第2話 私のルーティン
――今日も朝を迎える。
私の毎朝、必ずやることは決まっている。
そう、私のルーティン。
まずはスマホのSNSのチェックから始まる。
「今日のフォロワーは……500万、超えたわね」
当然といえば当然ね。
私は学生でもあり、モデルでもある。
ただ、今日は少し違う。
高校の入学式があるからだ。
「こればかりは、しょうがないわね」
まずはシャワーを浴びて……必ず鏡で自分の身体のチェックは怠らない。
プロポーションは変わってはならないのよ。
「今日も変わりはないわね。パーフェクト」
そしてキッチンに向かう。
私は一人暮らしをしている。
父は大会社の社長で忙しい。
新しく会社が移転したため、母は父の側にいる。
この家には私一人。
でも、それでいい。
困ることなど何もない。
朝食は野菜が中心……というより、野菜しか食べない。
私はベジタリアンだから。
確かに野菜が好きなのもあるけど、モデルは体型管理が仕事だもの。
私がモデルだということを知っているのは、一人だけだわ。
食事の後は、私の楽しみな紅茶。
マリアージュフレール。
このバニラ、花の香りが複雑に絡み合った。
甘く華やかで奥深い香り――
ええ、とても私に合っている。
そろそろ時間ね。
私は時計を見る。
真新しい制服に袖を通し、鏡の前に立つ。
品のある銀色の髪に、黒髪のウィッグを付ける。
髪型はおさげ。
そして仕上げにメガネ。
「これで、陰キャ、モブの出来上がりね。今日も完璧」
もう一度、時計を見る。
「さて、学校に向かおうかしら」
玄関を開けた私は、自然と隣の家を見る。
そのタイミングで、隣の玄関から一人の男性が現れた。
悠人だ。
「おはよう、悠人」
「おはよう、美鈴」
悠人は、その完璧なモブ姿で私を見る。
「悠人、今日も見事なモブね」
「美鈴もな」
そう。これが私たちの、いつものやり取り。
私たちだけが分かる、共有の褒め言葉。
他の人には、分からないでしょうね。
悠人の親は大病院を経営する外科医。
私の父は大企業の社長。
別に自慢したいわけじゃない。
ただ、私たちは目立ちたくないのよ。
だから二人とも、中学の頃からこのモブの姿。
そう――モブカップルと呼ばれてきた。
それが、私たちには都合がいい。
悠人が私にたずねる。
「今日の入学式、ご両親は来るの?」
「仕事で来ないわ。悠人は?」
「うちも同じだ。面倒なのは保護者会だよ」
「あなたのお父様、有名ですものね」
「……本当に面倒だ」
そうよね。悠人も面倒よね。
「それより、まさか玲奈と高校まで一緒とは思わなかったわ」
玲奈の家は悠人の家の左。
右が、私の家。
三軒並んで幼馴染――出来すぎた配置よね。
「クラスだけは一緒になりたくないな」
「そうね。玲奈は厄介だから」
本当に同感。
あの子は昔から、面倒くさい。
十五分ほど歩き、校門が見えた。
今日から私と悠人が通う学校――玲明学園。
私たちは体育館へ入った。
話によると、悠人の両親も出席しないらしい。
親は私たちに、特別な興味を持っていない。
……と、視界の先に止まったのは、玲奈。
悠人が小声で言う。
「あれ、玲奈だな?」
「そうね……相変わらず目立つわ」
「ギャルの見本市だな」
「陽キャグループの中心ね」
「……気づかないでくれ」
――あっ。
こっちを見たわ。厄介な……。
しかも、こっちに来る。
「悠人! 美鈴! おはよう! 高校でもよろしくね!」
よろしくじゃないわよ……!
悠人、何とか言って。
悠人が小声で言った。
「玲奈、友達のところに戻った方がいいんじゃないか? みんな見てる」
「そうね。戻った方がいいわ」
早く戻りなさいよ。
それにあなた、無駄に声が大きいのよ。
入学式は、理事長、校長、生徒会長、首席合格者の挨拶。
どこの学校でも同じ流れで、無事に終了した。
早く帰らないと。
玲奈が来る。
「帰るぞ、美鈴。玲奈が来る」
「ええ、急ぎましょう」
そう思ったところで、一人の男性が現れた。
悠人の両親の知り合いかしら。
その瞬間――見えた。
玲奈が、こちらに向かってくる。
ごめん……悠人……。
悠人が私を呼んだけど、私は関わりたくない。
今は、無理。
「美鈴」
「また、明日ね」
私は足早に悠人を置いて、体育館を後にした。
――ごめんね! 悠人!
(今は、逃げさせて)
――お読み頂きありがとうございます。
今後とも物語をよろしくお願い致します。
2人馴染み ヤモ @0131meiru
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