短編小説「ふくれっつらのプリンセス」

Slumber Party

短編小説「ふくれっつらのプリンセス」

 まず言っておくが、俺はモテない。特にテキサス州の田舎町では、俺のようなオタクは女からは全く相手にされない。女から相手にされない俺のオタク病は、どんどん加速していった。


 あの日も、仕事を終えて部屋に篭り、パソコンでオンラインゲームに没頭していた。世界中の俺と同じような奴らと、オンライン上で下世話なジョークや皮肉や愚痴を交わしながら、ゲーム内のクエストを共に攻略している最中にそれは突然起きた。


 その音はまるで、ジャンボジェット機が家の真裏に墜落したような音だった。だが、爆発も炎上もなく、ただ大きな音と衝撃が俺の家を大きく揺さぶっただけだった。


 とりあえず、状況を把握するためにカウチへ出た。焦げた臭いが裏庭から漂っている。慎重に足音を消しながら裏庭へ向かうと、そこには真っ黒で巨大な球体が地面にめり込んでいた。最初は隕石かと思ったが、暗闇に目が慣れてくると、その球体が金属製である事がわかった。扉や小窓も確認できる。恐らく、何かの乗り物だ。


 何がどうなっているのか混乱していたが、オタク病の俺は危機感よりも好奇心が勝った。これを撮影してSNSに公表したら、俺は一躍有名人になれるかもしれない。そうすれば、オタク病ともおさらばをして、人生の何もかもを大逆転できる。特に、今まで俺に見向きもしてこなかった女が大勢言い寄ってくるだろう。


 スマートフォンの灯りをつけ、SNSのライブ配信の準備を始めた。と同時に、俺の頭の中でモールス信号のような音が小さく鳴り始めた。俺は直感で、これはこの球体からの信号だと察した。


 危機感が一気に好奇心を上回り、急いでスマートフォンの灯りを消し、配信の準備も取り消した。だが、自分の身に危険が生じた場合を想定して、すぐに警察へ連絡ができる準備はしておいた。


 頭の中で鳴り続けるモールス信号のような音は、徐々に英語へと変わり、更には女性の声へと変わった。球体の扉が開き、中から人間と同じく二足歩行の生物が出てきた。4本の触手のような腕と、華奢で小さな胴体、丸くて大きな顔。子どもの頃に見たカートゥーンの宇宙人そのものだった。


 足を引き摺りながらこちらへゆっくりと向かってくる。


「怪我をしたの、助けてもらえる?」


彼女は俺の頭の中にそう語りかけてきた。

でも、どうやって。


「傷口を綺麗な水で洗って、布できつく縛れば大丈夫だと思うわ。」


また俺の頭の中で声がした。

彼女をよく見ると口がない。

それに、傷も酷い。


「とりあえず、水と傷薬とリネンを持ってくるからそこにいてくれ。」


そう彼女に伝えると、俺は慌てて家に戻った。洗面器に水を張り、救急箱とベッドシーツを持って裏庭に戻って来ると、彼女は大人しく待っていた。


 このまま彼女の言う通りに傷の手当をするべきなのか躊躇していると、


「怯えなくても大丈夫だから。急に巻き込んでしまって悪かったわね。」


と、頭の中で声がした。


 彼女の声は不思議と安心感を与える。俺の恐怖心は薄れ、彼女の言葉を信用しようと思った。


 そう言えば、どうやって手当てをすればいいのか困惑していたとき、彼女は俺の心を読んでいるかのように語りかけてきた。もしかして、彼女は人間の心が読めるのではないか。


「違うわね。あなたの臭いや心拍、体温の変化から意思を読み解くの。簡単に言えば、察しがいいのよ。どの星も、女って皆んなそうでしょ?」


 やはり俺の考えを敏感に、そして正確に読み取れることができるようだ。だが、彼女が説明してくれたその理屈は、女とは無縁の俺にはよくわからない話だった。


 彼女との出会いは俺の人生に影響を与えた。と言っても、たかが数日間を共にしただけであり、彼女はもういない。あの日から暫くして、彼女は俺の家に居候をしながら帰る手段を見つけた。俺のパソコンをめちゃくちゃに改造して。


 彼女の施した改造は複雑すぎて、俺にはパソコンを元に戻せなかった。恐らく、地球上で1番ハイスペックなパソコンになっているのだろうが、人類が使いこなせる代物ではなくなってしまった。

だが、それは俺にとっては良いきっかけになった。


 彼女は去り際に、俺に一言告げた。


「自分の世界を広げなさい。あなたにはもっとできることがあるわよ。宇宙人の介抱とかね。冗談よ。私もまた自分の世界を広げる旅に出るけれど、気が向いたら会いに来るわ。」


 今の俺にはパソコンがない。だが、現実の世界で仲間を見つけ、自分を表現するようになった。恋人はいないが、カフェの店員と気さくに挨拶が交わせるくらいには成長した。


 あの日、田舎町に落ちてきた球体は、俺の人生の新たな扉を開けたのだ。









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