Case.3【天の銀】

 星の殆どを水に覆われた『ナンキョクセイ』

そこには複数の鳥人族が住んでいた。その代表的な種族のひとつとして『テンギン族』という、地球でいうところの『ペンギン』とよく似た姿をした種族がいた。彼らは高潔で誇り高い種族であったが、唯一コンプレックスと呼べるものがあった。

それは空への憧れ。他の鳥人族が自由に空を飛び、島と島の行き来をしているなか、彼らは水を泳いでそれを行わなければならない。他の鳥人族からすれば星の殆どを占める"水"に適応出来ている種族なのだから寧ろ羨ましがられていることも知らず、空を飛ぶための機械もよく作り出していたが、陰では『嘘滑稽(ウコッケイ)』等と囁かれていたりもした。

 そんなある日、彼らに"奇跡"が舞い降りる。空から銀色に光る小魚のブローチのようなものが降ってきたのだ。

 聡明であった彼らはまず、彼らの中でも特に優秀な『天銀』と呼ばれる7羽の天銀族がそのブローチを調べることにした。ちなみに『天銀』とはテンギン族に伝わる神話でかつてその翼で大空を舞い、テンギン族の危機を救った勇者達の部隊名であり、まさにエリート中のエリートにしか与えられない栄誉であった。

 彼はブローチを翼に持つと、なんの確証もないのに『空を飛べる』確信が湧き上がり、実際に羽ばたいてみると本当に空へと舞い上がり自由自在に軌道を変えて飛ぶことが出来た。むしろ他の鳥人族よりもよほど速く、そして自由に空を駆けていた。これにはまことしやかに伝えられていた神話も本当にあったことなのだと他のテンギン族は沸き立ち、天銀達もテンギン族の未来が更に開かれたのだと歓喜しようとした。しかし、そうはしなかった。

 何故か?あまりにも唐突で都合が良すぎたからだ。大抵そういったものには何かしら裏があると、天銀達は見抜いていた。

しかし他のテンギン族達は空への憧れに目が眩み、自らもブローチを欲しがった。だが、天銀達はそれを許さない。


 状況が変わった。

 天銀達はテンギン族の中のエリート中のエリートで、天銀の、神話の勇者の再来だと持て囃されたのに、今ではテンギン族から翼を、空を奪い合い独占しようとする裏切り者だと糾弾・非難・罵倒をされた。そうなれば後は強奪者からたからを奪い返すのみ。多くのテンギン族が昼も夜も天銀達を追いかけ、水の底はもちろん、空へ逃げてもマシンを使って追いかけてくる。

更にそこにテンギン族をよく思っていない他種族が介入してより混乱が生じる。

 英雄から一転、お尋ね者となり、昼夜問わず気の休まらない日々に疲弊し、このブローチを渡してして楽になろうと一部の天銀達も憔悴し始めていたが、最後まで隊長天銀はそれをよしとしなかった。


 そうして⋯⋯ならばどうすればこのブローチをテンギン達の翼から遠ざけることが出来るのかと悩んだ末に、絶対に彼らでは翼が届かない場所まで運んでしまおうと決意した。


 そこは空よりも遥か先にある場所――宇宙ソラ。空を昇るほどに寒さに強いテンギン族ですら引き裂かれるほどの極寒に耐え、息苦しさに耐え、かつては親愛や敬意を持って接してくれたかつての仲間から後ろ翼を指された哀しみに耐え、これからの自分達の最期を予期しつつもこれに耐えて、大気圏を引き裂き空へと届いた。天銀達は忌まわしきブローチ毎炎に包まれ、燃えて星座となった。

 

 今でもナンキョクセイからよく見えるその星座は、テンギン族からは屈辱や裏切りの象徴として触れないようにタブーとされているが──天銀座は変わらず地上と水中のテンギン族達を温かく見守っている。



[記録終了]

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