第4話 焦りと優越感

 俺はここに来て焦りを感じていた。


 今までは観測者としてメタ的な視点で俯瞰していたが、ここからは物語を読むわけじゃない…俺がここに居て何かをこなす立場となる。

 仮に俺がこの騒動の主人公だとして、どう動くのが正解だ?


「なぁリビー」


 俺が暗くなったモニターに話し掛けると、どこからか声を聴いているのか、それともモニターに音声認識システムでも入っているのか、モニターが点灯してこの部屋と同じ白色の壁紙の中に、一匹のヤギが映る。


「はい!なんでしょうか?」


 リビーと名乗ったコイツは俺たちの質問に答えるサポート役的な立ち位置だろう。

 つまり、ここで今一番大事なのはこの世界の情報を他人より多く取ることだ。

 あまり見えなかったが、楼助に対して軍服女は魔力がどうとか、勇者としての才能だとか言っていた。

 つまり、それらのキッカケを知るチャンスはここでしか存在し得ない可能性が高い。


「魔力について教えてくれ」


「すみません。それについてはお答えできません」


「ダメ…なのか?じゃあ勇者について」


「すみません。それについてはお答えできません」


「んだよ!そこは説明するパターンじゃねぇのか!」


 完全に誤算だ。

 これが物語だったら読者に説明させるために、コイツがいろいろと喋ってくれんじゃないのかよ!

 ダメだ、読者目線は捨てよう…今は当事者なんだから。


「じゃあお前はなんだ?」


「僕はリビー!勇者育成機関のサポーターだよ」


 ゲームの使えないNPCと会話している気分だ。

 俺の質問には最低限しか答えてくれないってことか。

 これ以上話しても無駄かもしれない。


「そうだ!燐上リンジョウに繋いでくれ!」


「かしこまりました。燐上晴樹リンジョウ ハルキに繋ぎます」


 そう言ったリビーは画面から消え、代わりに≪燐上晴樹を呼び出しています≫というテキストメッセージが現れた。

 そして四コール目に画面に燐上の顔が映った。


 リモート的な奴か?


「や、やぁ…えっと…」


「稜太郎だ!」


「ああ、稜太郎君。な、何の用?」


 燐上、こういう時は察しが悪いんだな。

 それに歯切れが悪い、あの時みたいに堂々と話してくれればやりやすいのに。


「お前、実はこういう展開待ってただろ?」


 そこで俺は『お前とは仲間だよ』ということを伝える為に言葉を投げ掛ける。

 すると少し俯き気味だった燐上が、バッと顔を上げた。


「まぁ…うん。さっきはテンション上がっちゃって、ついつい…。でも、事が落ち着いてから考えてみたら、まだあの世界に未練あるし…見終わってないアニメもある」


 話出した燐上は、どこか不安気でこの状況に恐怖しているようだった。

 未練もあるって言うし、仲間だと思ってたのは俺だけか?

 ま、まぁ見終わってないアニメあるのは同感だ。

 俺の好きなアニメが二期発表されたところだったしな。


「あぁ…そう考えると…。いやいや!やっぱでも、当事者って一番ワクワクするだろ?な?」


「え!…いや、怖いよ。勇者の育成なんて想定してないし、僕はてっきり最強能力ゲットで無双かと思ってたのに」


「無双かと思ったら夢想だったってな!はははっ!」


「笑えないよ」


「ごめん…」


 なんか場が白けてしまった。

 燐上もさっきより顔色悪そうだし、今話し掛けるのは違ったかな。


「それより稜太郎君、この機能?どうやって使ったの?」


「あぁ、この通話か?それならリビーに名前を言えば」


「リビー?」


「そう。あれ?お前の部屋に何かアシスタント的なモフモフなの居ないの?」


「モ、モフモフ?いや、居ないけど…」


 燐上の背後を見てみると、そもそも俺みたいに座ってるってよりかは、壁を見て立ってるし部屋は俺よりも狭いし、更に所々ペンキの塗り忘れか黄色い壁が露出しているところもあった。

 ベッドも敷布団みたいな感じで、俺の部屋とは大違いだ。


「それにしても稜太郎君の部屋広いよね?ベッドもふかふかそうだし」


「あ、あぁ…何かな。と、とりあえず他の奴にも連絡したいし…切るわ」


 俺は燐上との通話を止めて、一人ベッドの上でニヤついていた。


「やっぱ俺は主人公だったか!」


 そして今日四度目くらいの独り言を放つ。

 どことない優越感が俺の身体を駆け巡っていた。

 あぁ、この無機質で目に悪そうな白も今なら栄光の白に見えるよ。

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