Case.12【ツマミのツマミになる話】
「
とある銀河に浮かぶ惑星『シガームーン』そこは酒と煙草を愛する惑星人達の住まう場所。常に酒と煙草の香りが漂い、惑星の周りを覆うガス帯も実は煙草の煙なのではとさえ噂されるほどだ。
そしてシガームーンでは高品質で美味な酒と煙草が作られる環境が整っていたから、他惑星からもそれらを楽しむ為に態々星間旅行をする者もいるらしい。
そんなシガームーンであるひとつの議題が上がっていた。
それは【究極の酒のツマミとはなにか】だ。何故そんなことをって、ほら。それは彼らが酒と煙草をこよなく愛し、真剣だったから。例えば我が子のように。
愛する子供と結ばれる相手を真剣に選ぶ……と考えればまぁおかしなことではないだろう。
そんなわけで住民達はそれぞれがそれぞれ何が一番かを言い合った。「やはりナンキョクセイで捕れたナンキョクマグロの燻製だろうな」「いやいや、上手い酒には美味い煙草の煙が一番染みる」「馬鹿を言え。上品な音楽に決まっている。俺はそれで一日呑んでいた」「そんなもので膨れるものか、気取り屋め。酒と沢山の飯だろうが」「それこそ酒の味が掻き消えるだろう」
まぁ正に喧々諤々といった感じで、最初は『意見』の範疇だったものが、次第に『罵声』とか『罵り合い』とかになりつつあった時、ふと誰かが「これを食ってから決めてみろ」と言った。
そいつの持っていた何か。一体どこの星から持ってきたものかは分からないものの恐らくは海産物の燻製だろうという事は分かった。
しかしそれがどこの何かは知らないが、結局は燻製なんてありふれたものにこの場に躍り出る程の価値があるとは思われず一度は「引っ込んでろ」なんて声が掛けられた。
掛けられたが、そいつがあまりにも美味そうにその燻製をクッチャクッチャとしているものだから、やはり何人かは気になった。気になったからにはやはり食べずにはいられない。
するとどうだ。さっきまでそいつらの「美しい女」だの「ミルキーウェイで採れたチーズ」だのの主張は綺麗さっぱり消え果てて、この『よく分からない燻製』が一番だということになった。
それを聞いて興味を惹かれたやつが、燻製を食べて、それを見たやつが更に試して……結局その場にいた全員が『よく分からん謎の燻製』を美味しそうに食っていた。
しかし不思議なことがいくつもある。
ひとつは出所が不明なのだ。最初にこれを持ってきた男も『話をしているうちに気づいたら持っていた』とか言うし、燻製も他の奴に分ける為に千切ったら、千切った部分が『ニョキッ』と生えてくるわ、千切ったほうも元の燻製と同じ姿にまで『ニュッ』と伸びるわ。そして挙句は噛んでも噛んでもなくならない。
それは燻製そのものだけでなく、燻製の『よく分からないけど口内で舞い踊る極上の旨み』のことでもあった。噛めば噛む程また違った『美味み/うまみ』やら『甘み/うまみ』が押し寄せてくる。
そんなものだから、気づけば不思議も議題もさっぱり忘れて燻製をしゃぶるのに皆が夢中になっていた。そんで、千切っても再生しちまうからって、その場に居なかった奴らの手にも渡り、結果星中にこの『よく分からないけど余りにも美味すぎる燻製』が広がるのは"煙草の火を見るより明らか"だったってわけで。
でだ。始めに『シガームーンは酒と煙草の星』だっていう話だったが。それが気づけば『正体不明の超極上燻製』の星になっていたのさ。酒や煙草を口にする暇も惜しんで燻製を四六時中クチャクチャして、涎を口の端から垂らすことすら気にしないで。で、誰もろくに働かなくなった。当然だ、働かなくなって目の前に『何故かは分からないが無限に味のする幸福を呼ぶ燻製』があるんだから。
で、そんな住民が住むシガームーンはどうなった?ある日突然爆散したのさ。煙草じゃなくて爆弾の導火線に火をつけてしまったみたいに。
だから噂ではシガームーンに突如現れた謎の燻製は、燻製の形をしたヤバい代物だったんじゃないかって。
どうだい。俺の話でちょっとは酒のツマミ代わりになったかい?
なに?星が滅ぶほどの美味であるなら、ヤバい代物でも一度食べてみたい?
あぁ、ならここに丁度良いものが──」
[記録終了]
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