第2話

 ――クール系清楚病弱美少年、それが僕の目指すべき属性だ。

 

 ……いや、そもそもクール系清楚病弱美少年ってなんだよ、意味分かんねえよって人。

 まず僕の話を聞いて欲しい。


 なんで僕がそんなのを目指そうと思ったのか。それは例の美少年ゲームの影響だ。

 

 あれには色んな登場人物がいた。

 例えば爽やかで一途な優等生だったり、いつもからかってくる王子系先輩キャラだったり、ちょっと色物なやつで言えば、中盤で主人公を監禁してくるヤンデレ後輩くんとか。

 

 そんな多種多様なキャラクターがいる中、ぶっちぎりで人気であったのが――いわゆるクール系の美少年だった。

 いつも口数が少なく、儚さを醸し出すミステリアスな少年。彼に魅了される女性は多く、人気投票ではぶっちぎりで彼が一位だった。なんなら僕もちょっと堕ちた。

 

 ちなみに最下位はポンコツショタ系幼馴染だ。需要はありそうなんだけどね。

 

 そしてただ人気だからというのが理由だけではない。クール系美少年という属性に清楚と病弱設定を突っ込むことで……この僕であっても、理想の学園生活を送ることが出来るのだ。


 まず、クール。

 これをつけることでコミュ症がバレなくなる。ミステリアスで、あえて多くを語らない奴であれば、まとも喋れないやつだということもバレっこない。

 何か都合の悪いことが起こったら「……そう、これが僕の運命なんだね」とかそんな感じのことを呟けば許されるのだ。実際あのゲームでも、告白する度にわけわかんないこと言われて逃げられてたし。

 

 次に、清楚。

 これは当然だろう。裏垢に裸体を晒すような変態と思われては困る、そんな奴と友達になるようなやつはこの世を探してもきっと一人くらいしかいないだろう。

 ……いやまあ、ヘンな下心で寄ってくる奴はいるかもだけど。でも、そういうのは裏垢の三万人で間に合っている。

 

 そして病弱設定。

 これをつけることで学校で全然馴染めなくてどうしようもなくなったときに、病気を理由に逃げ出すことができる。

 これが学園ラブコメなら打ち切りエンドで非難殺到だろうが。僕には関係ないのだ。


 ……それと、最初の方は保健室登校になるからね。不登校で、と言うよりも、病弱で、と言ったら方が浮きにくいはずだ。

  

 あとは……美少年くん?

 

 ……まあまあ。男が少ない環境ともなれば、どんなモブ顔フェイスでもほどほどには見えるだろう。ああいうのは比較対象があるから目立つのだ。

 実際、例のゲームをやってるときも、全員顔が良いから美少年設定ほぼ死んでたし。


 ……さて、今までの話を聞いて分かってもらえたと思う。こんな社会不適合者の僕が、この世界で生きる唯一の方法、それがクール系清楚病弱美少年なのだ!



「――ということさ、お姉ちゃん。この計画をどう思う?」

「……あ、えと。何の話してたの? ゲームの話?」


 そして現在、目の前にいるのは僕の実姉、日浦琴音。現在は大学生……のはずだけど最近はいつも家に居るのでよく分からない。

 まともに授業に出てないってのは前に聞いたことがあるけど……。

 

 ……まったく、こんなことで血の繋がりを実感したくなかった。

 

 まあとにかく、そんな話を長々と姉に聞かせてみた結果、返ってきた答えは困惑だった。

 

 いやまあ、理解されるとは思ってなかったけど、それでも一応誰かに話してみたかったのだ。

 玲衣に話そうとも思ったが、「何言ってるの?」みたいな反応されたら、普通に悲しいのでやめた。

 

「……もういいよ。まぁとにかく明日から学校行くから。

 それでお姉ちゃんどうせ暇でしょ? 明日の朝、車出してくれない?」

「――はぁ!?」


 正直言うと本題はこっちだ。学校に行くことを伝えるついでに姉に送迎のお願いをする。

 ……正直、今の僕はまともに学校に通えるほどの体力がない。だって、ずっと引きこもってたんだから。

 

 だから、頼んだんだけど……なんか反応が大げさだな。

 

「お姉ちゃん、近所迷惑」


 耳に響いた絶叫に眉をひそめながら、ぼそりと呟く。

 すると、慌てたように口を押さえつけた姉は、そのまま数回深呼吸をした後にゆっくりと言葉を吐き出した。


「な、渚。学校行くの?」

「うん。

 ほら、弟が真人間になったんだから、もっと喜ばないと」


 そう言ってみたけど、姉の反応は微妙だ。

 ……いや、信じられないのは分かるけど、何もそこまで――

 そう思った瞬間だった。


「やだやだやだ! あんなメス犬どもの巣窟に渚を連れ込むなんてぜったいむりぃ!」


 唐突に姉の腕が僕の身体を強く揺さぶった。


 揺れる視界と割れそうな鼓膜。耳元で叫ぶ姉の姿は前の世界ではまったく考えられないもので、だんだんと頭が痛くなってくる。


「ずっとお姉ちゃんと一緒にいようよぉ、ね、ちゃんと養ってあげるから、ね、いいでしょ?」

 

「ひゃっ、ちょ、離してっ!

