2人馴染み
ヤモ
第1話 僕のルーティン
今日も朝を迎える。
目覚ましが鳴る前に、自然と目が覚めた。
そして、いつものルーティン。
ただし――今日は少しだけ違う。
今日は高校の入学式がある。
新品の制服に袖を通し、鏡の前で軽く整える。
それだけで気分が変わる……はずなのだが、特に感慨はない。
一階へ降り、リビングで朝食を取る。
パンとコーヒー。
豆はブラックアイボリー――僕のお気に入りだ。
値段がすべてじゃない。この香りと風味――それがもたらす、ささやかな豊かさなんだ。
朝食を終えるとシャワーを浴びる。
ここまでは、いつもと同じ。
問題はここからだ。
僕は中学生の頃から、目立ちたくないと思って生きてきた。
性格もあるが、それ以上に“面倒な事情”がある。
僕の父は、大病院の経営者であり、腕の良い外科医だ。
この界隈で知らない人はいない――たぶん。
だから、誰にも話していない。
たった一人を除いて。
それゆえ、残りのルーティンも決まっている。
前髪を下ろす。
そして、メガネをかける。
これで完成だ。
陰キャ、モブ。背景に溶けるための姿。
「……よし」
時計を確認し、玄関へ向かう。
ドアを開けると、隣の家のドアも同時に開いた。
おさげ髪にメガネをかけた少女が出てくる。
「おはよう、悠人」
「おはよう、美鈴」
彼女は、相変わらず冷静な目で僕を一瞥した。
「悠人、今日も見事なモブね」
「美鈴もな」
僕には幼馴染が二人いる。
その一人が、この美鈴だ。
幼稚園からの付き合いで、中学に入ってからも一緒に登校している。
僕の秘密を知っているのは美鈴だけ。
そして、美鈴の秘密を知っているのも僕だけだ。
だから、秘密を共有している。
僕たちは、昔から「モブカップル」と呼ばれている。
これが非常に都合がいい。
誰も注目しない。
噂にもならない。
「今日の入学式、ご両親は来るの?」
「仕事で来ないわ。悠人は?」
「うちも同じだ。面倒なのは保護者会だよ」 「あなたのお父様、有名ですものね」 「……本当に面倒だ」
少し間を置いて、美鈴が言った。
「それより、まさか玲奈と高校まで一緒とは思わなかったわ」
玲奈の家は僕の家の左。
右が美鈴の家。
三軒並んで幼馴染――出来すぎた配置だ。
「クラスだけは一緒になりたくないな」 「そうね。玲奈は厄介だから」
そんな会話をしながら、徒歩十五分の学校へ向かう。
玲明学園。
校門を抜け、入学式が行われる体育館へ移動する。
周囲では、すでに同じ中学だった生徒たちが固まって話していた。
僕と美鈴は、迷わず最後方の席に座る。
すると、少し離れた場所が騒がしい。
「あれ、玲奈だな?」
「そうね……相変わらず目立つわ」
「ギャルの見本市だな」
「陽キャグループの中心ね」
「……気づかないでくれ」
願いは届かなかった。
玲奈と目が合った。
満面の笑みで、こちらに手を振りながら近づいてくる。
(本当に、面倒だ)
「悠人! 美鈴! おはよう! 高校でもよろしくね!」
声が大きい。
視線が集まる。
「……よろしく」
「よろしくね」
僕は小声で言った。
「玲奈、友達のところに戻った方がいいんじゃないか? みんな見てる」
「そうね、戻った方がいいわ」
美鈴は少し考え――頷いた。
「分かった。私戻るけど、あとで話そうね」
そう言って、陽キャグループへと戻っていった。
「なあ、美鈴」
「なあに?」
「今日は、早く帰ろう」
「……そうね」
入学式は、理事長、校長、生徒会長、首席合格者の挨拶。
どこの学校でも同じ流れで、無事に終了した。
「帰るぞ、美鈴。玲奈が来る」
「ええ、急ぎましょう」
そう思った矢先――
「もしかして、神崎様の息子様ですか?」
振り返ると、スーツ姿の男性が立っていた。
「私は保護者会の宇野と申します。お父様にはいつも――」
その瞬間、美鈴は何も言わず、足早にその場を離れた。
「美鈴」
「また、明日ね」
背中だけを残して、行ってしまう。
(……この親父)
そして、その後方……。
玲奈が、こちらを見ていた。
さっきまでの笑顔とは違う……悠人の表情が変わった。
曇った表情……。
――初日から、詰んだな。
美鈴……お前……。
――お読みくださってありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。
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