Day 2:本当の私を愛して ~地獄のスイッチON~

1. 勘違いの朝食会(AM 8:00)


 Day 2の朝。

 シェアハウスのダイニングには、朝日と共に優雅な空気が流れていた。

 まだ全員『【転生後メンタル(チートON)】』である。


 『♪ BGM:爽やかなアコースティックギター(朝の風景) ♪』


「おはよう、諸君」

 『No.1 レオンハルト(中身:田中 勉)』が、バスローブ姿のままコーヒーを片手に現れた。

 昨夜、女神から「(不人気)No.1」と告げられた彼は、自信が成層圏を突破していた。


 彼は優雅にコーヒーを啜りながら、心の中でほくそ笑む。

 (フッ、よく見ればどの娘もルックスは良い……。これなら俺のハーレムに加えてもいいレベルだ。

 おまけに俺は人気No.1。ここを俺のハーレムにするのも面白い……行ける! 楽勝! だって俺はS級勇者!!)


 彼は既に各々くつろいでいる女性陣に軽やかに挨拶をする。まさに勇者の爽やか挨拶だ。

「昨夜はよく眠れなかったよ。ファンの熱視線を感じてしまってね」

 彼は髪をかき上げ、キラーンとウインクを飛ばす。


「……チッ(舌打ち)」

 『No.4 マリアベル(中身:高橋 佳代)』は、聞こえるか聞こえないかの音量で舌打ちをし、サラダを突き刺した。

 (朝からウザ。てか、こいつバスローブの隙間から胸毛見えてんだけど。減点)


 『No.2 シャルロット(中身:佐藤 陰美)』は、扇子で顔を隠して完全に無視した。

 (……勇者様、朝からテンション高すぎですわ。解釈違いです。もっと寡黙なのがいいのに)


「(……フフッ。照れているのか。罪な男だ俺は)」

 レオンハルトはポジティブに解釈し、席についた。


 『No.3 アルフレッド(中身:伊藤 誠)』は、英字新聞(※異字言語で読めないが雰囲気で持っている)を広げ、独り言のようにブツブツと呟いている。

「ふむ……ここでのコンセンサスが……シナジーを生み出すには……やはりブルーオーシャン戦略しかないか……アジェンダが……」

 (※意味は全く分かっていない)


 『No.5 クラフト(中身:鈴木 一郎)』は、出された目玉焼きの焼き加減を定規で計測し「……誤差0.5mm。許容範囲内だ」と呟いている。


 『No.6 セレスティア(中身:渡辺 花子)』は、窓辺に立ち、涼やかな表情で遠くを見つめミステリアスな微笑みを向けている。深窓の令嬢というか深窓の姫巫女である。


 平和だ。

 あまりにも平和で、空虚な「なろう系」の日常だった。


◇◇◇


2. 閉ざされた扉と契約の罠(AM 11:30)


 優雅なブランチを終え、『No.3 アルフレッド』がナプキンで口を拭った。


「ふむ。なかなか有意義な『異業種交流会』だったよ。

 だが、私は多忙な身でね。領地の『四半期決算』があるから、そろそろお暇(いとま)させてもらうよ」


 彼は立ち上がり、エントランスへと向かう。

 他のメンバーも「私も公務があるから」「エステの予約が」と、帰り支度を始めた。

 彼らにとって、ここは「一泊二日の豪華パーティ会場」という認識だったのだ。


 しかし。


「……ん? 開かないな」

 アルフレッドが巨大な扉を押すが、びくともしない。

 レオンハルトが剣で斬りつけようとするが、カキン! と弾かれる。


「おい、どうなっている? スタッフを呼べ!」

「わたくしを誰だと思っていて!? 監禁など国際問題ですわよ!」


 ザワつき始めたその時。

 リビングのモニターが点灯し、警告音が鳴り響いた。


 『《 WARNING! WARNING! 》』


「あははは! 『帰る』? 面白い冗談だね〜!」


 画面の女神アイノゥが、腹を抱えて笑っている。


「ねぇ君たち、『招待状』ちゃんと読んだ?」


「読んださ! 『選ばれし者たちの晩餐会』と書いてあった!」

 レオンハルトが懐から黄金の招待状を取り出し、突きつける。


「うんうん。じゃあ、その『裏面』も見た?」


「裏……?」

 全員が招待状を裏返す。

 そこには、虫眼鏡でも読めないほどの『極小文字』で、びっしりと文章が書かれていた。


「えーっと、第108条第4項……

 『本イベントは完全隔離型のリアリティーショーであり、カップル成立によるクリア、もしくは規定の違約金(賠償金)の支払い以外での退去は認められないものとする』」


 女神がスラスラと読み上げる。


「は……? なんだその文字サイズは! 読めるわけがないだろう!」

 アルフレッドが抗議するが、女神は冷たく言い放った。


「読まなかったのは君たちのミスでしょ?