 ……おいどこ触ってんだクソ姉貴っ!」

 

 僕は腰回りに当てられた手を思いっきり跳ねのける。すると、今度は一人で喚きだした姉を横目に思考を巡らせる。


 ――だるすぎる!

 なんでこんなうざくなってんだこの姉はっ!


 前はこんなのじゃなかったのに。

 僕が引きこもってからも、ときどき話に来るくらいで、こんな過干渉をしてくる姉じゃなかった。


 でも、学校に行くためには姉の協力が必要なのは事実だ。……さすがに仕事で忙しい母親に頼むのは忍びないし。



 仕方ないか、と。僕は姉の元に歩み寄る。

 こういうとき、どうすればいいのか、


 ――この世界で、誰かに言うことを聞かしたいとき、どうすればいいのか。


 僕は知っていた。


 座り込んだ姉の前に立って、そのまま中腰になる。そして、床に向かってだらんと垂れた彼女の腕を掴んで、


 ――思いっきり、自分の胸元に押し付けた。


「……はえ?」


 瞬間、まるで空気に溶け切ったような柔らかい声が響いた。


「――な、な、なにやってんの!? え、いま、はっ!?」

「はい、これで良いでしょ」

「――なにがっ!?」


 説得とか、そういうのはもうめんどくさい。こういうことで解決できるならそれで良いだろう。


 ……それにしても最近、こういうのに抵抗なくなってきた気がするな。ネットに染まりすぎたか。


 まぁ、でも。これでようやく――


「絶対やっちゃダメだからね!? 今みたいなやつ!」


 あれ、意外と怒ってきてる。

 そこまで頭がピンクに染まってなかったのか?


 目がぐるぐると回っている姉を横目にそんなことを考えていると、もうなんか面倒くさいという気持ちが強くなってくる。

 

「はぁ」とため息ついた僕は、これを最後にと思って、言葉を吐く。


「――で、結局送ってくれるの? ダメだったら行き倒れること覚悟で歩いて行くけど」

「――うぅ、……しかたないか、ほっておけないし」


「……わかったよぉ、送ってくから」


 こうしてどうにか問題を解決した僕は、顔を真っ赤にしてうずくまってる姉をほっといて、自分の部屋に戻るのだった。

 


 

 着慣れない制服は少し大きく感じる。


 車に揺られる身体の感覚に懐かしさを覚えながら、そんなことを考える。数か月ぶりの外出だからだろうか、心臓はドクドクと鳴り響いている。


 そんな緊張を和らげるため、いつものようにスマホをいじる。

 すると、ピコンという通知音と一緒に玲衣の投稿が流れてきた。


『うー、学校だるい、今日体育だし』


 彼女にしては珍しく、学校のことを呟いている。よっぽど、やる気がでないのだろうか。


 誰かのつぶやきに返信とかはあまりしないようにしている。一度、それが原因で執着されたことがあるからだ。


 でも、今日くらいはいいかと、文字を打ち込む。


『ぼくも行ってくる。お互いがんばろ』


『日陰くんっ!??? うんうんうん!

めちゃくちゃやる気でてきた、日陰くんまじで天使すぎる』


……なんか返信早くない? まだ10秒も経ってないんだけど。


 彼女の返信に苦笑いしながら、そのままスマホを触っていると、いつのまにか身体の揺れはなくなっていた。


 どうやら、学校に着いたらしい。


「うぅ、わかってる? ぜったい変な女の子と話したりしたらダメだよ?」

「じゃあお姉ちゃんとももう話せないね」

「ひどくない!?」


 軽口を叩きながら、車を降りる。姉は相変わらず不安げな顔をしていて、そんな姿を見ていると、少し心が緩むのを感じた。


 ちらりと校門から中を覗いてみると、運動場の方には体操着姿の少女たちが見える。


 その中、男子生徒らしき存在はない。

 ……世界が変わっている。外に出るとそんなとんでも事実が現実であると嫌でも認識させられる。

 

 ……ほんとにやっていけるんだろうか。


 湧いてきた不安を無理やり押し除けて、僕は学校に足を踏み入れた。

 



 

「それじゃあ日浦くん。今日はここにいていいから」

「……あ、えと、はい。わかりました」

 

