライムは一日中降る模様です>
<白鳥さん、アイアンスライムですか?>
<はい、ハンター協会魔物観測所からの予想です。アイアンスライムは特にクリアスライムが好きですし、一緒に降り出すと予想されています。また、降り出したら一日は止まりませんからね>
<そうですね。午後から降ると予想されるイエロースライムとオレンジスライムが気になりますね>
<ええ、アイアンスライムはイエロースライム、オレンジスライムと相性が悪いですからね、接触事故が起らないことを祈ります>
<そうですよ、イエロースライム、オレンジスライムの中に炎属性を持つ物が混ざっていたりしますからね>
<はい。ああ、新しい魔物ニュースが入って来ました。皆様、お出掛けの際にはご注意ください>
<それでは、行ってらっしゃい>
今朝の魔物注意報だ。
7年前、突然、空に穴が空いた。皆、最初は台風の目のような物を見て、ゲリラ豪雨かハリケーンかと騒いだが、その穴はその場所を動くこともなく閉じることもなかった。今ではホールと呼ばれている。
「
「午前、クリアスライムとアイアンスライム。午後はイエロースライムとオレンジスライムだって」
「え? アイアンスライムは一日中降るわよね?」
「そう言ってたよ」
「やだわ、お父さんのお弁当を持って行かないといけないのに」
「そういえば、お父さんは?」
「今朝早くハンター協会から連絡があったのよ、なんでも新しい素材が見付かったて」
「素材? ダンジョンの方か」
「そうだと思うわ」
ホールが出現してから少し経って、ダンジョンが発見された。カップルだらけの夜の公園で、突如、人々が次々に闇の中に吸い込まれて行ったという。その闇は
そしてその場所は数ヶ月後に、ダンジョンであると調査の結果、断定されたらしい。
「ああ、勇人。学校に今日はリモート授業か確認しなさい」
「リモートになるなら、9時半以降に連絡入るって」
「それじゃ、遅刻してしまうわ」
「息子の危険より、遅刻の心配かよ~」
「あら、それもそうね。お母さん、学校に連絡入れようかしら」
「いいよ、こんな時は自宅待機で大丈夫だって」
「そうは言ってもね~」
ピッピッポーン、ピッピッポーン。
「母さん、まだその着信音使ってるのかよ」
「だって、お父さんてすぐに分かるじゃない」
「ハイハイ」
「はい、お父さん……」
いい年をして。未だに両親はラブラブなのだ。
「ええ、ええ」
母の弾む声が痛い。
「あらあら、そうなのね。すぐに行くわ」
母の顔を見る。今日も嬉しそうな顔をしている。
「勇人」
「ハイハイ」
「はいは一回」
「ヘイヘイ」
「勇人」
「ごめんなさい」
こういう時は、早々に謝るのがいい。
「お父さんから連絡があったんだけど」
「知ってるよ」
「口を挟まない」
「はい」
「今回、ダンジョンで出た素材。どうやら、お母さんの手を借りたいらしいのよ。なんでも肩当てに加工するのはどうか? という案があるらしくてね。これはお母さんの出番でしょう! 防具の縫製なら
「印藤防具店てぇ、じいちゃんと父さんがやってるのも印藤じゃないか」
「あら、あっちは印藤武器屋でしょう?」
「ばあちゃんも印藤洋装店じゃないか、何が違うんだ? 家族経営で客も回してるじゃないか」
「人聞きが悪いわね、お客様は、ご・案・内・しているんです!」
家は7年前のホール出現から、うっかりじいちゃんに先導されてサラリーマンだった父さんは仕事を辞めた。武器という二文字にアニメおたくの血が騒いだらしい。父さんのハンター協会が設立された時の浮かれようと来たら。俺たち兄弟の顔を見る度に祝いだと小遣いをくれた。その日一日で年間の小遣いを上回ったことを俺と兄貴は一生忘れないだろう。
「勇人、聞いてるの?」
「あ、うん、ハイ」
「はいは一回」
「はい」
「まあいいわ、ワゴンに材料を積むのを手伝って欲しいのよ」
「母さん、行くのかよ」
「行くわよ」
「アイアンスライムが降るんだぞ?
