第2話 生き残るための一手
剣を振るうたび、腕が痺れる。
魔獣の皮は薄いが硬く、浅い傷しか入らない。
「くそ……っ」
呼吸が乱れ、足がもつれる。
魔獣は容赦なく距離を詰め、低く唸った。
――このまま力比べを続けたら、負ける。
クロウは悟った。
身体強化が微弱な以上、正面から押し切る手段はない。
だが、不思議と恐怖は少なかった。
頭だけは、異様なほど冷えている。
(動きが速い。でも……毎回同じだ)
踏み込み。
右の爪。
半拍遅れて、左。
一度目は偶然。
二度目で確信に変わる。
(《遅延感知》……か)
攻撃が来る“前”ではない。
来た“あと”に、感覚が残る。
だがそれでいい。
繰り返される動きなら、予測は可能だ。
魔獣が跳んだ。
クロウは一歩、斜めに退く。
――重心が、ずれた。
《微調整》。
ほんのわずか。
床に踏み込む角度を、狂わせる。
魔獣の体が泳いだ瞬間、剣を突き出した。
「っ、今だ!」
刃先が脇腹を裂く。
浅いが、確かな手応え。
魔獣は距離を取り、荒い息を吐いた。
血が、ぽたぽたと床に落ちる。
(効いてる……少しずつ、だが)
クロウの脚も震えていた。
体力は限界に近い。
それでも、倒れる気はしなかった。
《劣化耐性》が、地味に効いている。
疲労が完全には抜けないが、意識ははっきりしている。
(長引かせれば……勝てる)
魔獣は再び突進してきた。
今度は、動きが僅かに鈍い。
血。
痛み。
焦り。
クロウは壁を背にした。
逃げ場を消す。
「来い……!」
跳躍。
爪。
《微調整》を、連続で使う。
一つは重心。
もう一つは、踏み切りの高さ。
魔獣の身体が、想定より低く飛んだ。
剣を振り上げる。
「――終わりだ!」
刃が首元に食い込み、魔獣は床に転がった。
痙攣し、やがて動かなくなる。
静寂。
しばらく、クロウはその場に立ち尽くしていた。
剣を握る手が、震えて止まらない。
「……勝った、のか」
膝が抜け、床に座り込む。
生きている。
それだけで、胸がいっぱいになった。
視界の端で、淡い光が瞬いた。
《蓄積変換》発動
――微量の内部リソースを獲得。
数値は見えない。
だが、何かが確かに溜まった感覚がある。
「……ダメスキル、ね」
苦笑が漏れる。
派手な力はない。
一発逆転もできない。
それでも――
「生き残るには、十分だ」
立ち上がり、周囲を見渡す。
魔獣の巣穴の奥、壁に不自然な隙間があった。
空気が、僅かに流れている。
(……通路?)
《空間把握(狭)》を使うと、壁の向こうに空洞があるとわかった。
「まだ……先があるな」
クロウは剣を握り直し、闇の奥へ進む。
最弱判定の冒険者は、
確かに一歩目を踏み切った。
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