 ――そして、ここは保健室。若干迷子になりながらも何とか辿り着くことができた。


 最初の方はクラスには行かず、ここで過ごすことになっている。僕としても、いきなり同年代の子と話すのは緊張するしちょうど良かった。


「女の子ばっかりで疲れちゃうでしょ? 何か困ったことがあったら先生に言ってね」


 そして今はやたらと顔の良い保健室の先生と二人きり。美人な保健教師なんてフィクションだけのものだと思ってたけど、どうやら実在するようだ。


 あんまり意識しすぎるとキョドるので視線を床に落としながら、保健室のベッドに座る。

 三つあるうちの真ん中、隣は見ても誰もいない。独り占めだ。


 いつものようにゴロゴロと寝っ転がっていると、なにやら視線を感じる。見ると、薄い笑みを浮かべた先生がいて、反射的に顔をベッドにうずめる。


「はい、これプリント。担任の先生から預かってたの、大変だろうけど、ゆっくり追いついていこっか」


 いつの間にか隣にいた先生から貰ったのはプリントという名の問題集。……そういや、学校って勉強するとこだったな。


 そんなこんなで、しばらくはプリントと見つめ合う時間が続いた。


 その間は特に訪ねてくる人もおらず、先生と二人きりの保健室の居心地は悪いものではなかった。


 


「ごめん日浦くん。先生、ちょっと留守にするね。これから会議で……

 ――えっと、30分くらいしたら戻るから、それまでゆっくりしててね」

「……あ、はい」



 そう言われると同時、先生の手が僕の頭の上に乗って、そのままぐりぐりと撫でられた。

 ……うへへ、役得だ。

 思わず頬が緩むのを感じる。……いかんいかん、こんな調子じゃ、すぐにボロがでる。

 

 それにしてもこんな昼間から会議か、先生というのはやっぱり多忙なんだろう。

 保健室を出る足取りは若干フラついてたし、少し心配だな……。


 

 ……それはそれとして。この学校の保健室で一人きりという状況。


 ……なんか、ちょっと良いシチュじゃないだろうか。

 ――そういえば、スマホ持ってきてたな。それに、さっきから誰も来てないし、今なら誰かに見られることもないような……。

 ……最近はゲームばっかりでほとんど"投稿"もしてなかったし。


 ……やるか、自撮り。


 そう思った僕は制服のベルトを緩めだす。素肌が外の空気に触れて、いつもと違う感覚に少し高揚している自分がいた。


「……ん、鏡あるかな」


 探してみると、流石は保健室といったところか、デカい姿見を発見した。

 ベッドの前まで持ってきて、服装を整えることにする。

 

 こういうのは着崩した程度で、完全に脱がないのがポイントだ。せっかくの制服だしね。


 シャツをたくし上げて、顔が映らないようにスマホを上にっと……。

 試しに一枚、パシャリとシャッターを鳴らしてみる。

 

 ……うん、ギリBANだなこれ。

 夏服だということもあって、肌の露出が多い。

 こういうのはどこが見えてるから……とかじゃなくて肌面積の大きさで裁決が決まるのだ。

 

 「んー、なんか隠すものあるっけな……」


 そう呟きながら、乱れた制服をそのままに保健室を徘徊する。

 すると、小棚の上にあるものを発見した。

 ……絆創膏だ。

 

 ……少し、拝借してもバレないだろう。うんうん、保健室というのは実に便利だ。

 

 ……よくよく考えればだいぶやばいことをしている気もするが気にしない。

 そう、結局のところバレなきゃ問題がないのだ!



 借りた絆創膏は太ももとお腹に貼ってと……、よし。

 そのまま、スマホを高く上げて撮影ボタンを押す。


 パシャり、というシャッター音が保健室に鳴り響いた。


「……ふむ、わるくない」


 乱れた制服と太ももの絆創膏、それと保健室のベッドとかなり良いシチュエーションに思える。

 これなら、結構伸びるんじゃないだろうか。


 ――あとは特定されそうなとこだけ黒塗りで潰してっと。

 オーケー、これで大丈夫だ。

 


 そうして投稿ボタンを押す直前、ふと違和感に気づく。

 


 ……あれ、なんでドア開いてるんだ? さっき先生が閉めてったばっかりなのに。


 疑問に思った僕は着崩した制服をそのまま、ベッドから立ち上がり、廊下の方を覗き見る。

 

「あ、あ。ご、ごめんなさ――」


 そこにいたのは、僕の同い年くらいであろう、体操着を身に着けた長い黒髪の少女だった。

 真っ赤に染まった彼女の顔はよく見えない。なぜなら――

 

 ……彼女は自らの顔を手で覆っていた。その姿はまるで、何か見てはいけないものを見てしまったようで……



 ――みられ、てた?


 そんな考えが一瞬にして僕の脳内を駆け巡っていった。

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貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜 しゃふ @syafufu

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