第5話 本心


「じゃあ、次は面接だね。案内してあげるよ。」


そう言って、少年は立ち上がる。

僕もベッドから降りて、少年の後に続く。


実技試験は合格できた。でも、面接で落ちる可能性だって十分にあり得る。気を引き締めないといけない。


「あ、そうそう。一つだけ助言しておくね。」


『何も考えなくて大丈夫。君の”本心“を話せばいい。』


それは、一体どういう意味なんだろうか。面接室というのはあまり遠くないようで。そう考えているうちに、すぐ到着した。


「ここだよ。じゃあ、頑張ってね。」


少年はひらひらと手を振って、こちらに笑いかける。


僕は、ゆっくりと、部屋に足を踏み入れた。





「受験番号86番の方で合っていますか?」

「はい。」


目の前には、人が2人。両方、知っている人だ。


僕から見て左の席に、レジスタ関東支部副長の「菊川音丸」さん。

右の席に、レジスタ関東支部長の「縁綾乃」さん。


「ではこれから、面接を開始します。」


縁さんが、僕の目をまっすぐ見つめながらそう言う。


僕の心臓は、緊張のせいで、祭囃子の大太鼓のようにうるさかった。


「では一つ目の質問です。“レジスタ入隊試験を受験した理由を教えてください“。」


頭が、真っ白になる。


兄としっかり練習したのに。実技のあの緊張感の残りと、今のとてつもない緊張感が相まって、僕は脳と心臓にとてつもない負荷をかけていたようだった。


脳が、オーバーヒートする。


だから、練習で使っていたような長文なんかじゃなくて。短い。だけど限りなく“本心”に近い言葉が出てきた。


「僕が、入隊を決めた理由は、”夢”を叶えるためです。」

「......それでは、その夢。とは?」


「それは______。」


夢。それは、


翔兄の願いを叶えること。

僕も、レジスタに入ること。


......本当に、それだけ?




「僕の、夢は______。」


答えに霧がかかっているような、そんな感覚。あと少し手が届けば、掴めるはずの”夢“の正体。それに、ずっと手が届かない。


そんな時だった。頭に、先ほどの少年の言葉が思い出されたのは。


『何も考えなくて大丈夫。君の”本心“を話せばいい。』


僕の、本心。


僕が、本当に思っていること。




なんだか、霧が晴れた気がする。



「僕の夢は。”夢を守ること“です。」



「ほう、じゃあ、具体的には?」


音丸さんが、顎髭を撫でながら問う。


「僕は、怪物のせいで”夢を閉ざされた“人を知っています。」


「怪物に殺されれば、怪物に大切なものを奪われれば。夢も何も、全部叶わなくなる。」


「諦めるしか、閉ざすしかなくなってしまうんです。」


「だから、僕は。その”夢“を、命を懸けて守りたい。」


僕は、腹の底から叫んだ。





「なるほどな。」


音丸さんは、そう言ってから何度か頷く。

そして。


「な。こいつは良いんじゃないか?綾乃。」

「ええ。あの人がOKを出しているんですし、当然ですね。」


そう言って、縁さんは手元の書類に何か少し書き込む。そして、一度顔を上げた。


「ええと。お名前を教えていただけますか?」

「はい、“小手毬(こでまり)彰”です。」


「ん......小手毬ってことはもしかして、翔の弟か?」


音丸さんが目を丸くして、僕の顔を凝視する。そしてそれを縁さんが軽くバインダーで引っ叩いた。


バチン!


いいや、前言撤回。全然軽くじゃない。


「いっだ!綾乃おま、全力で叩いたろ!」

「受験者の方の顔を、じろじろと見ないでください。品格が疑われますよ。」

「細かいなあ......だから支部長になれたんだろうけどな。」


すると綾乃さんはこちらへ向かってくる。


「小手毬彰さん。」


名前を呼ばれて。意識が遠くにあるような、でも近いような、妙な感覚を覚える。それに、心拍も速い。


が、


「レジスタ関東支部入隊試験、合格です。」


その言葉を理解した途端。僕は、思わず泣きそうになってしまった。





「いやあ、まさか。あんな良い夢が聞けるとはな。あいつ、とことん”レジスタ向き“だよ。イィル、お前さんが実技を合格にした理由がちゃんとわかったぜ。」

「それはなにより。僕もあの子見てたら本部に帰りたくなくなっちゃうな。」

「はは、やめてやれ。ただでさえ人手不足なのに。本部技術部長のお前が本部を空けたら、レジスタ本部は終わるぞ?」


音丸が、本当に困るといった表情をしつつ、肩をすくめる。

そして、黒髪の少年___イィルは苦笑いをしていた。


「あはは。それに、本部1の問題児を制御できるのも僕だけだしね。大人しく戻るよ。」


「あ、あとさ。あの子がC以上になったら教えて。僕が直接”武器“を作ってあげたくなったからさ。」


イィルは、嬉しそうに笑った。

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MONSTA @Try_Shosetu

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