振動・波動に付き物の複素数表現、納得してますか?

ジャパンプリン

実数だけ取ればいいんだよ、って何で!?

振動や波動を扱う分野の理論展開で必ずと言っていいほど出てくる複素数表現。オイラーの公式とセットで導入されるアレです。学生の頃に受けた講義の中で印象的なエピソードがあります。これを使って色々と数式展開を行って、最後に言われたのが「現実世界の話を問題にしてるから、最後は実数部分だけ見ればいいんだよ」でした。私の頭の中は「?」で一杯です。なんかもっともらしいことを言ってるようには聞こえるんですが、虚数成分はどこに行ったのかが気になって、後の話は頭に入ってきませんでした。というわけで、振動の複素数表現の話は、私の中では長らく無かった事にされていたのですが、先日投稿した「フーリエ変換」に関するエッセイ中で綴った、「腑に落ちた」結果、ここの話もまた腑に落ちたのでした。


さて、何が言いたいかと言いますと、振動・波動の問題を論じるときに対象としているのは実軸上の正弦波です。この点に関しては、虚数の入り込む隙間はありません。それなのになぜ複素数で考えるか。それは、その方が問題を簡単に解けるから。ただこれだけの理由だと私は解釈しています。


正弦波のパラメータは振幅と周波数、位相の三つです。周波数に関してはフーリエ変換で簡単に分離できるので、ここではある特定の周波数の正弦波に限定して考えることとし、振幅と位相の話に焦点を置きましょう。例えば、実測データからこれらを推定したい、そんな時、ありますよね? これはつまり、与えられたデータに最もフィットする関数のパラメータを同定したい、という問題に帰着します。そして、フィッティングの王道と言えば最小二乗法ですね。そこで、振幅と位相を未知数として最小二乗法により最適値を推定する。これで解決、と思いきやそうは問屋が下ろしません。正弦波の位相を同定する問題。これは非線形性が強すぎて計算コストと安定性の両面で問題が噴出するんですね。そして、これを線形問題に変換してしまうのが複素数表現への拡張なんです。本来実軸上だけで完結する問題をあえて複素数に拡張することによって、複雑さを増すどころかむしろ簡単に解けるようになる。これが複素数表現の本質だと私は考えています。



振幅と位相というと脳が騙されるといいますか、イメージを阻害するのですが、やっていることは A cos⁡θ のAとθが欲しい、ただそれだけです。そして、A cos⁡θは大きさと角度という2次元ベクトルの極形式に相当しています。これを直交座標に変換して、x,y軸に沿う2成分(u、v)に分解することで、Aとθを求める非線形問題がuとvを求める線形問題と化し、解法が容易になる。そして、このuとvを求める方法というのが、振動問題ではフーリエ変換でcosとsin成分を求める作業に相当します。


これだけなら別に複素数は要らないし、実際、計算プログラムの実装などではそれで充分だったりします。それでも敢えて複素数表現を用いるメリット、それは


微積分の数式展開が容易になる。


ほんと、これだけです。このためだけに複素数表現を導入したと言っても過言ではないでしょう。指数関数は積分してもその核(カーネル)の形状は変化しません。これがどれだけ数式展開を楽にすることか。この性質により一見複雑そうに見える問題であってもフーリエ級数との組み合わせで理論解を求めることが出来たりします――理論解って、やっぱり強いんですよね。工学でありがちな補正係数を導入して実験値との整合性を図る。そんな用途としても理論が関数形を保証してくれる、そのメリットは計り知れません――そして、複素数に拡張した世界で求めた解の実数部を取ると、あら不思議、元々求めたかった正弦波の振幅と位相が同時に求まっているではありませんか、と。


私はこのように解釈し、納得しました。

ちなみに、工学でよくある問題のもう一つが、シミュレーションにより結果を予測したい、ですね。この場合も計算の順序が逆転するだけで本質は変わらない。そう私は考えています。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

振動・波動に付き物の複素数表現、納得してますか? ジャパンプリン @japan_pudding

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