Case.11【アイロン星置き去り事件】

 『惑星探査』それは未知なる星の開拓の第一歩。有用鉱物等の有無や地質調査による将来の緑化に向けての植え付け適正の可否、生命体の存在の有無……実に大掛かりかつ重要なプロジェクトだ。

 今回その調査対象に選ばれたのは【惑星アイロン】なんでアイロンかって……第一発見者が仕立て屋だったからそんな名を付けただかなんだか。

 ともかく、そのアイロンは比較的小さなその惑星は我らが星からワープ航行一、二回分くらいで辿り着く宇宙規模で考えれば比較的近場にあった。

 早速10人のメンバーが選出され送り出され……無事にアイロン星に着陸、土を踏むことに成功した。

 しかし到着したからといってそれでエンディングを迎えられるわけじゃない。ここから拠点の設営や地質調査用の機材の設置、帰還用シャトルの整備点検等がタイトに待っている。

別にそれらのスケジュールは決して不可能が詰まっているわけではなくて、はじめから打ち合わせ済みの実行可能なものではある。あるのだが、だからといって忙しくないわけではないし、イレギュラーが起これば更に首を絞めることになるだろう。

 だから今こうしてジェネレーターの配線を――ワープなんて大層な技術がありながら一向にゴツいままの宇宙服を着て――繋げながら嘆いているのだ。視界も狭いし、手元も悪い。それにアイロン星の高重力化が合わさり遅々として作業が進まない。母星での訓練ではなんてことはなかったのだが、やはり現場でとなると勝手が違う。

誰かに手伝ってもらいたいところだが、皆もそれぞれのミッションをこなしている最中でそれどころじゃないだろう。

 ため息を吐きつつ、もう一度目の前の仕事に集中しよう――そう思った時だった。


『手伝いましょうか?』


 不意に声をかけられ、そちらのほうを見ると同じ宇宙服姿の奴が目の前に立っていた。顔はヘルメットに宇宙光が反射してよく見えなかったが、まぁ同じ探査仲間の誰かであるのは間違いない。


「手伝ってくれるのは大助かりだが、アンタの持ち場はいいのか?」


『ええ、こっちは既に終わりましたから』


 探査ミッションは、自分で言うのもなんだが、当然優秀な奴が選ばれる。それでも手のかかる仕事ばかりなのだが、それを簡単にこしてしまうとはよっぽと優秀な奴が居たもんだなと感心してしまう。


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。本当、そろそろ宇宙猫の手を借りるか悩んでたんだ」


『お任せください』


 目の前のそいつはそういうとテキパキと作業を進めていった。まるで宇宙服なんて着てないみたいに鮮やかに線を繋いでいく。

結局そいつのお陰で、予定よりも早く今日の仕事を終わらせることが出来た。そんでそいつもあっさり『では私はこれで』なんて言って何処かに行ってしまって、うっかり名前を聞き忘れてしまった。

 だが手伝ってもらった手前、キチンと感謝を伝えないとってわけで、皆が集まっていた食堂でそのことを聞いてみたのだが――皆、キョトンとした顔をしていた。

どうにもそれぞれのタスクを進めることに夢中で、俺のことは手伝っていないらしい。しかし、実際目の前で手伝ってもらったわけだし、もしかしたら"誰か"は皆の前で褒め称えられるのが気恥ずかしいからと遠慮してるのかもしれない。

そう、思うことにしたのだが――。

 なんとその後にも別のやつが誰かに助けてもらっただのという話が出てきた。だけどやっぱりそいつは気づけば居なくなっていて誰だか分からないらしい。不思議なこともあるものだが、"正体不明のヒーロー"のお陰でミッションは順調に進んでいった。

 

 そして最終日。つまりこのアイロン星から母星へと帰る日だ。荷物やサンプルを帰還用ジェットに押し込め、自分達も乗り込む。なんだかんだ最後だと思うと名残惜しくもあるが、この星に来ることは余程我々の環境改善技術が進まぬ限りはないだろう。

というのも、母星よりもキツイ重力の時点で移住には向かない上に、地質も植物の植え付けには致命的に向かないことが分かったのだ。とどめとばかりに無駄に広い大地には砂粒ばかりで貴重な鉱石の『こ』の字もないと来た。

 大変な時間と予算をかけての結果がこれなので肩透かしにも程があるが、まぁ調査とは往々にしてそういうものだ。

 ジェット噴射のカウントが始まる。10、9、8、7、6、5、――。

 いつやってもこの瞬間は慣れない。

少し胃が縮むような気がする。

4、3、2、――――。

 さらばアイロン、サヨナラだ。

そんな気持ちを込めて窓の外を覗き込んだ時、何かが動いているのが目に飛び込んできた。


「お、おい!?外に誰か居るぞ!?」


「なんだと、すぐに離陸を止めろ!!」


「バカを言え!もうシーケンス通り進んじまってる、今さら止められん!!」


 無情にも轟炎を吐きながら打ち上がる帰還用ジェット。窓に張り付くと眼下には宇宙服を来た人影が2、3人こちらに向かって必死に手を振っていた。

なんてこった、まさか乗り込んでないやつがいるなんて……一瞬船内が宇宙空間の中で燃料が切れたくらいの雰囲気に包まれたのだが――「おい待て……2、4、6……全員居るぞ?」

 確かに皆が皆、それぞれを数えてみたがきっかり10人。間違いなくいる。

じゃあ、もうすっかり豆粒よりも遠く小さくなっちまったあの宇宙服達は一体誰なんだ……?



[記録終了]

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