第11話 別格


中層迷宮の入口は、

最下層とは明らかに空気が違った。


広い。

天井が高く、照明用の魔石が等間隔に配置されている。

通路も整備され、初心者をふるい落とした後の世界だと一目でわかる。


(……場違い、か)


クロウは自嘲気味に息を吐いた。


だが、引き返す理由はない。

第2章で得た感覚が、背中を押していた。


――今の自分は、

「知らずに死ぬ段階」は、越えている。


ギルドの掲示板で受けた依頼は、

中層第一階層の簡易調査。


単独行動可。

だが、実際はパーティ向けだ。


「……やっぱり、いるな」


入口前には、すでに複数の冒険者が集まっていた。

装備の質が違う。

動きに、無駄がない。


その中心に、

自然と人が寄っている場所があった。


金髪。

長身。

軽装だが、武器は一級品。


男が笑いながら、仲間に指示を飛ばしている。


「前衛は俺が行く。

 後ろは気にするな。

 一体ずつ削る」


声に、迷いがない。

周囲も、それを当然のように受け入れている。


(……あれが)


名前は、聞いたことがあった。


ゼイン・ヴォルグ。

若くして中堅上位。

高レアスキル持ちの天才。


クロウが視線を向けた瞬間、

ゼインが、ふとこちらを見た。


一瞬。

視線が交わる。


だが、すぐに興味を失ったように、

ゼインは仲間へ向き直る。


「行くぞ」


パーティは、迷宮へ消えていった。


(……眼中にない、か)


当然だ。

最下位等級。

単独。


比較にすらならない。


クロウは、少し時間を置いてから、

同じ階層へ入った。


中層は、最下層とは別物だった。


魔獣の数が多い。

連携する個体もいる。


一体目で、理解した。


(……同じやり方じゃ、足りない)


《遅延感知》が、

今までより“情報量の多い遅れ”を返してくる。


敵の数。

位置。

攻撃の重なり。


《空間把握(狭)》も、

把握すべき対象が増え、負荷が大きい。


(効率が……落ちる)


短剣での一撃離脱。

《微調整》での重心崩し。


通じる。

だが、消耗が早い。


二体目を倒した時点で、

息が上がっていた。


(……深追いは、危険だ)


撤退判断が、頭をよぎる。


そのとき――

前方から、轟音が響いた。


爆発のような衝撃。

魔力の奔流。


(……ゼイン)


遠目でもわかる。

派手で、圧倒的。


数体の魔獣が、まとめて吹き飛ばされる。


(……別格だな)


自分が、勝ち筋を一つずつ積み上げている間に、

あちらは、力で道を切り開いている。


優劣は、明白だった。


クロウは、剣を収めた。


(今は……ここまで)


今日は、撤退する。


だが――

背を向ける前に、

一つだけ、確信があった。


(あの戦い方……長期じゃ、保たない)


派手。

強力。

だが、消費が激しい。


対して、自分は――

削って、残す。


クロウは、静かに階段へ向かった。


中層迷宮。

そして、ゼイン・ヴォルグ。


第3章は、

圧倒的な差から、始まる。

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