第19話 互角の影


中層第三区画。

空気が重く、魔力の波動が微かに震える。


クロウは短剣を握り、呼吸を整える。

《遅延感知》《空間把握(狭)》で、ゼインの動きを頭の中に再現する。

前回の敗北と小型ボス戦での成功。

すべてが、勝ち筋を作るための情報だ。


#### 遭遇


広間の向こう側、ゼインが現れた。

動きは軽く、魔力が纏う剣が僅かに光る。


「……来たか」


ゼインの声に挑発はない。

だが、視線はクロウを正確に捉えている。


「……今回は、手を抜かない」


クロウは短く答え、距離を取る。


《微調整》で体重を整え、重心を最適化。

《蓄積変換》が内部リソースを反映し、反応速度がわずかに向上する。


#### 駆け引きの開始


ゼインが一歩前に出る。

魔力を纏った剣が閃く。


クロウはすぐに後退せず、軌道の先を読む。


・ 攻撃の速度

・ 攻撃方向

・ 攻撃後の硬直


《遅延感知》が返す情報を元に、

《微調整》で身体をひねり、攻撃をかわす。


ゼインは一瞬目を細める。


(……読むな)


ただの避け方ではない。

クロウは攻撃を誘導して情報を得る動きをしている。


#### 情報の蓄積


攻撃を避けながら、クロウは観察を続ける。


・ ゼインの剣の振り方

・ 魔力消費の兆候

・ 足の踏み込みの微妙な差


前回は見えなかったパターンが、

今は手に取るように理解できる。


《蓄積変換》が微細に反応し、次の行動への精度が上がる。


#### 互角手前


ゼインが斬撃を連続で仕掛ける。

派手な魔力の奔流が広間を震わせる。


だがクロウは攻撃に直接応じず、回避と誘導のループで消耗を最小化。

一瞬のスキを狙い、床の弱点でバランスを崩す。


ゼインも、派手な攻撃で倒すつもりだが、

クロウが巧みに立ち回るため、完全には決まらない。


互角――にはまだ届かないが、前回の差は明らかに縮まった。


#### 決着はつかず


数分の交錯の後、ゼインが一歩退く。


「……悪くはないな」


笑みはなく、わずかに眉が上がる。

クロウを見る目に、前回とは違う印象。


「手応えはあったか?」


クロウは短く息をつき、頷く。


「……あります」


勝敗は決まっていない。

だが、前回より確実に生き残り、次の手筋を得た。


ゼインは仲間と共に先に進み、クロウは距離を取りながらその背を見送る。


#### 心中の確信


壁にもたれ、息を整えるクロウ。


(……次は、もっと差を詰められる)


力押しでは追いつけない。

だが、スキルの連携と情報の活用で、互角の一歩手前まで来られた。


勝利とは、積み重ねの結果だ。


中層迷宮。

ゼイン・ヴォルグ。

そして、自分自身。


最弱判定の冒険者は、

確実に“差を埋める”戦い方を手に入れた。

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