第五話 小娘の全裸未遂で、また、ぶべらになりました。


 スライム断熱工事のおかげで、ラピスの寝室は劇的に改善された。


 ラピスは「ふかふかじゃ〜、あったかいのじゃ〜」と、壁に頬ずりして離れようとしない。


「おい、いつまで壁とイチャついてるんだ。次行くぞ、次」


「ええー……。もうここで寝てたいのじゃ……」


「ダメだ。寝室だけ良くても、『職場環境』が最悪なら部下は戻ってこない。

 いいか、現場労働者の心を掴む最大の福利厚生。それは何だと思う?」


「給料アップ?」


「それも大事だが、もっと即効性があるヤツだ」


 俺は作業着のポケットから手ぬぐいを取り出し、肩にかけた。


「やっぱ仕事終わりの風呂だろ」


 ◇◇◇◇


 案内された地下の大浴場は、地獄のような有様だった。

 いや、魔王城だから地獄で合ってるのかもしれないが、衛生面での地獄だ。


「……汚ねぇ」


 浴槽にはヘドロのような謎の液体が溜まり、床はヌルヌル。

 湯気はなく、カビと腐敗臭が漂っている。


「す、すまん……。ボイラー……いや、『業火の魔導炉』が壊れてから、誰も掃除しておらんのじゃ……」

 ラピスが鼻をつまんで言い訳する。


「魔導炉だか何だか知らんが、熱源が壊れたくらいで風呂を放置するな。

 これじゃ魔物だって寄り付かんわ」


 俺はズカズカと奥へ進み、巨大な窯のような装置――魔導炉の点検口を開けた。

 中はすすと、石灰化したカルシウム汚れでびっしりだ。


「やっぱりな。配管詰まりだ。魔力切れじゃない。ただのメンテナンス不足による循環不全だよ」


「なっ!? メンテ担当魔物たちは『勇者の呪いにより封印された』と言っておったぞ!?」


「勇者なのに呪いってなんだよ、掃除したくないから適当なこと言ったんだろ」


 俺は足元で震えているスライム『プル』を再び持ち上げた。


「プ、プルゥ……?(またですか?)」


「安心しろ、今度は埋めたりしねぇ。 プル、お前の体液を強酸性に変えろ。できるな?」


「プル!?」


「ここの配管に詰まったカルシウム汚れ(スケール)を溶かすんだ。 いわゆる『パイプユニッシュ』代わりになってもらう」


 俺は嫌がるスライムを、魔導炉の配管口にムギュウゥゥッと押し込んだ。


「プルゥゥゥゥーーーッ!!(酸っぱいのは嫌ぁぁぁ!)」


「頑張れプル! お前が通った後が道になるんだ!」


 配管の中をゴボゴボと進むスライム。

 数分後、反対側の吐き出し口から、ドロドロに溶けた汚れと共にプルがポンッと飛び出した。

 体色が青からドス黒い灰色に変わっている。


 「おう、お疲れ、あとで洗ってやるからな。」


 その直後。


 ゴォォォォォ……ッ!!


 魔導炉が唸りを上げ、配管から熱湯が勢いよく噴き出した。

 溜まっていたヘドロが洗い流され、代わりに透き通った熱い湯が浴槽を満たしていく。

 立ち上る真っ白な湯気。

 地下空間に、ヒノキ(っぽい木)と硫黄の香りが充満した。


「お、おおおおっ!? 湯じゃ! お湯が出たぞギリー!!」


「配管が通ればこんなもんだ。ついでに浴槽のひび割れもプルで埋めといた」


「すごい……! 久しぶりのお風呂じゃ! すごいのじゃ!」


 ラピスが子供のようにはしゃぎ回り、服を脱ぎだそうとしている。

「おい、こら。ハレンチと言う割に、脱ぎだそうとすんな」

  俺は首根っこ掴んで止める。


【ラピス脳内コンピューター】

( 今、わらわが自ら服を脱ごうとしていた

 →桑田がわらわに掛けた幻惑の術か?


 →服を脱ぐのを桑田が止めた

 =桑田がわらわの服を脱がせたがっている!(怒))


「――ッ!! 桑田のハレンチッ!!」


 バッチーーーーンッ!!


 ぶべらッ!!

 なんでッ!?


「あ、あぶないとこじゃった、うっかり全裸にされるとこじゃったッ!!」


 ラピスは腕で大事なトコを隠しながら睨む。


「なんと恐ろしい呪術!!『魅惑のお風呂の術』じゃなッ!!」


 こいつの理不尽さ、すごいぞ。

 こいつひとりで十分、世界征服出来そうだ。


「……と、とにかく、待て。まだ掃除が終わってない。

 一番風呂はデッキブラシかけてからだ」



 ***



 その頃。 魔王城から数キロ離れた森の中で、野宿をしていたゴブリンたちが空を見上げていた。


「おい……見ろよ」

「ああ……魔王城の煙突から、白い煙が出てる」

「あの匂い……マジかよ」


 風に乗って漂ってきたのは、極上の『風呂の匂い』だった。


「魔王軍再建の狼煙のろしだ……!」

「風呂が復活したってことは、サウナもか!?」

「帰ろうぜ! 昨今のダンジョンはシャワー完備が当たり前だけど、大浴場があるのはあそこだけだ!」


 リフォーム業者・桑田ギリーの仕事は、知らぬ間に魔物たちの求心力を取り戻し始めていた。

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