猟師と少年
あてもなく、ふわふわと村を漂いながら、さゆりは大きくため息をついた。
(……思ってたのと違うなぁ)
歩く練習もしたし、今なら幽霊とバレずに人と話せると思ったのに――
思い返してみると、出会ったのは変な人ばかりだった。
バレずに人と触れ合うどころか、今はこうして姿を消して漂っている――
ふと、視線を上げると、夕焼けが空を染めていた。
その美しさに目を細めていた時、こちらに歩いてくる男の姿があった。猟師のような格好をしている。
そして反対側からは、小学生くらいの男の子が歩いてくる。
「こんばんは」
少年が、素直な声で挨拶した。
「はい、こんばんは。気をつけて帰るんだよ」
猟師風の男も、にこやかに返す。
ふたりは向かい合うようにすれ違った。少年は前を向いて歩き続け、男はすれ違った少年の背を見送るように振り返った。
――やっと、まともな人に出会えた気がした。
さゆりが目を細めた、その瞬間。
パン、と乾いた破裂音が穏やかな夕暮れを引き裂いた。
男が突然、猟銃の引き金を引いたのだ。
銃口が向いていたのは、さっきまで笑っていた少年の背中。
「まったく、最近の子供は――」
ぽつりと呟くと、男は倒れた少年に近づき、何かを確認してそのまま立ち去っていった。
まるで日常の一部かのように。
さゆりは、声も出せずにただ空中で立ち尽くすしかなかった。
やがて、地面に倒れた少年の体から、ぼんやりとしたものが立ち上がる。
それは――少年の幽霊だった。
「ねえ、ちょっといいかな?」
さゆりがそっと声をかけると、少年の霊はゆらりと揺れながら振り向いた。
その輪郭はすでに薄れかけていて、今にも風に消えてしまいそうだった。
「……あんまり時間ないけど、いいよ」
「この村……なんなの? いきなり殺されたんだよ? ねえ、怖くないの? 怒ってないの?」
「え? 普通の村だと思うよ?」
少年はきょとんとした顔を浮かべたまま、さゆりの質問の意味がわからないようだった。
「恨みとか……ないの?」
「恨みはないよ。ただ……お祭に行けないのは残念かな」
そう言った少年は、ほんの少し微笑んだように見えた。
「明日の夜だったんだ。人がいっぱい集まって、楽しいんだよ」
「……」
「……もう、行かなきゃ」
それだけ言うと、少年の霊は、ふわりと風に溶けるように消えていった。
さゆりは、その場に取り残されたまま、呆然と少年の霊がいた空間を見つめていた――
「……うそ。なんで、成仏できるの……?」
いきなり命を奪われても、怒りも悲しみも抱かず、ただ、行きたかった祭を惜しむだけ――
そんなふうに旅立てるなんて。
(……こんなことが、この村の当たり前なんだ……)
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