第3話 くるみ割り人形のように
エラとの生活を始めて4年が経とうとしていた。エラは学校に通い始め、書類なんかはあまりよくわからなかったが、戦後であまりに緩んだ審査を通り、養子にしてしまった。友達は少ないようで「家が1番」と言うのが口癖だ。お互い仕事と学校が終わり、家に帰ると揃わせて買った部屋着に着替える。一緒に飯を食い、同じベッドで眠る。この繰り返しで、慣れれば心配していた程俺らのリズムは乱れなかった。
学校も慣れてきて、私の日常になってきた頃だった。
「エラッ!」
振り返ると大きな口で笑いかける同級生の男の子がいた。
「おはよう、ロバート」
最近ロバートに話しかけられる事の多い様な気がする。いつも私を観察していて、恐らく好かれているのだろうと思う。彼は私が返事をするだけで耳まで赤くなりながら笑顔で駆け寄ってくるのだから。
困るなぁ…ジョシュの為の「エラ」なのに。まぁ、これも一興。そうだ、ロバートともっと仲良くするのも楽しそう。緻密に積み上げられた脚本の上で2人の男が踊るのね。か弱い少女「エラ」のために…あははははっ‼︎ おっと、こんな笑い方じゃないわね?
エラは…「ふふふっ!えへへー 」
手洗い場の鏡の前で笑い分けて見せる。誰も知らないだろうけど。
学校へ迎えに行くと珍しく誰かと話すエラがいた。
「おーい!エラ‼︎帰るぞー!」
車の窓を開け呼びかける。普段ならすぐに来るのに、ただ他の生徒の騒音しか聞こえなかった。内心ザワザワと喚く胸に折り合いをつけながらエラのいる木影へ歩き出す。
「おいっ、エラ…」
そこにはエラの手を掴む少年が居た。何やら引き留めてまで話す事があるらしい。ガキのくせに…明日にでも会えるくせに。
「ねぇ、エラ」
「なに?ジョシュが来てるから行かなきゃならないのだけど」
「じゃ、じゃあさ、一言だけ良いかい?」
「うん?」
「君が好きなんだ…返事、考えておいて欲しい」
そう言って少年はエラの手を握り直し両手で包む様にさすった。俺はというと何も無かったように車へ戻り、運転席でこちらに向かうエラを眺めた。
「ただいま」
「おかえり」
たったこれだけのやり取りが今日の俺には辛かった。
ふと家のソファでくつろぐエラに訊く。
「…好きな子とかいないのか?」
自分でも驚く程に声の裏返るような喉の緊張、波打つ心臓、毛羽立つ全身の産毛。とっさにエラの顔を覗き込むとしばらく見なかったあの冷たい目で満足げな笑みを浮かべていた。恐怖の時間が続く中エラの口元が動き出す。
「いないよ、ジョシュと家に居るのが一番」
いつもの屈託のない自然な笑顔であった。
あぁ、そうだ。エラは俺が一番なんだから。
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