 現代日本でもよくあったじゃない。

 『利用規約を読まずに【同意する】ボタンを押す』こと。

 

 君たちはここに来た時点で、『全財産を賭けたデスゲーム』に同意しちゃってるの。

 諦めてね♡」


「な……ッ!?」

 全員の顔から血の気が引く。

 自分たちの「傲慢さ」と「確認不足」が、退路を断ったのだ。


「フッ、なるほどな……」

 レオンハルトが髪をかき上げた。

「要はカップルになれば出られるんだろう? ならば話は早い。

 おい、そこの聖女。俺と組め。ビジネスカップルとして即座にクリアしてやる」


 他のメンバーも「それが合理的ですね」「さっさと終わらせましょう」と頷き合う。

 彼らは安堵していた。ちょろい条件だ、と。


「だーめ♡」

 女神の低い声が響く。


「私の番組は『真実の愛(トゥルー・ラブ)』絶対主義!

 愛を冒涜する『ビジネス婚』は『重☆罪』でーす!

 

 もし嘘をついたらどうなるか……前回の『シーズン24の『ビジネス婚カップル』の末路』をご覧ください!」


 『【再生スタート ▶】』


 画面に映し出されたのは、神々しい誓いの大聖堂。

 元・賢者のイケメンと、美女が手を取り合っている。クライマックスのような感動的な光景だ。


 『愛しているよ、ハニー。永遠に一緒だ』

 『ええ、ダーリン……』


 二人がキスを交わした、その瞬間。


 『《 ブッブー!! 判定:イツワリ愛デス!! 》』

 無慈悲な機械音声と共に、『「純☆愛カウンター」』の数値が『0』を示す。


 『ヒュンッ。』

 二人の足元の床が抜け、奈落へと落ちていく。


 『場面転換。』

 ――ガタンゴトン。

 現代日本の駅のホーム。土砂降りの雨。

 賢者の男は、やつれたスーツ姿で線路へと身を投げた。


 『ギャアアアアアアア!!』(6人の悲鳴)


 映像が切り替わる。

 病院のベッドで、全身包帯グルグル巻きにされ、生命維持装置に繋がれた男。

 その枕元には、一枚の紙が無慈悲に置かれていた。


 『【損害賠償請求書:1億2000万円】』


 『【再生終了 ⏹】』


 『シーン……。』

 ダイニングは凍りついた。


「はい、解説しまーす☆

 彼の場合は生き返って電車止めちゃったくらいだけど……

 君たちの場合はどうなるかな〜♡

 『いやーん、アイノゥ怖くてゾクゾクしちゃう☆』」


 女神はわざとらしく身震いした。


「ま、前回は電車だったけど、皆にはそれぞれ『違った地獄』がくるかもよーん?

 それが嫌なら、『ガチで(・・)』恋してね?

 

 でもさぁ……今の君たち、『作り物』じゃん?

 そんな厚化粧のメンタルじゃ、真実の愛なんて無理無理!」


 女神が懐から、毒々しい色のスイッチを取り出した。


「というわけで! ハンデをあげる!

 『ありのままの姿』で愛し合おうよキャンペーン実施中でーす!」


 『《 メンタル切り替えスイッチ☆ ON 》』


 『ブツン。』

 6人の脳内で、何かが切れる音がした。


◇◇◇


3. 地獄の蓋開け(PM 0:15)


「……あ?」


 『ガシャーン!!』

 最初に崩れたのは、『No.1 レオンハルト』だった。

 彼の手からコーヒーカップが落ち、粉々に砕け散る。


「あ……あぅ……腰が……」

 さっきまで「俺はNo.1」とイキっていた勇者が、背中を丸め、老人のようにテーブルに手をついた。

 その瞳からは覇気が消え、『「万年係長・田中 勉(42歳)」』の哀愁が漂う。


「し、湿布……誰か……鎮痛消炎剤……」

 『無駄にいい声』で、所帯染みた悲鳴を上げる。

 キラキラした黄金の鎧が、今はただの重荷に見える。


「ヒィッ!?」

 隣の『No.2 シャルロット』が、椅子から転げ落ちてテーブルの下に潜り込んだ。

 優雅な扇子は床に放り出され、彼女は頭を抱えてガタガタと震えている。


「む、無理……人多い……怖い……」

 ドレスの裾を握りしめ、焦点の合わない目で虚空を見つめる。

 『「対人恐怖症の引きこもり・佐藤 陰美(34歳)」』の本性が露呈した。

「おうち帰りたい……PCつけたい……ログボ受け取らなきゃ……ママー……」


「……ッ、チッ(特大の舌打ち)」

 『No.4 マリアベル』は、聖女の微笑みをかなぐり捨て、椅子の上にウンコ座りをした。

「あー、マジだりぃ。酒持ってこいよ。ストロング系チューハイあんだろ?」

 もはや「か弱いお姫様」の欠片もない。


 そして、『No.3 アルフレッド』が頭を抱えて叫んだ。

「ロ、ロジカルじゃない……! Wikiに載ってない! こんなの聞いてないよぉぉぉ!」

 彼は親指の爪を噛みながら、テーブルの下で丸まった。

「ママー! ママー! 助けてよぉぉぉぉ!!」


 『No.5 クラフト』は、虚空を見つめて完全にパニックを起こしていた。

「し、仕様書を……! こ、この先生きていく仕様書をください!!

