第15話 差を知る瞬間
中層第三区画。
迷宮内の空気は、湿気と魔力で重い。
クロウは慎重に進む。
《遅延感知》《空間把握(狭)》で、魔獣の位置と動きを確認しながら、壁際に沿って歩く。
その時――
前方から、光が閃いた。
「……!?」
一撃で、数体の魔獣が吹き飛んだ。
光と轟音、圧倒的な力。
クロウは、すぐに気づく。
――ゼイン・ヴォルグだ。
背後には、整列した仲間たち。
だが、クロウにとって、相手はゼインだけで十分脅威だった。
「……ここまで来るとはな」
ゼインは、軽く笑った。
口調に苛立ちはない。
ただ、挑戦者を見るような視線。
「単独行動か。無謀だぞ」
クロウは短剣を握り直す。
(……逃げるわけにはいかない)
第一歩を踏み出した瞬間、ゼインが動いた。
速度が、次元違いだ。
魔力の奔流を纏った剣撃が、クロウの目前で炸裂する。
《遅延感知》
反応はしたが、間に合わない。
身体を回転させ、かろうじて回避。
足元の床が削れる音が響いた。
「……速すぎる」
反撃のタイミングは、存在しない。
クロウは距離を取りつつ、観察に徹する。
ゼインの動き。
攻撃パターン。
魔力の発動条件。
(……なるほど、連携型か)
短剣で直接勝負するには、明らかに力不足。
《微調整》《蓄積変換》
使えるのは、情報を蓄積する時間を稼ぐことだけ。
数度の交錯の後、ゼインは一瞬の間を置き、クロウの左側を斬る。
《微調整》で体をひねる。
刃先はかすめただけ。
痛みは残るが、致命傷は免れた。
「……巧い」
ゼインは、一歩も止まらず、攻撃を連続で繰り出す。
だが、クロウの防御は以前より正確になっていた。
勝敗は決していない。
しかし、一瞬の差が命取り。
最後の交差で、クロウは後方へ吹き飛ばされ、壁に激突。
痛みが全身を走る。
「……これが、差か」
倒れながらも、意識は鮮明だった。
ゼインは近づき、短く告げる。
「無理はするな。今は勝てん」
その言葉に苛立ちはない。
忠告でもない。
事実の観察だ。
ゼインは視線を逸らし、仲間と共に階段へ消えた。
クロウは、荒い息をつき、壁にもたれかかる。
(……負けた)
力の差。
速さの差。
魔力の差。
確かに、圧倒的だった。
だが、敗北の中で、クロウは一つ確信した。
(……使い方次第で、追いつける)
小さな勝ち筋の積み重ね。
スキルの連携。
観察と行動の正確さ。
ゼインのように力任せではなくても、
別の形で“戦える”余地はある。
深く息を吐き、クロウは短剣を握り直す。
中層迷宮。
そして、ゼイン・ヴォルグ。
この敗北は、単なる挫折ではない。
成長の起点だった。
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