Case.1【刺激飢餓の星】
――とある宇宙にとある星があった。その星は資源も食料も知恵も共感も和解もあった。ただし『刺激』だけが足りない安定していた星であった。
いつもと変わらぬつまらない安寧に住民達が欠伸で涙を流している時に"それ"は現れた。
美しい銀色の長髪に誰もが見惚れる美貌、職人が仕上げた芸術品かと見まごうほどの魅惑的な肢体。そんな彼女は自分のことを『メアリー』と名乗った。
そしてこの星に『惑星腫瘍』という危機が迫っていると。
始めこそ住民達は彼女の容姿に惹かれつつも、そんな突拍子もない与太話を信じなかった。何故ならその星は科学技術においても安定した高さを持っており、もしも自分達の星に異常があれば既に発見出来ているはずだと思っていたからだ。
だが、彼女の科学知識は彼らの百年は先を行くものだった。話を聞いたり、実際に装置を作り上げてデータとして見せられるうち、元々高い知能を有していた彼らにも彼女の話がただの空想ではないと理解出来てしまった。
メアリーはどうにもこの『惑星腫瘍』を追って宇宙を旅しており、この惑星にもそれを見つけ、【治療】するために降り立ったと言う。
住民達は文字通り、突然降って湧いた出来事に困惑しつつも自らも知らぬ間に謎の高揚感を抱いていた。
未知の天体レベル病気、それを追う美しいだけでなく知識までも優れた謎の美女。まさに退屈を殺すスパイスだったのだ。
それからはメアリーを旗頭に惑星腫瘍の調査、治療が始まった。メアリーが作った装置で星中に散らばる芽を焼却し、切除し、枯らしていく。住民達も張り切ってメアリーを手伝った。そんな住民達にメアリーもよく微笑み感謝した。もはやメアリーと住民達は切っても切れぬ間となっていった。
そんなある日のこと、メアリーは――"死"んだ。
事の顛末はこう。
惑星腫瘍を発見するレーダーを改良するメアリー。早速テストをしたところ、非常に強い反応が出た。彼女が拠点としている基地周辺に一際大きな腫瘍が隠れているのかとメアリーは驚きつつも探索を始める。しかし何処を探っても反応が一律変わりない。改良が失敗して装置に不具合が起きたのかとも思ったが――ふとメアリーは彼女自身に装置を向けてみた。すると――『ビーーー!!!』けたたましく警告音が鳴り響いく。
そう、惑星腫瘍を根絶するために星を渡り歩いていたはずのメアリー自身が惑星腫瘍の一部だったのだ。
メアリー自身も知らぬ事実に普段は聡明で凛とした表情を崩さない彼女も大いに狼狽した。しかし、すぐに冷静になると、彼女は自らに惑星腫瘍切除用のレーザー機器を押し当てると――スイッチを入れた。
もしも自分が本当に惑星腫瘍であれば、いくらほかの小さな種を、芽を潰したところで無意味だ。なら、この星の、この星の住民達にしてあげられることは自ら存在を消すことだけ。なんの躊躇いもなく――。
住民達はメアリーが姿を現さないことに不安を感じ、彼女の基地を訪れ⋯⋯そこで真っ黒に炭化した彼女の、いや彼女だったものを見つける。メアリーの訃報は星中に瞬く間に広がっていく。
そして彼女が惑星腫瘍切除ツールによって自害したことも大いに混乱を呼んだ。優秀なメアリーは当然安全装置として惑星腫瘍でない対象には装置が働かないようにストッパーを掛けていた。にも関わらず何故彼女は死んだ?
ある者は『惑星腫瘍から星を救うと宣った彼女自身が実は惑星腫瘍だった』と絶望し、ある者は『装置の安全テスト中に不幸な事故が起こったんだ』と思いこもうとした。
しかしそれ以上に、ただ単純にメアリーの死というものが住民達に暗い陰を落とした。
平和過ぎる星に訪れた突然の危機とそれを救う救世主。それがただのマッチポンプの茶番劇だった。一部の者にとってはメアリーは最早神格化された存在にもなりつつあった。彼女と、惑星腫瘍という病気の根絶は住民達から『スパイス』を取り上げた。
もう、住民達は安寧なんて貪れない。平和を維持するために頑張ることなんて出来やしない。彼女の遺した惑星腫瘍捜索ツールも聖遺物のように扱われ、惑星腫瘍の発見を知らせるアラームも神の託宣の様に受け取られ目を濁らせていく。或いは敬愛し、崇拝するメアリーの後を追うようにこの世から去る者も。
そうしてかつては高い科学技術と平和を尊ぶ思慮深い住民達が、ただの音を発する、または音も出さない"物"と化した後に星も限界を迎え、ある日当然のように崩壊した。そうして惑星腫瘍はまた別の星へと散っていく。
自分が惑星腫瘍だと気づき、星と住民達を想って自ら命を絶ったつもりだったメアリーの行動ですら、惑星腫瘍の星侵略作戦のための一環でしかなかったのだ。
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