少年の家族
彼が成仏してしまった今、幽霊であるさゆりにできることは何もなかった。
ただ、ぼんやりと少年の死体を眺めていた。
感情が、現実に追いつかない。
少年が楽しみにしていたというお祭。
それを見届けたら、さっさとこの場所を出よう。
たまたま、変な出来事が重なっただけ。
自分にそう言い聞かせるしかなかった。
――カラン、カラン。
遠くから、金属のぶつかるような乾いた音が聞こえてきた。
鐘のようでいて、何かが引きずられているようにも思える。
暗がりの中、音はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
――カラン、カラン。
黒ずくめの“何か”がふたり、細長い車輪のついた台車――野辺送り車を、きしむ音を立てて引いていた。
全体的にゆったりとした服装で、手元も足元も隠れていた。顔にも布がかかっていて表情も見えない。
両腕を左右に広げ、まるで鳥のような姿勢で、腕を揺らすたび、手に持ったベルが鳴った。
――カラン、カラン。
ベルを鳴らすたびに半回転、一回転。
規則性は見当たらない。
前向きなのか後ろ向きなのか、それを悟らせないようにしているかのような奇妙な動きだった。
やがて、ふたりはさゆりの目の前で立ち止まった。
車の上に少年の死体を無造作に載せると、また音を鳴らしながら、どこかへ向かって歩き出す。
さゆりは、背筋を撫でるような冷たいものを感じながら、黙ってその後を追った。
死体を運んでいても彼らの動きは変わらなかった。
ベルを鳴らすたびに回転する。
服装と相まって関節の動きが全く分からない。
たどり着いたのは、少年の家だった。
チャイムも鳴らさず、開放されていた玄関から少年を運び込んだ。
さゆりもそれに続く。
少年の姿を見た両親は、悲鳴すら出せず、その場に崩れ落ちた。
母親は肩を震わせ、父親は唇を噛みながら顔を伏せている。
そのときだった。
黒ずくめのひとりが壁を背に立ち、顔の布を外した。
さゆりは目を見開いた。
それは、少年を撃ったあの男だった。
男は、憎しみの籠もった目で両親をにらみつけると、怒気を押し殺した声で叫んだ。
「――あんたらは、子供にどういう教育をしてたんだ!」
空気が凍った。
父親が苦しげに喉を鳴らし、絞り出すように口を開く。
「……申し訳ありません。うちの子が……大変失礼なことを……」
ふたりは、深く頭を下げた。
まるで、それが当然であるかのように。
さゆりは、言葉を失った。
(何を言ってるの……? この人が殺したのに……)
男の口元は、まだ怒りで引きつっている。
自分勝手な理由で人を殺しておいて、何故そこまで怒りを振り撒けるのか。
(ダメだ……全然わかんない……)
さゆりは、もうその場にいられなかった。
頭がおかしくなりそうで――気づけば天井も屋根もすり抜けてふわふわと宙を漂っていた。
何もかもが間違っている――そう思いながら。
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