第13話 組み直し


宿の部屋は、静かだった。


ベッドに腰を下ろし、

クロウは天井を見上げる。


(……埋まらない距離、か)


言葉が、胸に残っている。


怒りはない。

嫉妬も、ほとんどない。


あるのは、

事実としての差だけだ。


(なら……やることは一つ)


紙を広げ、炭筆を取る。


スキル名を書き出す。


《微調整》

《劣化耐性》

《遅延感知》

《空間把握(狭)》

《蓄積変換》


一つずつ、線で結ぶ。


(単体で考えるから、弱い)


ゼインは、

「一つのスキルを最大化」している。


自分は、違う。


(同時に使う前提で、組み直す)


まず、《遅延感知》。


攻撃前ではなく、

攻撃後の情報。


(つまり……ログだ)


敵の行動履歴。

軌道。

タイミング。


それを、《微調整》で次に反映する。


(予測じゃない。補正だ)


《空間把握(狭)》は、

索敵ではない。


(配置把握)


敵の立ち位置。

床。

壁。


戦場そのものを、

「盤面」として扱う。


《劣化耐性》は、

保険じゃない。


(時間を買うスキル)


削られながらも、

試行回数を増やすためのもの。


最後に、《蓄積変換》。


(これは……評価基準だ)


成功ではなく、

行動そのものを蓄積している。


だから、

無駄に見える撤退も、

情報収集も、

全部、残る。


クロウは、筆を止めた。


(……ゼインと、競う必要はない)


同じ土俵に立たない。


自分は――

迷宮を“攻略”する。


倒す。

踏破する。

生き残る。


それだけだ。


紙の中央に、太く書く。


――勝ち筋を作る。


力ではなく、

選択肢で。


クロウは立ち上がり、

短剣を手に取る。


《微調整》を、自分に。


感覚が、噛み合う。


(……次は、試す)


中層迷宮。

同じ場所。


だが、

同じ戦い方はしない。


最弱判定の冒険者は、

屈辱を材料に、

自分だけの戦術を組み上げた。

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