第8話 想定外の道
隠し通路は、想像以上に静かだった。
幅は狭く、天井も低い。
だが、荒削りな最下層とは違い、
壁面は滑らかで、明らかに別の時代に作られている。
(……新しい、わけじゃない)
古い。
だが、迷宮の他の部分よりも意図を感じる。
クロウは足を止め、耳を澄ました。
水音も、風の流れもない。
《遅延感知》は沈黙したまま。
危険は、まだ遠い。
(遠い……が、ないわけじゃない)
《空間把握(狭)》を使う。
通路は、緩やかに下っている。
直線ではない。
わずかに、円を描くように。
(……囲う構造?)
胸の奥が、嫌な感触を返した。
こういう構造は、
守るためか、
閉じ込めるためか、
そのどちらかだ。
進むにつれ、空気が変わる。
湿度が下がり、金属の匂いが混じる。
床に、細かな傷。
壁に、抉れた跡。
「……戦った、痕か」
最近のものではない。
だが、完全に風化もしていない。
(ここは……通路じゃない)
待機場所。
あるいは――
前室。
クロウは、足を止めた。
(奥に……いる)
《遅延感知》が、
今度は遅れながらも、
はっきりと“違和感”を返してくる。
敵意。
だが、動きはない。
(……寝てる? それとも、待ってる?)
どちらにせよ、
一体だけではない可能性が高い。
撤退、という選択肢が頭をよぎる。
だが――
(今なら、戻れる)
階段は近い。
無理をする必要はない。
クロウは、短剣を握り直した。
《微調整》を、自分に使う。
呼吸。
姿勢。
足運び。
無駄を、削る。
《劣化耐性》を意識する。
長期戦になっても、意識を保つため。
(……一歩、だけ)
決めた。
全力で踏み込まない。
覗くだけ。
危険なら、即引く。
通路の先は、半円状の広間だった。
中央に、何かがある。
石と金属が混じったような――
獣の像。
だが、像にしては、
呼吸のような微細な動きがある。
(……小型ボス、か)
最下層には、本来存在しないはずの存在。
迷宮が、
想定外の侵入者を試している。
《遅延感知》が、遅れて警鐘を鳴らす。
像の目が、僅かに光った。
(気づかれた……)
クロウは、即座に距離を取った。
戦うか。
退くか。
その判断を迫られながら、
クロウは冷静に状況を測る。
――これは、
今までの延長線ではない。
最弱判定の冒険者は、
初めて“迷宮に選ばれた”感覚を覚えながら、
次の一手を探していた。
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