 何処にあるんですか!?

 ま、またクビですか!!!?? 『イヤダァァァ!!!』」

 社畜の魂の叫びがこだまする。


 極めつけは、『No.6 セレスティア』だった。

「へ……へへへへへ……風水!! きっと風水が悪いのよッ!!」

 彼女は血走った目で立ち上がり、どこからか取り出した『清めの塩』を乱れ打ち始めた。

「はやく! はやく黄色いペンキ持ってきて女神様!! ラッキーアイテムでこのテーブルクロスを塗り替えなくては! 時が近いんです!!!」


 彼女はテーブルクロスを引き剥がそうとし、その拍子に気持ち悪くなったのか口元を押さえた。

「うッ! ゲロゲロゲロ……(こ、この方向に吐瀉物を捨て去れば穢れが落ちて空気が変わるかもしれない……)」

 『ビチャァ……。』


 カオスだった。

 地獄絵図だった。

 美男美女の皮を被った、『「産業廃棄物」』の展示会だった。


◇◇◇


4. 気まずすぎる静寂(PM 0:30)


 全員が理性を失い、泣き叫び、嘔吐し、阿鼻叫喚となったその時。


「えぇー、みんな刺激が強かった?☆

 『メンゴ! アイノゥ、メンゴなの☆』」


 女神のふざけた声と共に、カチカチカチッ! とスイッチの音が響いた。


 『《 メンタル切り替えスイッチ☆ OFF 》』


「「「「「「はっ!?」」」」」」


 一瞬にして、6人の意識が『「転生後モード」』に切り替わった。

 レオンハルトは腰を伸ばし、シャルロットはテーブルの下から這い出し、セレスティアは口元を拭った。


 全員が、整った顔立ちで互いを見回す。

 美しい金髪の勇者。優雅な悪役令嬢。知的な領主。可憐な聖女……。


 しかし。

 彼らの脳裏には、さっきまでの『「地獄の光景」』が焼き付いていた。


 (こいつ……さっき『ママー!』って叫んでた……)

 (この女……テーブルにゲロ吐いて『風水』とか言ってた……)

 (このおっさん……『クビだー!』って泣いてた……)


 全員が視線を合わせ、そして無言で逸らした。

 心の中の声が、完全にシンクロする。


 『((((( うわぁ……生理的に無理!! )))))』


 だが、逃げれば地獄の転生前に、借金付きで生還。

 普通、生還というとめでたいが、『これほどめでたくない生還なんて聞いたことがない。』


 進むも地獄、戻るも地獄。

 ここに、逃げ場のない『「最悪の共同生活」』が幕を開けたのである。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


女神アイノゥの「ここがダメだよ転生者!」


 『♪ BGM:楽しげなサンバ ♪』


「はい、お疲れちゃ〜ん!

 『ギャハハハハ!』 最高!!

 さっきまでのイキり顔どこ行ったの!?

 

 勇者さん、腰さすりながら『湿布……』って呟くのやめて?

 あとセレスティアちゃん、『ゲロで穢れを落とす』っていう発想は新しいけど、掃除するのは鈴木(No.5)さんだからね!?

 

 いやー、『顔面国宝・中身は汚物』。

 このギャップ萌え(?)こそ、シーズン25の真骨頂だね!」


 『♪ チャリン♪(神聖な課金音)』


『【🔴 50,000 GP GN:冥府の管理者ハァハァナンデス】』

『賠償金1億2000万の請求書ワロタwww 払えなくて臓器売ってこっち(冥府)来る未来が見えるwww 魂の予約入れとくわ』


「おおっと高額GP! 冥府のハァハァナンデスさん、気が早い!

 そうなんだよね〜、彼らがカップル不成立で帰還したら、待っているのは『自己破産』からの『冥府行き』!

 異世界で英雄だったのに、現世ではホームレス! その落差、ゾクゾクするよね〜☆」


『【🔵 1,000 GP GN:愛の女神アフロヘアー(ガチ恋勢)】』

『推し(勇者)の猫背が見たくなかった……。解釈違いです。ファン辞めます。天罰下していい?』


「あ〜あ、勇者くん、女神のファン一人減っちゃった(笑)。

 でも大丈夫! 彼はこれから『もっと酷くなる』から! 天罰下すなら『ギックリ腰』でお願いね♡

 

 さて次回は『Day 3『ライフスタイル・チェック ~地獄のBBQ~』』!

 生活能力ゼロの彼らが、協力してご飯を作るなんてできるのかな〜?

 『肉が硬い』って理由で聖女が暴れる未来が見える!

 

 チャンネル登録と高評価、あと『もっと酷い目に遭わせろ』ってリクエスト待ってるよ〜! 『バイビ〜☆』」

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女神アイノゥの蠱毒 転生成功者集めてシェアハウスさせてみた 駆出伍長 @BootCorporal

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