Case.5+1【死は救済〜節制と星〜】

 永遠の檻に閉じ込められた惑星腫瘍。

 当初、種の拡散のために利用しようとしていたハングドマン達は自らが与えた甘美な死に酔い痴れて消えていった。後には永遠があるだけの虚無が残り、形も変えれず、離脱も出来ず、たまに訪れる異星人も見るからに危険な形態をとっていた為に、惑星腫瘍を星の外に持ち出そうともしなかった。

 

 しかしだ。ハングドマン達が産まれるだけの環境があったということは、当然次の生命体が産まれる可能性はほんの僅かな可能性であっても存在し続けた。

何故ならこの星が不変であるのだから。

 そして実際に新たな種族が産まれることとなる。その知性体はかつてこの星に実在したであろう存在の痕跡から、彼らの苦悩と事の顛末を知る。

 新たな種は先達の後を追わぬよう生と死のサイクルを循環させようと考えた。そして、ただ苦痛からの解放だけを目指し死滅したハングドマン達から学び、調和とバランスと管理を掲げ自ら《テンペランス》と名乗るようになった。


 テンペランス達はハングドマン達が遺した記録等から、不死である彼らに死を与えた謎の有毒物体/惑星腫瘍について知る。それを究極の死として適切に利用することで生命と死の正しき循環を作り出すことに決めた。

 彼らは一定の年月を生き、成した子がもう十分過ぎるほどに大きくなって独り立ちした時、儀式的に惑星腫瘍を使い、新たな命になるべく旅立っていく。そう、惑星腫瘍という他の惑星では最悪の存在だと忌み恐れられていたそれが、タワーではまるで旅人の道行きを照らす星であった。いつしかテンペランス達は無もなき装置に《スター》という名をつけ、ある種の畏敬というか神聖視するようになっていった。


 "スター"となった惑星腫瘍は、テンペランス達が産まれた後も永い間そこに在り続け、ハングドマン達にそうしたようにテンペランス達にも安寧たる死を与え続けた。

 そうして彼らの生き死にや敬意、畏怖といった意志に触れ続けていくうちに変化していく。それは不変であり続ける生きているのに死の星とも言えるタワーにおいて、テンペランス達の誕生と同じくらいの大きな変化であった。

変えられぬ自らの状況を諦め、テンペランス達の『スター』で在り続けることを受け入れたのだ。

 スターとして利用され、崇められる内に、一部のテンペランス達はスターを神格化して自分に似た姿のスターを想像・創造するようになった。

それに呼応するように、惑星腫瘍の本能的かで姿形を変え彼らの望む神の姿となったスターは、それでも変わらず彼らに惜しみない死を与える。

 そんな年月が何万、何億か続くうちにスターは『自分が惑星腫瘍である』ということすら忘れてしまう。おかしな話だ。ハングドマン達が居なくなってからはどれだけ性質を変化させようとしても変わることが出来なかったのに、テンペランス達に望まれた結果、災厄が神の形に変わるなんて。


 スターはテンペランス達と共にあり続けた。諍いが起ころうともスターがいるのならば死を与えることで収められる。

もし、スターがただの物体であれば独占や占拠という手段もあったが、意思を持つテンペランス達と似た姿の"絶対"をテンペランス達は敬意と誠意以外で制御が出来ない。今日もスターは望まれるままテンペランス達に死を与え、それを見守るだろう。まるで夜空に輝く星のように。


……もしそんな中でスターへの神聖視が高まり過ぎて『奇跡も災いも起こす天災に近い神』へと昇華してしまった場合はどうなるだろうか?

もしスターが『他の星も見てみたい』とタワーを離れ、他の変化を受けたらどうなるだろう?

もしスターの元に別の惑星腫瘍が降ってきたらどうなるだろう?

 果たして星は、タワーのように永遠に輝いていられるのだろうか?

その結末は、まだ誰も知らない。



[記録終了]

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