「家のワゴンの装甲は知ってるでしょう」
「知ってるよ、父さんとじいちゃんが
「なら、大丈夫よ」
「マジかよ……」
俺は
「さあ、地下の倉庫に行くわよ」
「学校にリモートの確認しなくていいのかよ」
「あら、9時半過ぎないと連絡が来ないんでしょう」
「そうだけど」
「9時前じゃない、行くわよ」
「マジかよ……」
俺は
(丸分かりだなぁ~)俺は呆れつつ、エレベーターまでの廊下を歩く。
そうなのだ、自宅は店舗兼住宅、家族と店舗従業員が住んでいる。地下3階地上6階建てのビルなのだ。このビルが建ったのは2年前、じいちゃんの
「勇人、何をにやけてるのよ」
母さんに言われて我に返る。
「あ、その、まだこのビル綺麗だなぁ~と思ってさ」
「まだ、2年目だしね」
「そうだな」
俺と母さんは、下に下りるまでたわいのない話しをした。
俺は倉庫から荷物をせっせと運ぶ母さんに言われるままにワゴンに荷物を積み込んで行く。
「母さん~、もうワゴンに積めないよ」
倉庫からまだ材料を持ち出す母さんに向かって大声で言う。
「あら、後、ダンボール1箱くらい乗らない?」
「ああ、まあ、荷物を詰めてみるか」
俺は、2、3個の荷物をワゴンから出し積み直しをする。
「お願い」
母さんが積み直し終わった俺に小ぶりのダンボール箱を渡す。
「これで全部か」
「ええ、ありがとう」
ピコポン、ピコポン。
「鳴ってる」
俺のスマホが鳴る。
「母さん、やっぱり今日は学校、リモートだって」
「そう、一人で家にいて大丈夫」
「何だよそれ~俺、子供じゃないんだが」
「何言ってるの、3日後に17歳になる子供じゃない」
「何だよそれ~」
フッと笑う母さんに、俺は言葉を続けた。
「母さん、兄貴、俺の誕生日には帰って来てくれるかな……」
「ええ、そうね」
母さんが言葉を切るから、俺は急き立てるように言った。
「兄貴がダンジョンに潜って10日だ。こんなこと初めてじゃないか、俺はまだダンジョンデビュー出来てないけど、可笑しいじゃないか! 今までこんなことなかった。長くてダンジョンに潜るのは3日だった。だから、だからさ……」
言葉が続かなかった。兄貴の適性職業は戦士だった。大剣を武器として選んだ。初めて自分の武器を素振りして満足げに笑った兄貴が誇らしかった。
「母さん……」
やっと言葉が出たと思ったら、母さんを呼ぶしかなかった。少し、困り顔して俺を見る。
「勇人。三千人は大丈夫。あの子は強い」
「母さん、でもさ」
母さんは俺の言葉を遮り。
「用が済んだら、お父さんとハンター協会にあるギルド案内所に行って来るわ」
「兄貴はギルドに入っていないじゃないか! ずっと断って……だから……」
「馬鹿な勘ぐりはよしなさい。三千人は大手ギルドの助っ人で今回ダンジョンに潜ったの。お母さんはそこまでしか知らない」
「だけど……」
「勇人、しっかりしなさい。あなただって立派なハンターでしょう?」
「そうだけど……」
俺は母さんを困らせている。
「勇人、そろそろお母さん行くわね。お昼はお弁当を置いてあるから、ちゃんと食べるのよ」
「うん」
「ほら、元気出して。しっかり勉強しなさい。リモートだからてサボらないのよ」
「分かってるよ、子供じゃないんだからさ」
フフッと笑う母さんは、少し悲しげな顔をしていた。
俺は母さんを見送って部屋に戻るのだった。
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