第6話 突撃!隣りの晩〇飯!
「……いいか、待ってくれ」
実家の玄関前。俺はドアノブに手をかけたまま、背後のヴェルに懇願した。
「いきなり洗脳はナシだ。まずは俺が説明する。俺の言葉で、両親を説得してみせるから」
「ふうん? 難易度高いと思うけど、いいよ。お手並み拝見」
ヴェルは面白そうにクスクスと笑い、俺の背中に隠れるように立った。
俺は深呼吸をして、覚悟を決めてドアを開けた。
「た、ただいまー……」
「おかえり透。遅かったじゃな……い……?」
リビングから出てきた母親が、俺の背後にいる銀色の発光体を見て、言葉を失った。
続いて出てきた父親も、新聞を取り落としそうになっていた。
無理もない。
日本の一般的な家庭に、銀髪赤眼、モデル顔負けの美少女(しかもパーカー姿)が立っているのだ。
異物感がすごい。
「透、その……どなた?」
「あ、えっと、その……」
俺は必死に脳みそをフル回転させた。
「だ、大学の友人で! 留学生の……ヴェ、ヴェルさんだ!」
「は、初めまして……」
ヴェルが俺のシャツの裾を掴み、上目遣いでペコリと頭を下げる。
破壊力抜群の猫かぶりだ。
だが、両親の目は誤魔化せなかった。
「友人? こんな時間に?」
「透、お前まさか……何か危ないことに巻き込まれてるんじゃないだろうな?」
「いや、実は彼女、家がなくて……困ってて……」
「家がない? 未成年じゃないのか? 警察には?」
矢継ぎ早に飛んでくる正論の弾丸。
ダメだ。
「宇宙から来ました」なんて言えるはずもないし、現実的な嘘をつこうにも、状況が不自然すぎる。
俺の語彙力は限界を迎え、脂汗が滝のように流れた。
「えっと、だから、その……!」
しどろもどろになる俺を見て、背後でヴェルが小さく溜息をついた。
「……あーあ。やっぱりダーリンじゃ無理か」
彼女は一歩前に出ると、俺の肩越しに両親を見据えた。
その瞳が、妖しく発光した気がした。
パチン。
指が鳴る音が、リビングに響く。
「――お義父さん、お義母さん。遅くなってごめんなさい」
世界が、書き換わった。
「あらやだ! ヴェルちゃんじゃない!」
「おお、待っていたよ。よく来たねぇ」
母親の疑惑の眼差しが、一瞬で「親戚の子を見るような温かい目」に変わった。
父親に至っては、満面の笑みで手招きしている。
「へ?」
俺は呆気にとられて、両親とヴェルを交互に見た。
「母さん? 今、なんて……」
「何言ってるの透。ヴェルちゃんよ。あなたの許嫁(いいなずけ)の」
「……はい?」
「ほら、お婆ちゃんの遺言で決まってたじゃない。遠い親戚の、海外に行ってた……ええと」
「リヒテンシュタイン公国です」
「そうそう! そのリヒテンシュタインから、透と同棲するために帰ってきたヴェルちゃんよ!」
設定が雑すぎる。
なんだそのラノベみたいな設定は。リヒテンシュタインに謝れ。
だが、両親は何の疑問も抱いていない様子で、「さあさあ上がって」「お腹空いたでしょう」とヴェルを歓迎している。
「……嘘だろ」
俺が呆然としていると、ヴェルがすれ違いざまに、俺の耳元で囁いた。
「ね? 簡単でしょ」
「お前……よりによって許嫁って」
「だって、その方が都合いいじゃん」
彼女は、両親に見えない角度で、ニタリと笑った。
捕食者の笑みだ。
「他人として泊まるより、許嫁の方が……夜、君の布団に潜り込んでも怒られないでしょ?」
「っ!?」
「いわゆる『夜這い』ってやつ? ボク、日本の文化で一度やってみたかったんだよねぇ」
彼女は俺の二の腕をギュッと抱きしめ、柔らかい胸を押し付けながら、甘ったるい声でトドメを刺した。
「覚悟しててね、旦那様❤」
カアアァッ、と俺の顔から火が出る。
ふざけるな。
勝手に洗脳して、勝手に設定を捏造して、その上夜這い宣言だと?
本来なら激怒して追い出すべき場面だ。
だが。
(……くそっ、顔が近い。可愛い)
至近距離で見上げる彼女の顔があまりに美しすぎて、そして腕に感じる体温が心地よすぎて、怒りの言葉が出てこない。
悔しいが、俺の本能は、この銀河最強の美少女に完全に屈服していた。
俺は項垂れながら、洗脳済みの両親と、上機嫌な許嫁の後を追ってリビングへ入った。
……今夜、俺の貞操は守られるのだろうか。
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