Case.6【恐るべき宇宙海賊】
とある特異な惑星があった。その星は"キングホエール"と呼ばれ、呼び名の通り比較的巨大な星であった。が、特異なのは決して大きさのことではない。
その惑星は一般的な丸型の星ではなく流線型のような姿をしていた。そして特異なのはそれだけにとどまらない。
普通なら惑星は他の星の重力を受けて一定の円を描く『周回軌道』に乗って動く。だが、キングホエールはその周回軌道に従わず、まるで彗星か何かのように星々の間を飛び、時には銀河すらも飛び越える。その時に発する異常重力変動や高周波とさえ言える共鳴音は正にクジラの鯨歌と例えられた。
そんな特殊極まるキングホエールに住む住民もやはり一癖も二癖もある『バイキンガー』と名乗る種族だ。彼らはキングホエールの赴くままに環境の変化を受け入れるだけの圧倒的耐久性を持っていた。そして、キングホエールの特性『星間航行を自律的に行う星』であることも十二分に活かした。
その方法とはキングホエールの移動線上近くにある星を認めると、宇宙船団にて強襲しその星の食料・物資・人・文化を奪い去ること。そう、正に宇宙海賊と言える行いだ。
その為に、キングホエールの中は非常に混沌とした人種、文化にまみれ最早そういう展覧会か何かといった様相だった。
結局のところ、キングホエールの移動に伴う急激な重力変化やバイキンガー達の海賊行為により、他の星達からは忌み嫌われ、高度な科学技術を持った星では"キングホエール避け"の周波数を出す装置まで作られる有様で、他所からすれば正に災害に近い扱いを受けていた。
そんなキングホエールが──圧倒的熱量と質量を持つ暗黒に揺らめく星、《原初の海炎》を主星とした銀河――《死海》へと泳ぎ着いた時、既にバイキンガー達は新たな獲物を前に舌なめずりをしていた。
比較的穏やかなそうな気候の星だったそれは、彼らの経験則からいってそこまで武力の備えはないだろうと予測していたが、その通りに碌な抵抗もないまま彼らの宝を奪い去ることに成功する。
奴隷としてこき使う為に連れ去った犠牲者のひとり曰く、宝はどんな望む音楽をも奏でる魔法の蓄音機のようなものだった。
その宝は即物的な物をこよなく愛するバイキンガー達にとっては然程興味が湧くような代物ではなかったが、しかしそれが"誰か"の宝であったという事実だけで盗むだけの価値がある。
それから暫くはキングホエール中に聞こえるくらいに暴力的なサウンドをかき鳴らしてどんちゃん騒ぎ。
そして運命の日。バイキンガー達の頭がふと『どうせ垂れ流すなら美味い酒が鱈腹味わえるくらい出りゃいいのにな』と呟いた刹那、それまで彼らの耳を埋め尽くしていたサウンドがピタリと止み、急に酒が溢れだした。しかもその酒は今まで味わってきたどんな略奪酒よりも美味いと来た。瞬く間にキングホエール中にこの酒が振る舞われバイキンガー達の喉を潤した。
その頃に一度、キングホエールのエンジンたる星核を監視しているエンジニアから連絡があった。
「ボス、なんだか動力部がおかしいですぜ」
ただそんな忠告に耳を傾ける暇はない、酒を飲むのに忙しいからだ。
「あぁ?動いてんだから問題はねぇよ」
それから彼らは略奪行為すら忘れて酒に溺れる日々であったが、鋭い者は気づいていた。奪ったお宝、なんでも好きな音楽を奏でる蓄音機、今は美味い酒を好きなだけ出してくれる魔法の酒樽とでもいうべしそれの正体はそんなものではない。そう、あれこそが自分達の願いをなんでも叶える『願望器』であると。
酒に酔った振りをして、酒に飲まれた頭に近づくと願望器を奪い取り■■、自身の望むものへ変えていく。
元々バイキンガー達は略奪と暴力を好み、小さな小競り合いや喧嘩は日常茶飯ではあったであったが、その大半は略奪対象に向けられることがほとんどで、ある意味では治安がいいともとれる。
しかし突如降って湧いた願望器によりそのなけなしの秩序はあっという間に崩壊、裏切りと略奪がキングホエール中に蔓延。もはやバイキンガー達は他星へ狩りに向かうことをしなくなった。
それと同時期、キングホエール自体にも異変が生じていた。キングホエールは今まで意思を持つように星間航行・銀河間航行を続けていたが、不思議なことにその中で一度も他の惑星に衝突するようなことはなかった。
しかし今、そんなキングホエールの航行予想線上に障害となる星、しかもよりによってこの銀河最大の星、《原初の海炎》が存在していたのだ。
当初、バイキンガー達はいつものようなキングホエールの気まぐれですぐに軌道を修正するだろうと高を括っていたが、そのうち環境変化に強いバイキンガー達ですらまともに空を仰げないほどに原初の海炎に近づいた時、ようやく気づいた。
これはもう避けられないと。
「おい、エンジニアは何をしてる!?キングホエールになにがあった!?」
「………………」
返事はもう返ってこない。
彼らは原初の海炎からの超大な放射熱により陽炎のように焼かれ、影すら残らなかった。
そしてキングホエールもまた、溶けるようにひとつになるように原初の海炎へと呑み込まれていく。
キングホエールは自らよりも遥かに超大質量の炎の"海"に抱かれ、最期には爆発などない静かな終焉の余韻が残るだけであった。
[記録終了]
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