第2話 二度目の生は、白くて賢い


目覚めた瞬間、俺は確信した。


(……さっきより、世界が静かだ)


 鼻先をくすぐる藁の匂いは同じ。

 地面の近さも変わらない。

 だが――身体が、軽い。


 首を動かす。

 視界が広い。

 無駄な力が入っていない。


 水桶を覗き込み、映った姿を見て理解する。


(白い……)


 丸みのある体躯。

 だが、先ほどの赤毛の豚よりも、どこか整っている。


《品種:ヨークシャー》

《特性:知覚補正/人間親和》

《目標:極上のニンジンを取得せよ》


(……なるほど)


 前回は、力に任せて死んだ。

 なら今回は――考える。


 俺はあえて、騒がなかった。

 突進もしない。

 鳴き声も抑え、餌箱の前で大人しく座る。


「お、こいつ落ち着いてるな」


 人間の声。

 反射的に顔を上げる。


(……分かる)


 言葉の意味が、前よりはっきりと頭に入ってくる。

 不思議な感覚だった。

 音が、ただの音じゃない。


「賢そうだなぁ」


 近づいてきた男の手が、頭を撫でた。


(よし)


 拒絶しない。

 むしろ、身を預ける。


 すると男は笑った。


「こいつ、いいな。繁殖用に残すか」


(……出荷、回避)


 胸の奥で、安堵が広がる。


 その日から、俺の待遇は少し変わった。


 餌が良くなった。

 掃除が丁寧になった。

 そして、人がよく話しかけてくる。


「ニンジン畑、今年は出来がいいらしいぞ」

「北の丘のやつな」

「王都に出す分とは別に、奥に特別区画があるらしい」


(……北の丘)


 俺は全て、記憶した。


 この世界では、

 人は豚の前で、よく喋る。


 それを、俺は知った。


 夜。

 養豚場が静まり返る。


 俺は柵の影に身を伏せ、耳を澄ます。

 風の音。

 虫の声。

 遠く、畑の方向から漂ってくる――


(……甘い)


 ニンジンの匂いだ。


 だが、距離がある。

 しかも、昼間に見た限り、畑には見張りがいる。


(力はない。正面突破は無理だ)


 なら、どうする?


 俺は柵を見上げた。


 前回壊したそれは、

 今は敵だ。


 だが――

 足元を見る。


 地面が、少し柔らかい。


(……掘れる)


 試しに前脚で土をかく。

 感触は、悪くない。


 夜毎、少しずつ。

 誰にも気づかれぬように。


 だが、三日目の夜。


 地面の向こうから、低い唸り声が聞こえた。


「……グルル」


(……?)


 土の先。

 闇の中で、光る目。


(魔物か)


 判断した瞬間、背後から足音。


「こら! 何してる!」


(しまった)


 松明の光。

 逃げ場はない。


 次の瞬間、

 鋭い衝撃が、頭に走った。


(……くそ)


 視界が暗くなる。


(でも……分かった)


 情報は、集まった。

 ルートも、把握した。


 足りなかったのは――

 小回りだ。



《リープ発動》

《次の品種を割り当てます》



 目を開ける。


 世界が、やけに広い。


 いや――

 俺が、小さい。


「……ぶひ?」


《品種:ミニブタ》


(……来たな)


 俺は、静かに笑った。


 次は、潜る。


ーーーーーーーーーーー


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異世界転生した俺が、まさかの豚だった!〜人参を求めて3,000里〜 SeptArc @SeptArc

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