☆4かいめ☆ 契約成立!

「『じゃがりこ』……気に入ってもらえたみたいでよかったよ」

大地はようやく安堵の息を吐き、じゃがりこ一つでご機嫌になったラビリスに声をかけた。


「さて、本題に戻ろう」

彼は表情を引き締め、改めてラビリスに向き直った。

「まず、一番最初に聞きたいことだ。ラビリスは、どうやってこの世界に来たんだ?」


「う……なぜ、そのようなことを聞く……?」

彼女は視線を逸らし、口ごもるように答えた。


「なぜって、当たり前だろ」

大地は不思議そうな顔で言った。

「ここがお前の世界じゃないなら、帰る方法を見つけるしかない。来た方法が分かれば、それがヒントになるかもしれないだろ?」


「ふむ……確かに、そなたの言う通りじゃ……」

ラビリスは渋々と頷いた。真紅の瞳に一瞬の決意が宿る。


「仕方あるまい。この件に関しては、そなたに情報を提供しよう」

彼女は大きく深呼吸をした。

「じ、実はな……」





(回想)


それは、地球に辿り着く前日のこと。魔王の城の、最も厳重な一室にて。


「しめしめ……」

ラビリスは、巨大で荘厳な玉座の間を恐る恐る見渡し、小さな声で呟いた。

「今は父上がおらぬようじゃ」



「姫さま!どちらに!姫さまぁー!」

石造りの長い廊下の向こうから、お目付け役らしき魔物の焦ったような声が聞こえる。



「ふん!退屈な座学など、もう飽き飽きじゃ!」

ラビリスは鼻を鳴らした。

「奴は父上の許可なく、この部屋には一歩も入れぬ。ここで隠れて、時間を潰すとしよう」

彼女は退屈そうに、部屋の中を物色しながら、ゆっくりと歩を進めた。


「ふん。父上の部屋は碌でもない書類ばかりだが、魔法具だけは面白いのぅ」

彼女は好奇心を漏らす。

「勝手に触るなと言われると、触りたくなるのが魔族の性というものじゃ!」

宝石のような、あるいは禍々しい様々な魔法具を、乱暴に「カチャカチャ」と玩具のように触って回った。



「む……あれはなんじゃ?」

その時、彼女の目に留まったのは、他の古めかしい魔法具とは一線を画す、淡い銀色の光を放つ小さな水晶玉だった。

「ほう……これはなんとも神秘的で綺麗な玉じゃ」

好奇心に抗えず、彼女はそれをそっと手に取った。

すると、石の廊下の向こうから、足音が近づいて来るのが聞こえた。



「い、いかん!父上が戻ってきたか!」

ラビリスは慌てて机の陰に隠れようとしたが、焦りのあまり、自身のスカートの裾を机に引っ掛けて「あっ」と情けない声を上げ、盛大に転倒した。


彼女の手から離れた水晶玉は、放物線を描き、石の床に激突した。


ガシャーンッ!!


鋭い音と共に、水晶玉は粉々に砕け散り、無数の破片となった。


「はわわっ!」

ラビリスは粉々になった破片を見て、恐怖で顔面蒼白になる。

「父上に殺される……!!」


その瞬間、床に散らばった全ての破片から、目を焼くような凄まじい銀色の光が一斉に放たれた。


「な、ななな、なんじゃ!?」


光はラビリスの小さな体を完全に包み込み、世界が白一色に染まった。

そして視界が戻ると、目の前には見覚えのない人間の男が立っていた。


(回想終了)




「と、いうわけじゃ……」

ラビリスは、話の結末に気まずそうに目を泳がせながら、回想の全てを大地に伝えた。


「ちょっと待て」

大地は思考を整理するように、リキを抱きしめたまま言った。

「えーっと……要するに、勉強が嫌で、魔王の部屋に逃げ込んだ。そこで遊び半分で魔法具をうっかり壊したら、その結果、見知らぬ異世界であるここに飛ばされてきたってことか?」


「う、うむ……その通りじゃ」

ラビリスは顔を上げられずに、絞り出すように答えた。



部屋に数秒、重い沈黙が落ちた後──



「アッハッハッハッハ!!!」

大地は腹を抱え、大きな声で笑い出した。

「なんだそりゃ!壮大な異世界転移の原因が、ただのイタズラ失敗って!お前、面白すぎだろ!!」

彼は笑いすぎて涙目になりながら、情けない様子のラビリスを指差した。


「ぐぬぬぬぬぅぅぅ!!」

ラビリスは顔を真っ赤に染め、指差す大地を睨みつけた。

「わ、笑うな!だからそなたのような下等な人間に、余の事情など言いたくなかったのじゃ!」



「はーっ……ごめん、ごめん」

大地は肩を震わせながら笑いを収め、足元にリキを降ろした。

「あまりにお粗末な、いや、壮大な展開でつい……」


しかし、彼の表情はすぐに真剣に戻った。

「ゴホン、冗談はさておき、これはマズイな。帰る方法について全く予測がつかない。この世界には、魔法どころか、お前の言う魔法具なんてものは存在しないからな」


「ま、魔法がない……?」

ラビリスはハッとしたように、自分の小さな手のひらを見つめた。

「確かに昨日、そなたに魔法を行使しようとしたが……まるで、力が霧散するように、何も起こらなかった。あれは空腹のせいじゃと思い込んでいたが……」

彼女の顔に、新たな絶望の色が広がった。



「さて。一番の問題は、帰る方法が見つかるまでどうするか、だ」

大地が冷静にそう問いかけ視線を向けると、ラビリスは先ほどの威勢はどこへやら、不安と心細さを隠しきれずに俯いていた。



「……やれやれ」

大地は深く、大きなため息をついた。

相手が魔王の娘であれ、見知らぬ異世界に迷い込んだ子供であることに変わりはない。



「わかった。それじゃあ、帰る方法が見つかるまで、俺が面倒を見てやるよ」


「ほ、本当か……!?」

ラビリスは勢いよく顔を上げ、真紅の瞳をキラキラと輝かせながら、大地の顔を凝視した。

その表情は、まさに救いを求めた幼子だった。


「見知らぬ異世界で子供を放り出すほど、俺も鬼じゃないよ」

だが大地は人差し指をピンと立て、キッパリと言い放った。

「ただし!魔王の娘だからといって特別扱いは一切しない!家事は当番制にして、キッチリとやってもらうぞ!働かざる者、食うべからずだ」



「ぐぬぬ……仕方あるまい……」

ラビリスは頬を膨らませ、不満げな表情を隠さなかった。

「不本意じゃが、その条件を飲む…」


「よし、じゃあ契約成立だな!」

大地は優しい笑顔をラビリスに向けた。



かくして、平凡の代表のような中年コンビニ店長『新田大地』と、威厳と好奇心に満ちた魔王の娘『ラビリス』の、予測不能で奇妙な共同生活が、今、静かに幕を開けたのだった。

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